畑野智美のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
「南部芸能事務所」シリーズの3作目。
前作でようやくコンビ名が決まった“溝口新城”だけど、だからと言って彼らが芸人として認められるわけでもなくTVに出られるようになるわけでもない。
お笑いブームが去った後の厳しい世界でやっていけるかどうか、相変わらずの境遇の中で自分の将来だけでなく、自分の周りの人の将来も含めて、決して楽天的になれない思索がグルグルと回る。
このシリーズ、世代も境遇も私が生きる世界とは全く違う世界の話なのだけど、何となく身につまされることが多いなぁ。
一緒に暮らす男女間の感情の機微、家族が子供に寄せる思い、姉が弟を見守る気持ち、夫婦になろうと思う時の決意、これまで生き抜いてきたことへの自負と過ごしてきた時間への悔恨。
主人公の新城と溝口だけでなく、周りで息づく人々のそれぞれの生活を通して語られる、それぞれの人生に対する思いが、なかなかしっかり沁みてくる。
ゆっくりと、本当にゆっくりと進む話は、ようやく最終盤に吹いた“春の嵐”によって動き出すか。一筋縄で進む筈もない1年がかりのオーディション番組、次巻をまた楽しみに待つ。 -
Posted by ブクログ
2017.2.17〜2017.3.7
軽い気持ちで本を読みたいと手に取った作品。
本自体は薄かったが、ただの恋愛小説ではなくとてもメッセージ性がある本であった。
感情8号線。環状8号線。
荻窪、八幡山、千歳船橋、二子玉川、上野毛、田園調布
距離は近いのに、遠い。
東京ってそういうところ。近くにあるのに手に入らなくて、幸せとは遠い街。
すぐそこにある幸せを掴めず、遠回りしながら恋をしたり仕事をしたりして生きている。
そんな女性にとても共感した話でした。
性格も容姿も全て合わないけど、それでも
共感したのは、幸せになるための選択を私たちはしているからだと思う。 -
Posted by ブクログ
どんだけ狭い街なんだと頭の中で突っ込み苦笑い。でもそれは些細なこと。内容は若者らしさ全開でとても面白かった。性描写に少し違和感を覚えたけど、なるほど女性作家さんということで納得。男性が女性に対して誤った固定概念があるように、逆も然りなのかもしれない。
あらすじ(背表紙より)
佐藤善幸、外食チェーンの正社員。身に覚えのない女性問題が原因で左遷された先は、6年半一度も帰っていなかった故郷の町にある店舗だった。淡々と過ごそうとする善幸だが、癖のある同僚たち、女にだらしない父親、恋人の過去、親友の結婚問題など、面倒な人間関係とトラブルが次々に降りかかり…。ちょっとひねくれた25歳男子の日常と人生を書いた、第23回小説すばる新人賞受賞作。 -
Posted by ブクログ
ちょいと駄目な感じだけれども一応社会に順応している雰囲気イケメンが、いわれの無い女性問題の中傷書き込みで本社を追われ、生まれ故郷のファミレスに配属になるところから始まります。
都落ちの上に生まれ故郷に配属という事で、少々腐り気味となりますが、6年ぶりに会う親友や、父親以外の家族との触れ合いで次第に心がほどけて行きます。
この父親以外という所が味噌で 、女好きで家に寄りつかないくせに息子の事が大好きで、そんな父親の女癖の悪さが自分に遺伝しているんではないかと嫌悪感がありまして、しかもそんな父親の女性問題が善幸に直接の大問題を起こす事となるのであります。
この善幸くん基本的に年上好きで、今まで付き合った女性は全員年上。この話の中で付き合い始めるのも年上です。
僕も年上好きのようで年下は1回しか付き合った事ありませんが、彼は逆ナンパ受ける位なので雰囲気イケメンとはいえ結局かっこいいんですよきっと。うらやましい。
最近の若者のけだるい毎日を描いた話なんだろうと、半分鼻ほじりながら読み始めましたが、いい具合にだるい感じと一生懸命な感じが同居していて、自分の若者時分と重なり合う部分が有りまして、結局とっても楽しめました。 -
Posted by ブクログ
私が父のことをあまり良く思わないのは、きっと自分と似てるからなんだろうな、特に自分の嫌なところが。
歳を取って、鏡に映る顔の形やちょっとした仕草や口調が似てくるのを自覚すると、益々そう思うようようになった。
だけども、ほんとは自分の嫌なところは、多少の遺伝はあったとしても、自分の人生の、自分の責任なんだよね。
息子を持って、二人とも独立した今となって、もっとこう接してあげていたら良かったとか、こう育てていれば良かったとか思うけど、彼らの人生には、私はまた間接的にしか関与できなくて、彼らの人生は自分で作り上げるものなんだよ。今度の次男の就活でつくづく思った。
ずっと長い、父と私、私と息子たちとの生活を経て、そういうことが漸く分かって来たのも今更なのだけど、この小説の、主人公と父の関係を見ていて、そういうことを改めて思った。
前置きが長くなったけど、この小説、ファミレスのチェーン店に勤める主人公・佐藤善幸がネットに書かれた良からぬ噂によって、都心の店から、遠く離れた故郷の町の店に飛ばされてきたところから始まる。
幼馴染みのシンゴ、その母の茜さん、高校の同級生でシンゴの恋人の吉田さん、行きずりから恋仲になった綾さん、女にだらしない父、それを赦してこの日まで来た母と祖父、店の上司・同僚とアルバイトの面々…、これらの人との交わりの日々がグダグダと描かれる。
それにしても、このグダグダ感がリアル過ぎ。
したいことが何もない、将来の確たる希望もない、ただ生きるために生きている、欲望に任せて彼女と交わる、執着もなく、愛情も薄く、若者だけでなく、多分人間誰しもが持つ怠惰な欲望がこれでもかというように描かれて、自分の怠惰な心にグサッと来る。
だけども、それでも「立派な社会人になる」程度のささやかな望みの中で、恋を実らせ、仕事に生きることも、ちゃんとしたひとつの人生と思わせて、エンディングのささやかな幸福感が余韻あり。 -
Posted by ブクログ
『大人になったら、』という題名に興味を持ったので読んでみた。
解説にもある通り、葛城命という主人公の身の上やその思想を描く筆致は見事だった。
小説内では基本メイと呼ばれるが、彼女はいわゆる「35歳独身の拗らせ女」と呼ばれる人である。そのことは解説でも書いてある。
彼女はキートスという喫茶店の社員であり、出世欲と結婚願望は、明確には意識していないものの「なんとなくある」。これも本当に「よくいる」という感じだ。
つまりは本当に「片腹痛い」もっと言えば「イタイ」と思わせる書きぶりであり、読者の感情を揺さぶるに足る表現力があるということの裏付けであろう。
しかし結局、私の中に最終的に残った読後感は、
なんとも言えない不快感や疲れであった。
多くの読者に読まれて感情を動かす物語世界を描くことと、本当の名作とされる小説の違いは、
まさしくこのことであろう。
小説を読んだ後、自分の中に何が残るか。
不快感を味合わせるくらい良い表現で分かりやすい作品と、なんだかよくわからないがためにさらに深く読んで考える必要のある作品とがあれば、
私は後者が好きだ。
その点でこの小説のよい点を挙げると、葛城命という人間を反面教師的に受容できる点であろう。
羽鳥先生との将来が暗示されて物語は幕を閉じるわけだが、私はその先にとてもではないがいい未来は想像できない。
いい未来を想像させないことは作家としては凄いのだ。しかし、ネガティヴなニュアンスで心の箱に終われてしまうのだ。
それは果たして「いい小説」と言えるのだろうか。私はそれが疑問なのだ。
これは自分の中である種の「教訓」となった。言ってしまえば、「イタイ人と付き合うと大変だ」ということだ。
教訓となっていることは凄いのだ。
しかし、それは「ネガティヴな教訓」なのだ。
良いか悪いかはさておき、とにかくそうなのだ。
しかし、現代の女性を象徴するような社会的な姿とそこに息づくリアルな心情があることも確かに感じるため、そこに考える余地はあるような気がした。
ジェンダーの観点からもう一度読み返そうかな。