畑野智美のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
学生の頃は1年に100本くらいの映画を見ていたが、その頃はシネコンは無く、大きなビルにいくつも映画館が入っているところはあったけれど、チケット売場はひとつでも、地階が「東宝シネマ」、2階が「宝塚劇場」、5階が「スカラ座」、7階が「東宝名画座」てな感じで、モギリや売店もそれぞれの階にあるという作りだった。
あれから何十年、仕事が忙しくて映画どころじゃなくなってしまい、子どもが大きくなればドラえもんやコナンにも行かなくなったので、シネコンに足を運ぶこともなくなってしまったなぁ。
それにしても映画館には色んな役割があるものだ。ボックス(チケット売り場)、フロア(もぎり・清掃)、コンセッション(飲食売店)、ストア(グッズ売店)、プロジェクション(映写担当)に、オフィス(事務所)。
昔だったら上映中は映写技師以外は暇だっただろうが、開演終演が次々とやってくるシネコンでは四六時中働いていなければならないことがよく分かり、映画が好きじゃないと務まらないと思うけど、好きというだけでも務まらなさそうな仕事に思えた。
そういうシネコンでクリスマス・イブの夜に働く人たちの物語。
現場は皆アルバイトで、半分が学生、残りがフリーターか主婦という構成の職場だが、若い人たちが人との距離の取り方が分からず礼儀や敬語も教えられずにいきなり放り込まれた社会の中で、他者とどう付き合っていくかに戸惑い、正規非正規格差や同調圧力には敏感に、すぐにその歳になることも分からず少し年上の人をおじさんおばさん呼ばわりしながら、それぞれが悩みながら生きている、そんな感じが良く出ている。
少ない社員の一人、トーキョーに対する見方が人それぞれで、「本当は良い人」って訳でもなく、多分いい所もダメな所もあるというように書かれているのも良い。
七人の侍、オズの魔法使い、仁義なき戦い、スター・ウォーズ…、ところどころに有名なセリフが入るのも嬉し。
ただ、それぞれの話の終わりが全て佳い話風に収まっちゃうのにはいささか不満。
西口さんと千秋ちゃんと片山さんの話はそれでも良いけど、菊地くんが何故家業を継ぐのを辞めて正社員になってみようと思うのか分かりにくいし、加藤くんの場合、昔の彼女がああ言ってたのを聞いたら寧ろ未練がぶり返すんじゃないかと思うぞ。
岡本くんと島田さんにせよ、物語的にはあれで良かったんだろうけど、それでも私は、岡本くん、折角のチャンスなんだから田舎へ引っ込むことはない、二人で東京へ行くんだ、と思うのだった。
全体的な雰囲気は結構好きだが、この作者らしくなくほわ~んとした感じになったのはどうよと思っていたが、「あとがきにかえて」を読むと昔の良き思い出を小説に仕立てたようで、そういうことかと受け入れた。 -
Posted by ブクログ
ずっと気になっていた作家、畑野智美さん。
夏に文庫化されて買ったものの積読。
夏が終わる前には……と思いつつ、もう秋になってしまった。
第一文の赤い色が印象的。
赤と言えば、「久野ちゃんの赤い傘が見つけられない。」も好きだ。
見つけられなのだから視界に赤はないはずだが、赤い傘がどこかにある映像を想像してしまう。
読みやすく、イメージの湧きやすい文章だ。
とはいえ、裏表紙の内容紹介からわかる通り、人間関係はとても複雑な話だ。
現実でここまでごちゃごちゃすることはそうないと思うが、その複雑さの中で主人公・涼太の姿はどこかリアルに映る。
どんな人間にだって仲のいい人・悪い人、好きな人・嫌いな人はいる。
そして、他人から信頼してもらえるような人でも、知らぬ間に誰かを傷つけてしまうこともある。
さらには、傷つけたことに気づいてもどうしようもないことだってある。
ましてや涼太は高校生なのだから、大人のようにうまく立ち回ることは難しい。
青臭く、ぶれることもあるけれど、それでも好きな子のためには一生懸命になってしまう涼太が微笑ましい。
屋上から動き出すラストシーンは爽やかさ抜群。
少し頼りない涼太ではあるが、この夏がきっかけで覚悟を決めて、大人になっていくのではないかと思う。
一週間に満たない話だというのには驚きだが、高校生の頃の一日は濃密だったなぁと思い返した。