工藤精一郎のレビュー一覧
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この本は表面上は『妻を殺した貴族の監獄の記録』と言うことになっていて、小説の形を取っているのだが、実際はドストエフスキー自身の監獄の体験記と言う形のドキュメンタリーである。
ストーリーと言うものはほぼなく、監獄の情景や人間の、密度の濃い描写が延々となされるため、読み続けると疲れるかも知れない。しかし時々手にとって少しずつ読んでみることで、19世紀ロシアの『滅び去った民衆』、つまり『最底辺の人々』の暮らしぶりに自分を共鳴させることができる。
その意味で、『カラマーゾフの兄弟』よりも現代に流行ってもいいと思える一冊。格差社会の現在の日本の中で、我こそは最底辺だと自称する自虐的な人たちが最近 -
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切れ目なく続く展開と交差の連続。
瀕死のアンドレイと、一度は彼を裏切ったナターシャの再開があまりに美しく、震えた。
導かれるまま、いやらしくもない、劇的な場面の応酬で、☆五つ。
指導者がすべての手綱を握っているかのように思われがちだが、そうではない、抗いがたい何かによって時代が動いていく。
指導者は戦争を始める事もできなければ、終わらせる事もできない。そこに彼の感情や思想はなんの影響力ももたない。
ではいったい、戦争とはなにか?
実際の戦争を細かに描写しながら、個人の心の中や民衆の生活の中にあるそれを見事に浮き彫りにしていく。
戦場と社交界
個人感情と神
それぞれのものだと思っていたものが、 -
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登場人物を覚えるのが大変!汗
ロシア語って覚えにくい、、けど物語が壮大で意外にサクサク読み進められる。
戦闘シーンは個人的に興味が浅いのか、あまり面白いとは思えなかったけど当時の戦争に対して、それぞれの立場からどのように考えていたかが知れて示唆深い。なんといっても現代を生きる私たちでは理解し得ない感情も、地位や性格含めなるほどだからかと多少納得できたのはとても良い読書体験だった。
戦争をイケナイと考えることはそうだしその通りなんだけど、ここまで深く学ぶことにも人間が同じ過ちを繰り返さないためにもとても意義のあることな気がする。感情的にだけじゃなく、当時の背景を知るって凄い大切なことやな。
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ロシア文学不朽の名作。
金貸し老婆を殺害した大学生ラスコーリニコフ。偶然成立したかのような完全犯罪の犯行後の苦悩。家族や友人たちとの複雑な関係性。嫌疑を抱く予審判事との心理的攻防。追い詰められ緊迫した対決。
果たしてラスコーリニコフは逃げおおせるのか、犯罪者として裁かれるのか。
底辺に流れるのはペテルブルグの下層民の貧困生活。特に飲んだくれ元官吏の死や娼婦に身を落としたその娘。悲惨な家族の生活などもラスコーリニコフの心理的苦悩を増幅させ、最後まで目を離さず一気に読み通せる大作。
最初に挑んだのはロシアに興味を持っていた高校時代。今回はインフルエンザに罹り自室隔離状態になったのでゆっくり完読。 -
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自分勝手な考え方により、自分の行いを正当化して犯罪に走ってしまう。これは犯罪を犯す人全般に共通して言える心理だが、その犯罪後の公開により、自分という人間を貶めたり、自分の罪を人に告白することで、罪悪感を軽くしようとする考えや、他人への善行により、人間としての自分の価値を高め様と考え、行動することに非常に共感した。特に、自分の罪に対して自分自身で自らを罰する行動を行うことで、より精神的にも肉体的にも辛い状況に追い込まれること。そこから、自分自身で這い上がる力がない場合には、只、無償なる愛と呼ばれる人との繋がりのみがその人を救う力を授けるだけだと考える。
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ネタバレ読むのにとても時間がかかった。内容は非常に面白いが、時系列がバラバラで、実質短編集のような内容である。
登場人物一人一人に魅力的な個性がある。
これが事実をベースとした話だということは驚きである。囚人の入れ替わりとか、お酒の密輸とか、現代だと考えられないようなことが行われていたと知った。
監獄の中でどのようなことが行われていたのかを知るのは、歴史的な意味でも楽しかった。
監獄周辺地域との交流が盛んだというのは面白い。
監獄の内にも外にも心優しい人がいて、微笑ましかった。もちろんイヤミな人もいたけど、このような人達の助け合いは心の支えになったんだと思う。
ドストエフスキーもそうだが、他のロシ -
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3巻は、ボロジノの会戦の記述(ナポレオン登場)多く、戦争が人々の日常生活にまで及びます。トルストイの戦争に関する考察も入ってきます。戦場の様子は身の毛もよだつ恐ろしさ。
登場人物それぞれの境遇が大きく変化し、読みどころ多し。再会を果たす人々もあり、期待感増し増し。戦場で負傷したアンドレイの心情描写は、白眉です。ピエールの行動にはビックリで、ナターシャと共に心の成長が見られます。
起承転結の“転”に当たる3巻は、まさに「戦争」と「平和(人々の様子)」の核心に迫っているのではないかと思いました。
以下、ネタバレ的感想、つれづれです。
・アンドレイの妹マリヤの身に大きな変化(父の死、領地 -
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ロシア国内と国外(戦争の場面)に分かれます。
【国内】5つの家庭(ドルベツコイ家、ロストフ家、ボルコンスキイ家、クラーギン家、べズーホフ家)の人間模様が混み入っています。貴族の社交場がはじめに描かれますが、考えようによっては、人間同士の駆け引きは戦争のようです。
遺産を巡る争いで、父の財産を受け継ぐのがピエール(男性)。純粋といえば純粋ですが、ごちゃごちゃ色々考えているわりには、何だか肝心なところがはっきりしない人。
そんなピエールの財産目当てに付け込むワーシリイ公爵。自分の娘エレンとピエールを結婚させようと画策します。
そのエレンが魔性の女のようで、うわー怖い!エレンがピエールを誘惑 -
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ネタバレ本書のタイトルは罪と罰だが、テーマとして「愛と許し」があげられる。
殺人を犯した主人公は、ソーニャの愛に触れることで自首へと至り、互いに愛し合っているこを自覚することで希望を見出す。愛されていると感じたからこそ、川へ身を投げることをやめることができた。
一方、スヴィドリガイロフについてだが、解説の中で、ニヒリズムの行き着く先の暗示として彼の自死が述べられている。彼もソーニャと心を通わす前の主人公と同じく、世の中を悲観的な目で見ているが、彼は主人公とは対照的な最期を迎える。彼はドゥーニャを愛していたが思い届かず、拳銃自殺を選ぶ。ニヒリズムが法的な罪ではないにせよ、悲惨な答えに行き着いてしまうこと -
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長年読もう読もう思っていて、なかなか手が出せずにいた「罪と罰」を、ようやく読むことができて、まずは良かったと思います。固く重苦しい話かと思っていましたが、コメディ的な要素も多くあって、それなりに楽しく読めました。
マルメラードフが死にかけているところに、派手派手な格好でやってくるソーニャなんか、哀しいけれど、笑ってしまいます。ラスコーリニコフの母親のおろおろしたところもとてもコミカルで、これを楽しいと言ってしまっていいのかどうかとも思いますが、楽しいです。
文庫本の裏表紙にあるあらすじですが、全然本質をついていないように思いました。罪の意識とか良心の呵責とか、そういうことかなぁ。まぁ、広く