藤岡陽子のレビュー一覧
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『もし本当に死後の世界があるとしたら、死者たちは生きていた頃の記憶を持ってそこに在るのだろうか』。
私たちはこの世に八十余年の平均寿命を生きています。喜怒哀楽という言葉がある通り、長い人生の中では、誰もがさまざまな感情を経験します。残念ながら楽しいだけが人生ではありません。
そんな私たちもやがて等しくこの世を後にする時がきます。それは私たちが生物である限り避けることはできません。では、この世を後にした私たちはその先、どこにいくのでしょうか?、どうなってしまうのでしょうか?、それは誰にもわかりません。しかし、もし、そんな先にも生きていた時の喜怒哀楽の感情が消えないままだとしたら…う〜ん、うら -
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明るい感じの表紙と題名に反して戦争もの。現代からのタイムスリップなので、スッとその世界に入り込めた。
看護婦の紗穂が地震に巻き込まれて気を失う。目覚めたときには1944年のフィリピンのマニラにいて、従軍看護師として働く身になっていたという設定。
終戦1年前の南方での戦いは泥沼化して凄惨な状況であったことは有名。直接の戦闘が描かれることはないのだけど、若い看護婦たちの任務の過酷さを通してその悲惨さが伝わってくる。傷ついた兵士の看護はもちろんのこと、転身する時の爆撃を避けながらのジャングルの移動も本当に過酷。
こう書くととてもつらい小説のようですが、紗穂の持ち前の明るさとバイタリティーに勇気づけら -
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夜勤中に起こった地震で気を失った紗穂が目を覚ますと、そこは1944年のマニラで、雪野サエという人の中に入り込んでいたというタイムスリップ物語。
1944年のマニラというと、そう、雪野サエは従軍看護婦で・・・という戦争の物語。
「手のひらの音符」が素晴らしかったので、それと比較すると少し、残念な感じではあった。サエに入り込んでしまって、サエとして生きていくことを決意する(せざるを得ない)紗穂の感情の部分や、親友のサエが今までとは別人になっていると気づいた美津の感情の部分が伝わってきづらく、少し読者側の感情が置き去りにされているような感じがあった。
それでも、戦況を考えると感情云々の前に生き延び -
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「人は前世でやり残したことを遂げるために、また現世に戻ってくる。」
「転生」てあるのだろうか。
主人公、須藤周二、27歳
彼の同い年の従姉妹が、小学4年生の時に亡くなった。
従姉妹、須藤美羽は、やり残したことを遂げるために現世に戻ってくる。
新しい姿、久遠花となって。
美羽も花も境遇というか、置かれていた環境がこちらが辛くなるほど酷い。そして、一生懸命、自分の居場所を求めていた。想像すると心が苦しくなる。
物語全体は重い空気でどんよりしているのだけれど、久遠花となって現世に戻ってきた美羽が、やり残したことを遂げて、主人公や登場人物が前を向いて生きていこうと動き出した様は共感できた。
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主人公の美歩は6年目の助産師。むかえびととも呼ばれ、メインテーマは出産。後半はその中で巻き起こる同僚や院内の問題に話が移っていく。
1年以内に9割が亡くなってしまう13トリソミーの赤ちゃんを出産した女性の話があった。中絶を悩んだが「悲しむ覚悟」を決め出産した。天くんと呼ばれ30時間を家族3人で過ごした。その後弟が産まれ「私たちは4人家族なんです」で涙が止まらなくなった。
後半は問題を抱えた病院内での話に移る。出産の話からは若干遠のいたが、過酷な環境で働き続けた助産師と医師たち。改善させるツラいきっかけを作った後輩の理央だったがそれも若さ故。失敗を成功させて欲しい。
先輩助産師の草間さんはカ -
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藤岡陽子さんの作品の中で、今回初めて、「目には視えない何か」を扱った作品に出会いました。
でも、よく考えてみると、藤岡陽子さんは、いつも「目には視えないもの」=「人の想いや気持ちの大切さ」を大切にしながら、作品を創り出してきた作家であると、あらためて感じました。
この小説の設定が、荒唐無稽と感じる方もいるのかもしれませんが、「目には視えない何か」にこそ、実は真実が隠されているということを、おしえてくれる作品ではないのかと思いました。
物語の展開としては、いったいどんな結末になるのか、終盤までわかりませんでしたが、最後に解き明かされた事実にただ涙がとまりませんでした。
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24歳の看護師が、95歳の患者の24歳だった時にタイムスリップして、1944年から1945年の1年間をフィリピンに派遣された従軍看護婦として過ごす。
悲惨な体験をした従軍看護婦の物語を描くこともできただろう。しかしその時代の教育を受けていない主人公の、命に対する考え方の違いや、軍歌ではなく「晴れたらいいね」を歌わせるために必要だった設定。
この時代からすれば、今の普通がユートピアに見えるかもしれないけど、貧困も差別もあるのよ、とちゃんと言わしている。
皆が生き延びたことが描かれたラストが良かった。
ウクライナの人たちも死なないで欲しい。 -
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ネタバレ藤岡陽子さんの本にはまっている。今年は既刊分すべて読破するぞと静かに燃えている。
心に疼く傷が癒えずに息子の父親を誰にも明かすことが出来ないままでいるシングルマザーの新聞記者と、戦力外通告を受けたプロ野球選手がトライアウトの場で出会う。
故郷で祖父母と暮らす8歳の息子。
娘の生き方に同感出来ない父親。
姉の唯一の理解者でありながらも優等生の姉とは対照的で自由に生きる妹。
聴覚障害がありながらもひたむきに仕事を頑張るアルバイトの竹内君。
精神の発達が遅れていても清らかな心で周囲を癒す妹の婚約者。
不器用で時に世の中のはみ出し者となりえる境遇でも、ひたすらに信じるものを疑わない姿は美しくて尊い