畑野智美のレビュー一覧
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南部芸能事務所シリーズの4作目。
TVのオーディション番組が始まったはずだが、その様子は殆ど描かれず、それに臨む、最初に新城、それから先輩ナカノシマの3人とライバルであるインターバルの2人の話が交互に挟まり、最後に溝口と、それぞれの日常と心情が語られる。
このシリーズ、いつも思うのだが、自分とは全く異なる世界や世代が舞台ながら、身につまされるような話が多い。
離れた場所にいても、家族三人で、一緒に頑張るんだ(by中嶋)。息子が生まれ名前を考えた時のことを思い出す。
約束を守れずに逃げ回っていた後ろめたさがあり、それを咎められそうで、僕は敬語でしか話せなくなったのだと思う(by中野)。うちの息子にも敬語で話されるのだけど、そういうことなんだろうか、切なくなるね。
時間をかけてもいいから、一番欲しいものを選びなさい(by亡くなった溝口の父)。と言ってあげたい…。
なりたいもののためには、見たくないものだって見なくてはいけない(by新城)。トリオでも、コンビでも、恋人がいても、友達がいても、子供がいても、俺達は一人なんだ(by野島)。人生は厳しい。
努力というのは、誰にでもできるように思われるけど、そんなことはない。周りの支えが必要になる。ボクが努力できる環境を母が作ってくれた(by溝口)。だけども全く一人ということはないんだよと。
親子の情、友情、男女の仲、先輩後輩…、そうした近しい人との関係に加え、他人からどう見えているのかも気になり、行ったり来たりする思いに色々としんみりしみじみ。
オーディションの結果を絡めてヒリヒリするような雰囲気の中、どの話もイジイジしていた割に最後の割切りがあっさりしているが、そうした割切りや忘れる力がないと生きていくのはキツイしな。 -
Posted by ブクログ
3月に読んだ「南部芸能事務所」の続編。単行本は1年の間があったようだけど、来月にはシリーズ4作目が単行本で出ているからだろう、2ヶ月続けての登場。
前作で“溝口新城”が初舞台を踏んだところからの続き。
新城が初めて貰ったギャラの500円玉を見つめてあれこれ考えたり、溝口のことを好きな鹿島さんがカフェを辞めて事務所のバイトになったり、そんな話を読んでいると、何だかありきたりの話になっちゃたなぁという感じだったのだけど、野島が再び原点を見つける話や、中野がバイトする映画館に勤める古淵さんの話や、長沼に去られて目が覚めた川崎の話には、自分の好きなことをしながら生きたい働きたいという理想と世の中そんなに甘くはないということがせめぎ合い、今更ながらに働くことの意味について考えさせられる。
『何がしたいとか、どうなりたいとか考えられる気持ちが、私にはない。平均的に、みんなから遅れずに、就職できれば、それで良かった』なんて古淵の科白、我が身に返してみれば自分が無事に会社生活を送れてきたのは単に幸運だっただけであることが良く知れる。会社生活に悩む息子を持つ身としては尚更に…。
肝心の“溝口新城”については周辺の人のエピソードを通じて語られるだけだが、終章、『コンビになるっていうことは、お互いに人生を預け合うってことなの』という溝口の母や『適当に決めた名前を二人で適当じゃなくしていくのよ。ダサい名前を二人でかっこ良くしていくのよ』という社長の言葉に背を押され、漸くコンビ名が決定する。
母や社長や先輩とのやり取りがひとつずつ積み重なって二人の成長に繋がる様が心地良く、よその事務所に所属する有望若手コンビの登場もあって、これから続くお話に期待を持たせる。
『こんな人生になるはずじゃなかったって思ったことある?』って、そりゃあ、大概の人はそういう感じなのだろうけど、『あるわよ。何回も。でも、いいの。それ以上の人生を送らせてもらったから』と言えるようになれるといいね。 -
Posted by ブクログ
面白かったな。最近タイムマシンものをよく読んでいるんだけど、これはその中ではドラゴンボール的な時間枝が増えるタイプの物語。タイムパラドクスやタイムマシンの仕組みについてめちゃくちゃ知りたいのに、それを横に置いておいても物語が良かったよ。全く辻褄がよくわからないんだけど、心打たれた。
ただ、そのからくりがこの物語の本質じゃないんだな。この物語は捻くれた主人公が気持ちを通わせられた相手を一瞬で失うんだが、それによりこいつはそれ以外の人たちと自分をも蔑ろにする。先輩の魚住さん、ヒロインになったかもしれない存在すら蔑ろにする。その後彼は罰なのかの如く時間の迷子になる。タイムトラベル漂流者、遭難者になる。これが罰なのか救いなのかはわからないが、そこで彼は少しずつ確実に救われていくんだな。悲しい再生の物語なんだ。
主人公はあることから過去に戻りたくてタイムマシンの研究を始めるんだけど、その彼の前にあっさりとタイムマシンが現れる。そして、その説明は誰もしてくれない。どういう理屈なのかも、どうやって作ったのかも。主人公は過去で、過去の自分が死ぬことを目の当たりにする。でも主人公の存在は消えたりしない。既に連続性がないのか? どういうことだ? これはラストで少し他のタイムトラベラーが出てきて明かされるんだが、ただ考えてみるとこれもおかしくて、主人公が戻った9年前の時間枝には既に誰か他のタイムトラベラーが未来から来ていてロケットの破壊を防ぐんだけど、これはどういうことなんだよ。主人公は普通(?)に9年前に戻っただけなのに、どうしてそこは既に自分の9年前の過去じゃないんだろう? つまりこのタイムマシンは既に過去や未来に移動する際に自分の時間枝じゃないところを狙いすらする、ってことでしょう? もうこれはカオスすぎて理解が追いつかないし、その解説もされない。とにかくタイムパラドクスが発生するんだ、時間枝が分岐してしまったんだと言うのはわかるんだが、恣意的すぎると思う。
なので、この物語ではタイムマシンはあくまで舞台を作る装置でしかない。鮮やかなまでにタイムマシンを設定に落とし込んだ面白いアプローチ。冒頭部分を読んで素人くさい文章に一瞬驚いたが、読み終わる頃にはしっかり面白かった。まあ救いはないんだけどね。時間を漂流して主人公はそのままなんだけどね。タイムマシンの出てくる物語の中では異色だと思うし面白かった。 -
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ネタバレ現実的な小説。
35歳の独身女性が主人公
最初の書き出しと、最後の一文「この街の春は、東京よりも遅く来る。」が良かった。
物語の95%までの展開はその通りだと思った。
でも最後は、9番バッターが逆転サヨナラホームランを打ったかのような展開になった。
物語の中では、9番バッターがホームランを打つのに納得するような理由があまり感じられなかった。
確かに主人公はフウちゃんや父との距離の置き方という問題に結論を出した。これは主人公の内面の成長と思える。
しかし、相手の人が、告げずにいなくなった主人公の転勤先を聞き出して、転勤先に来るまでの熱量を持つに至った理由は何だったのだろう。相手の人が「好きな人のためならば、大学院を中退するほどの個性」を持ち合わせてることが理由なのだろうか。
たぶん、現実では打たれることのない逆転ホームランなのだと思う。
付き合ってもいないのに、北海道に異動になった後も追いかけてこようとするなんて、そうそう起こりえない。
あえて、起こりえないと思うような展開を書いたのだろう。
物語の主人公の春を喜びながら、一方で読者は自分自身が一発逆転のない、リアルな現実を生きていることを突きつけてくる小説だと感じた。
◯以下チャッピーと考えた追記
・タイトル「大人になったら、」に関して
大人になると、人生が必ずしも努力や成長に比例して好転するわけじゃないことを知る。
人間関係も、恋愛も、仕事も、「ちゃんと生きていれば最後に報われる」というほど単純じゃない。
自分の人生では、9番バッターが突然サヨナラホームランを打ってくれる保証はない。
そこが、ちょっと寂しい。
でも同時に、そこに大人の希望もあると思う。
「努力すれば必ず報われる」という子どもっぽい希望じゃなくて、
「報われる保証なんてない。それでも、自分の人生を少しずつ良くしていく」
という希望。
これって、かなり大人っぽい希望なんじゃないかな。
人生には逆転ホームランがないかもしれない。
だからこそ、ホームランを待つんじゃなくて、毎日少しずつ塁を進めていく。
(試合がまだ終わってないことを信じながら) -
Posted by ブクログ
畑野さんの作品を読むのは、今回で三つ目です。
最初から、二つの疑問を持って、楽しく読むことができました。
主人公の夏帆は、付き合っているヨシくんとなぜ別れる決心がつかないのか。
また、編集者の貝塚さんとは今後どうなるのか。
畑野さんの作品は、お金のことや貧困のことを絡めたものが多いので、とても現実的な頭になれます。
登場人物それぞれが、色々な事情を抱え、それでももがきながら、やりくりしながら生きている。
この作品をきっかけに、PMS(月経前症候群)について学びました。
しんどいよな、女性は大変なのだなと改めて思いました。
一つだけ、かなりひっかかったことがありました。
それは村上さんが、急にうつになったことです。
夏帆が、村上さんのことを嫌うように、僕も同じく、彼を非常に疎ましく思いました。
女ったらしだし、威圧的だし、後輩にパワハラするし。
そんな彼が、きっかけがあったにしても、うつまでに発展していってしまうのに、かなり違和感を感じてしまいました。
それに対して、夏帆の元編集者の松島さんのことは、好きだなと思いました。
なぜかというと、世間や人の価値感を他人に押しつけないからです。
彼女が、40歳でくも膜下出血で亡くなってしまったのは、大変残念な気持ちになりました。
本作で、主に独身女性や主婦、シングルマザーそれぞれの大変さについて知ることができました。
色々な視点に立ち、新鮮な想いで読めて、
良かったです。
最後に……
現編集者の貝塚さんのセリフがすごく良かった!
かわいい人より、かわいらしい人の方が魅力的。
確かにそうなのかもしれない! -
Posted by ブクログ
ネタバレ婚約者を事故で亡くして眠れなくなった女性が、たまたま入った寝具店で店長に親身に接してもらい、その後その店でパートとして働き始めます。そこでさまざまな理由で眠れなくなって悩んでいるお客様や、仕事仲間との交流を通して、少しずつ前に進んでいきます。
ストーリーもよかったけど、時々出てくる接客シーンでの枕やマットレスの説明が興味深かったです。あとから知ったことには、著者は寝具店で働いていたことがあるそうです。読み終わった今、自分に合う枕とマットレスが買いたくてたまりません。
ラストはちょっと切なかったので、主人公のその後が気になります。幸せになっていてほしいです。