岡本隆司のレビュー一覧
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磯田道史さんの「無私の日本人」を読んでいて、1808年のフェートン号事件の段階で、佐賀藩は鎖国当時からして「捨て足軽」という戦術を採用しようとしていたことを読んで驚かされた。英軍艦との圧倒的戦力差を知り、爆弾を体に巻き付けてみんなで自爆しようというどう考えても「神風特攻隊」の源流となる戦法である。磯田道史さんの「無私の日本人」や「武士の家計簿」には日本の官僚的責任回避の意思決定法(意図的に誰が最終決断しかわからないようにするたらい回し政策)が数百年に渡って根付いたものだと感じさせられ、数百年に渡って染み付いた「歴史の重み」は今の日本人にも多大なる影響を与えていると思うようになった。「捨て足軽」
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東洋史家の手になる「アジア史から一望」した世界史概説書である。
学校教育以来、西洋史中心の世界史に馴染みが深い私にとっては、大変新鮮な視座を提供してくれる快著だった。
近年、世界史のトレンドとして「グローバル・ヒストリー」の名の下に、西洋史家も自分たちの西洋中心史観を反省して、アジア史にも目配せした世界史の構築に勤しんでいる。
著者自身も、人類全体の歴史を構想しようというその姿勢自体は歓迎なのであろう。しかし、著者に言わせると、グローバル・ヒストリーの担い手たちは、あくまで西洋史の成果から脱却できていらず東洋史の成果を顧みもしないで、間違った分析ばかりしている、とかなりお怒り。その偏向を正す -
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近年,グローバル・ヒストリーなるものが流行っているが,それに対する違和感をずっと抱いてきた。本書は,この西洋中心史観を脱却して生態環境など世界に共通する対象・問題を積極的に取り込み,世界史を描こうとする,最近学界で流行している方法であるグローバル・ヒストリーを「その視座・概念やデータの蒐集・使用などは,まったく西洋史の基準・方法そのままであって,それを無前提・無媒介・無批判に拡げただけである」と厳しく批判し,アジア史の個別的史実から歴史像を組み立てなければならないし,そうあるべきだと主張している。まさに同感である。
新書というコンパクトな書物の中で世界のダイナミックな動きを明快に描き出す筆力 -
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隣国中国の「論理」を理解するためには、歴史に学ばなければならないが、日本人の中国に対する歴史認識には心許ない部分がある。本書は中国の「論理」を、謎の国・中国の「史学」(儒教と史書という大枠)、社会と政治(士と庶の分別)、世界観と世界秩序(天下と華夷)という視角から定位を試み、そして「近代の到来」、「「革命」の世紀」と直近の歴史を分析する。
Ⅰ〜Ⅲ章が基礎編、Ⅳ章、Ⅴ章が応用編と言っても良いだろう。コンパクトかつ平易にまとまっていて学ぶところが多い。とくに近代に入って「西洋の衝撃」を受けてからの中国知識人の「附会(こじつけ)」の論理は、康有為 → 梁啓超 → 陳独秀へと明快に整理されており、わ -
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Ⅰ.ステージ、Ⅱ.アクター、Ⅲ.パフォーマンス、Ⅳ.モダニゼーション の四部構成で中国社会の環境、社会構造、そして明清代の「伝統経済」の実態、最後になぜ中国の近代化がヨーロッパや日本と異なる形になっていき、今日の中国社会を形成していったかについての展望が示される。
全体を通じて「官と民」、「士と庶」に分断された「二重構造」が中国社会の大きな特徴をなし、同時に「地域」ごとのアウタルキーと地域間における決済通貨の重要性、さらにその通貨が外国貿易と結びついたときの変容がクリアかつシャープに叙述されている。
現代の中国を理解する上でも「経済史」の視点が非常に重要なのである。 -
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清代、清末の中国を知らねば、現代の中国を理解することは不可能である。そして、その時代の巨人、李鴻章その人を知ることは、東アジアの近代を理解するに不可欠である。本書は新書というコンパクトな書物ながら、この李鴻章という知られざる巨人の生涯を辿りながら、中国が近代化の道を歩み始めた19世紀後半の東アジア世界を描き出す。
李鴻章はエリート官僚である。清朝の最盛期であれば、出世はしたであろうが、平凡な人生を歩んだかもしれない。しかし、時代はそれを許さなかった。外国勢力と渡り合いながら、洋務運動を推し進め、淮軍を率いて太平天国の乱を平定した。近代国家を官民一体となって進める日本をいち早く警戒しつつも、日 -
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全体的に堅苦しい文体でなく、語り口調なので読みやすい。
各時代ごとに認識していた中国史を通して理解できた。
世界史と繋げて、と書いてあるが、中国の各王朝がどんな外的要因でそうなったのかが書いてあり、そこは分かりやすいが、そこまでがっつり世界史。
というほどではない。
地球の気候変動で、遊牧民が南下してくることにより王朝の様子が変わるのというのが主かもしれない。
P85「則天武后は、中国史上唯一の女帝といわれています。私自身はあまり関心がないのですが、興味を持った学生たちが色々調べて書いた論文によれば、確かにかなり面白い人物のようです。」
関心のない内容を学生の論文から知り、面白く感じて -
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とてもわかりやすくて、専門外の人に中国という国を知ってもらうにはいい本だと思います。なにしろこの本は中国史を
1. 中国のはじまり
というところでは、中国という国は時代によってその範囲も主体も変化しており、バラバラだからこそいつも一つの中国を目指していることを明らかにしています。そして皇帝というのは天子と同じことなので二人いては困ること、そして儒教抜きに中国史は語れないことを丁寧に説明しています。
2.交わる胡漢、変わる王朝、動く社会
では、5胡といわれる遊牧民族と漢民族の関係、ほとんどの時代に遊牧民によって建国されてきた経緯をわかりやすく説明してくれます。中国史のわからないところはここいら -
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470ページあるがやや大きめの文字でスラスラ読め、著者の伝えたいことがわかりやすい。
歴史の細かい事件ではなく、中国人の考え方・行動に影響を与えている事象(中華思想、儒教、エリートと非エリート、等)を説明している。
特に以下の記述は、中国人の行動理解に有益。
・中国の賄賂は必要悪
・中国には、合法、非合法、善悪の境界はない
・中国の主権は国民にはない
例えば、中国では法律は人民の上、共産党の下。
つまり日本では当然視される法治主義は、西洋で生まれた思想であり、日本では適合し当然視されるが、政治システムの歴史の異なる中国では日本と違っても当然との主張は新鮮で、考えさせる。民主主義等の思想も同様で