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いとや手芸用品店を営む木綿子は、35歳になった今も恋人がいたことがない。台風の日に従業員募集の張り紙を見て、住み込みで働くことになった28歳の光は、母親が家を出て以来“普通の生活”をしたことがない。そんな男女2人がひとつ屋根の下で暮らし始めたから、周囲の人たちは当然付き合っていると思うが……。不器用な大人たちの“ままならなさ”を救う、ちいさな勇気と希望の物語。
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Posted by ブクログ
こういう、ゆるやかな進行の小説大好き。 ヨルノヒカリくん、壮絶な子供時代を送って。 幸いにも成瀬くんご家族に助けられて。 この成瀬一家が本当に素敵だと思う。 あたしもしなきゃいけなかったな…と、思うことが皆無ではないわ… そして、成瀬くんのお嫁ちゃんもとても好き❤️ こういうひとたちに囲まれ...続きを読むて過ごしたいなあ… ある意味、それでも私も周りに恵まれているなと、改めて思えたし。 いや、良い小説だ。
なんか好きだ〜この作品 初めての作家さんだけど静かで優しい文章 手芸好きのわたしが表紙の可愛さに借りた作品 恋愛感情がわからない木綿子は誰にも知られないように生きてきた。おばあちゃんの後を継いだ手芸店で好きな物だけに囲まれた日常は平和だけど寂しさに耐えられないとも感じている。 そんな時求人募集の張...続きを読むり紙を見てやって来た夜野光は住み込みで働くことになるのですが、それは周りの人達には理解できない2人の関係で… 光の育ってきた環境が悲しいの。゚(゚´Д`゚)゚。 光も自分の感情を出さずに生きてきたから 木綿子と光の関係はゆっくりゆっくり進むし悲しい程焦ったい。 でも内容が暗くならないのは文章が優しいからなのか? ネグレクトや多様性の話は正直満腹気味で最近あまり読む気になれなかったけどこの作品は良かった! 畑野智美さん他の作品もぜひ読んでみたい♡
手芸店の雰囲気がとても良くて、私もこんな手芸屋さんで、またものづくりをしてみたいなと思った。 そして、ひかり君と木綿子さんの関係性がなんとも心地良くて、恋とか愛とかそういうんではないけど、お互いを大切にできる関係がとても心あたたまり、じーんときた。
以前に読んだ「世界のすべて」にも、通じているような多様性を意識させられる。タイトルから想像つかなかったけれど、日常のごはん描写がたびたびあるので、おなかが空いた…オムライスもクレープも食べたいです(*´﹃`*) 『人と違うから、社会の隅で生きていこうとかも、思わなくていい。…うんざりするようなこと...続きを読むを言ってくる人もいるかもしれない。でも、胸を張っていれば、何も気にせずに付き合ってくれる人が周りに増えていく。そのうち、自分のいるところが真ん中になる。』 人と同じじゃないことで、悲しくなったり、苦しくなったりしてしまう。同じである必要はないはずなのに、隣の芝が羨ましくなる。あんなふうに生きたかったなー、どうして私はこんなことになってるんだろう。個人的なモヤモヤフェーズにちょうど差し掛かっていたので、優しく寄り添ってくれて、それはそれは励みになった1冊だった。 2025.7
手芸の魅力が読者の目に、細胞に、染み渡っていくような作品だった。 手芸だけではなく、料理がでてくるシーンではどんな料理でどんな味のものなのか実際にイメージができるような描写で、猛烈にオムライスを食べたくなって夜ごはんに食べたくらいだった。 名前のない関係性は、世間の目を気にすると居心地が悪く感じるか...続きを読むもしれないけれど、当人同士にとって心地よいものなのであればそれは本当に貴重で素敵な関係なのだと思えた。 手芸が、性別やバックグラウンドが違う人同士をも繋いでいく。人との出会いは色んな形があって、わたしもそんな経験をしてみたいと思った。
心がささくれ立っている時に読んだので、この優しい空気が心に沁みた。 子供の時から大変な人生を過ごし、安心できる家族を持てなかったひかり。そして、恋愛に興味の持てず性的なものにも拒否感があり悩む思いのあった木綿子。悩みながらも頑張ってきた二人がお互いの癒しとなるような、温かい居場所ができたこと、本当...続きを読むに嬉しく思った。お互いがお互いのまさに「ひかり」なんだと思った。 司さん、その司さんを理解する家族、ひかりを家族あげて大事にしてきた成瀬家、その成瀬がひかりのことをとても好きであること。心がジーンとした。こういう心が温かくなる小説を読むと本当に幸せだなと思う。
前情報なしで読み始めた。畑野智美さんの本は「大人になったら、」に続いてこれが2冊目。 タイトルの「ヨルノヒカリ」。序盤で2つの意味を知る。でもそこからこの物語がどこに向かうのかわかりそうでわからなくて、先が気になって読むのを止められず一気に読み終えた。 呼んでいる途中、朝井リョウさんの『正欲』を...続きを読む思い出した。 多様性って何なのか。普通って何なのか。 わかるような、わかってるような、よくわからない。 日常でも、その感情はたしかに生まれているけど、うまく言葉にできない感覚っていっぱいある。 そんな感覚や、「普通」って感じるものと勝手に比べて感じるもどかしさや不自由さに寄り添ってくれるような物語やなと感じた。 チャンチャン、って終わらず、物語に余白と自由さを残してくれる。自分好みの本やった。
作中の「人と人の関係性を表す言葉は、とても少ない。そのどれに当てはまらなくてもいい」という言葉が深く刺さった。 価値観に正解はないこと、「普通」は「普遍」じゃないこと、自分の「好き」を曲げないことの難しさとかを説教臭くも湿っぽくもない温度感で描いていて素晴らしい。 あと登場人物も基本的善人だけれど無...続きを読む闇矢鱈に良い人というわけではない実在感をもてるバランスで描かれていて、自分の周りにいる人を思い浮かべてみて「自分も周りの人に恵まれているな」とあらためて思えた。
恋人という関係性に固執せず、周りの目は気にせず自分たちの納得する関係性で過ごしていくのもアリだなと思えた。
光は家族というものがわからない。 木綿子は恋というものがわからない。 自分が「普通」とは違うということに悩む2人が、小さな一歩を踏み出すまでの9か月間を描くヒューマンドラマ。 物語は主人公の2人、光と木綿子の視点で交互に描かれていく。 ◇ 大型台風が町を襲ったその日、強...続きを読む風で飛ばされた物干し竿がアパートの部屋の窓ガラスに突き刺さった。たちまち吹き込む雨風。 6畳ひと間の部屋が居場所もないほど水びたしになっていくのを見て、光は隣の駅近くにある健康ランドへの避難を決めた。 駅に向かいながら、光はこれからの身の振り方を考える。 働いていたレストランの閉店まで1か月を切っている。蓄えもさほどないため早く次の職場を決める必要がある。 おまけに次の住居も早急に探さなければならなくなった。台風被害で部屋が住める状況ではないからだ。 取り壊しが決まっている今のアパートの退去期限は2か月後という約束だが、今さら修復は頼みにくい。もう退去したほうがいいだろう。 とにかく職場と住居探しを急ごう。 隣駅を出た光に対し、威力を増す雨風は容赦ない。ビニール傘は一瞬で壊れた。全身ずぶ濡れで商店街を通っているがどの店もシャッターが下ろされ照明は消えている。 途中で目についた店の軒先で一旦休憩しようと近寄った光は、店の壁に貼り紙がしてあるのに気がついた。貼り紙にはこう書かれていた。 『従業員募集! 住み込み可!』( プロローグ ) * * * * * 様々なタイプの人たちが登場していて、とてもおもしろかった。また、現代の社会問題の数々も取り上げられていて、いろいろと考えさせられる作品でもありました。 主人公の1人、夜野光。 いわゆる毒母からネグレクトに近い育てられ方をした。美人の母に似た顔立ちをしており、幼い頃には短期間同居した母の恋人から性的虐待を受けそうになったこともある。 最終的に母親に捨てられるのだが、幸い祖父母の支援と親友の成瀬一家の支えがあり、道を外れることなく成長した。 ただ、成長段階において「家族像」がまったく作れておらず、家庭を持つ自分をイメージできない。さらに何かのはずみで感情を爆発させるところがある自分に嫌悪と恐れを抱いており、人と親密な関係を結ぶことを避けようとする。 そんなことから28歳になった今も、将来への夢や希望を抱けないでいる。 もう1人が糸谷木綿子。 木綿子には恋愛感情というものが昔からわからない。美人で明るく気立てもよいため、男子から告白されることは少なくなかったのだが、その「恋する」という気持ちが理解できないでいた。 それでも高校・大学時代には誘いに応じデートもしてみたが、手を握られただけで気持ちが悪くなってしまう始末だった。 自分はそういうタイプなのだと思うことにしたものの、人目を引く美人であるゆえ勤務先でも恋人や結婚について詮索されることが多い。そんな日々に疲れていたところ、手芸店を営む祖母が亡くなったのを機に退職し、手芸店を継ぐことにした。 店の客は常連さん中心で、そのほとんどは女性。木綿子は元々、休みの日に祖母を手伝いに来ていたこともあり、顔見知りの客が多いのもよかった。 多数の好奇の目に晒されることがなくなって、やっと落ち着いた。趣味の手芸を活かせるということもよかったのだろう。 とは言うものの35歳になった今、生涯1人きりで生きていくことにそこはかとない淋しさを感じている。 と、なかなか深刻な人物設定です。 主人公がこうだと、普通は暗く重いストーリーになりがちだけれど、そこはさすが畑野智美さんです。展開を速くして重暗い空気を引きずらず、光と木綿子の人間性のよさをほのぼのと描くことで読者にひと息つけさせてくれています。 例えばこの2人の会話がなんと言ってもいい。 いつも遠慮がちに、そして敬語で話す光ですが、家事の苦手な木綿子に代わってその一切を引き受けているだけあって家内に関することはきっちり言います。 年下で子犬のような可憐さを持つ光にフランクに話しかける木綿子。でも光が少しでもしょげた顔をすると、慌ててフォローしたりもします。 ( なんて微笑ましい! ) 料理人の仕事を探していた光。学校で服飾を学んだ女性や手芸店で働いた経験のある女性を探していた木綿子。 本来ミスマッチとなるはずの2人の出会いが台風によってもたらされたという設定が、とてもよかったです。 さて主な脇役陣です。 恋愛依存の女性が2人出てきます。光の母親の由里と、木綿子の親友の真依です。同じ「恋多き女」でも2人はまったく違います。 自分に言い寄ってくる男 ( 結構いる ) なら誰とでもくっつくのが由里です。 由里自体が、知性もなければ人間的な奥行きもないという、見てくれだけの薄っぺらな女です。 そんな由里に言い寄る男にろくな人間がいるはずもなく、アパートに居着かれ、暴力を振るわれた挙げ句、捨てられる。 そんなことを繰り返し、ついには光を置き去りにして男と夜逃げしてしまう。結局、出奔先でも男に捨てられ病死する。 という絵に描いたような、色ボケで身勝手な因業女です。 一方、恋は好きですが相手をきちんと見極めるのが真依です。自分を決して安売りしない。 大手広告代理店でバリバリ仕事をしているだけあって、頭の回転が速くなかなか気が強い。言いたいことははっきり言う。 ( 恋が長続きしないのはそのあたりに理由があるのではと推測します ) 木綿子にとって、よき相談相手であり頼りになる友人でもある。 と、なんとも魅力的な女性です。 相手任せの恋に終始した由里と自分をしっかり持って恋に臨む真依。対照的な「恋多き女」が印象的でした。 次は、光と木綿子に関わってくる2人の男です。 光の小学生時代からの親友で恩人とも言える成瀬良一と、出版社に勤める編集者で木綿子についての記事や本を企画した日向です。 どちらも至極まっとうですが、そのまっとうさの使い方に違いがあります。 成瀬は、教室で1人になりがちで小柄なため虐められやすい光の面倒を、何くれとなく見てやるようになります。また姉とともに光の身の回りのことにも気を配り、両親に相談したうえで再々、光を家に呼び食事や入浴、団欒など心身のケアに努めていきます。 ( 両親がよくできたステキな人たちなんでしょうね ) また、光の祖父が光と同じアパートに越してきてからは、祖父にも気を遣って始終顔を見せに来たりもするのです。 と子犬のような光を好きになった成瀬は、少年時代の光にとっては保護者のような存在でした。 日向は優秀な編集者で、木綿子の作る小物をSNSで知り、まず雑誌で作品を取り上げ、続いて作品と木綿子自身を紹介した本の刊行を主導します。 ( 手芸店のネット販売の注文が殺到したり来店客が増えたりしたので、まずまず売れたと思われます。) ある日、日向は木綿子に恋人として付き合ってほしいと告げます。もちろん恋愛や男性に後ろ向きな木綿子は断り、日向との仕事は終わりにしたいと申し出たのだけれど、日向は木綿子との仕事を諦めませんでした。恋愛抜きでいいから ( 口先だけです ) と、木綿子に連絡を取り続けて来ます。 と、一見紳士的な日向は、恋愛対象や取材対象にはグイグイいく暑苦しい男でした。 成瀬も日向も、気に入った対象にかける想いはまっすぐで、言うことも至極まっとうです。けれども、相手のために動く成瀬と自分のために動く日向。その「まっとう」の使い方の違いがおもしろかったです。 その他、女装趣味のイケメン偉丈夫エリートサラリーマンの司 ( イメージとしては『マカンマラン』のシャールさんです ) も重要な役割を果たしています。そのかっこよさもお楽しみに。 家族を持ちたいという欲求のない光。 アロマンティックアセクシャルらしい木綿子。 でも光は木綿子と一緒にいることで安らぎを感じることに気づいたし、木綿子は光がそばにいることで孤独感を忘れ、心が満たされていることに気づきます。 そして互いに、これまで人に話せずにいたことを打ち明けあったあと、一緒に暮らしていこうと決めました。すごくいいシーンでした。 家族や夫婦の形態って、きっといろいろあっていい。その人たちにとっていちばん合うスタイルで一緒にいられればそれで十分なんだということを、改めて感じさせられた作品でした。
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