あらすじ
近代世界に入る清朝の困難な舵取りをした政治家・李鴻章(1823-1901).旧式の科挙官僚だった彼は,太平天国の平定に貢献することで実務官僚の第一人者に登りつめ,「洋務」と「海防」を主導する.そして外国列強と渡り合うも,敗北を強いられる.清朝末期の時代と社会とともにその生涯を描き出す評伝.
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明治初期の東アジア情勢を説明するとき、常に朝鮮半島や琉球をバッファーゾーンとすべく立ち振る舞う日本の観点から見ることが多い。その一方で本書は朝鮮半島や琉球を清から奪う日本という形で、李鴻章から見た東アジアの姿を描く。
そこには日清で条約を結びながらも、一方的に琉球を編入し台湾に軍事動員をする倭寇のように脅威を伴った日本がいる。
李鴻章から見た東アジアの近代を新しく感じてしまうのは、日本から見た近代史にあまりに慣れすぎているからだろう。
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清代、清末の中国を知らねば、現代の中国を理解することは不可能である。そして、その時代の巨人、李鴻章その人を知ることは、東アジアの近代を理解するに不可欠である。本書は新書というコンパクトな書物ながら、この李鴻章という知られざる巨人の生涯を辿りながら、中国が近代化の道を歩み始めた19世紀後半の東アジア世界を描き出す。
李鴻章はエリート官僚である。清朝の最盛期であれば、出世はしたであろうが、平凡な人生を歩んだかもしれない。しかし、時代はそれを許さなかった。外国勢力と渡り合いながら、洋務運動を推し進め、淮軍を率いて太平天国の乱を平定した。近代国家を官民一体となって進める日本をいち早く警戒しつつも、日清戦争で敗れた。著者は、「1880年代に李鴻章の舵取りを支えてきた、対内的・対外的な政治・軍事・外交すべての条件が、この一戦で失われたのである」(179ページ)と述べる。
日清戦争における李鴻章の敗北(そして、その後の露清提携)は、その後の東アジア史を大きく規定していった。
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蒼穹の昴を読んで李鴻章に興味を持った。
李鴻章といえば歴史の授業では日清戦争後の下関条約の全権だった、くらいの知識しかなかった。
しかしその生涯は実に数奇なもので、斜陽の清王朝時代に生まれ、沈みゆく大国の舵取りを外交面でなんとか支えていた人物と言える。
彼のキャリアは太平天国の乱の鎮圧に始まり、義和団事件後の北京議定書に終わる。
彼が生きている間、辛うじて清という大国は持ち堪え、彼が死去した直後に文字通り崩壊する。
結局は終焉する国の運命を背負いながらも何とか自らの使命を全うした李鴻章を尊敬する。
もし生まれ落ちた時代が違っていたら、もっと華々しい成果を上げていた大人物だ。
ただ、人間の運命とは皮肉なもので、彼のように沈みゆく船の上でひたすらに生涯を全うした人もいる。
そこに歴史の諸行無常を感じる。
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エピローグにある、旧式科挙官僚から実務官僚の第一人者にのぼりつめ、洋務の総帥として海防を主導し列強と渡り合う中で生涯を終えた、が李鴻章の一生を体現している。19世紀の中国を代表する政治家であることは間違いない。
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近代世界に入る清朝の困難な舵取りをした政治家・李鴻章(1823-1901).旧式の科挙官僚だった彼は,太平天国の平定に貢献することで実務官僚の第一人者に登りつめ,「洋務」と「海防」を主導する.そして外国列強と渡り合うも,敗北を強いられる.清朝末期の時代と社会とともにその生涯を描き出す評伝.
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李鴻章を通じて清末を記した一冊。
清朝から見た対外、対内政策が分かりやすくまとめられており、
当時李鴻章が果たした役割の大きさに驚かされる。
特に明治維新時の対日観、日清修好条規に込められた狙いなど
大変興味深く、視点の高さを感じた。
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動乱の清朝末の大政治家で、日清戦争後の講和条約の全権大使をはじめ、この時期のほぼ全ての対外交渉に関わり欧米列強からは「世界稀有の一大人物」とも称されたという李鴻章について。時代背景を丹念に書き込みながらも論点がすっきり整理されており、著者の語りの巧さとともに読ませる本だけれど、どちらかというと人物そのものよりも国内外情勢を中心に描いている。列強の進出により清国が直面した近代的な国際関係と、従来の朝貢関係との折り合いの付け方を、攘夷•排外が優勢だった国内的な要請、中間集団の勢力拡大への対応などとといったこととともに詳しく説明している。
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高校までの歴史授業で必ず暗記する名前ですが、実態はいまいち知られていない李鴻章。そんな彼の伝記です。
「日本史」の中で下関条約の全権大使として名前が登場する彼ですが、「世界史」における清末の重大事件にことごとく関わっている彼の業績をたどると衰退したとはいえ広大な領土を統治していた清のパワーの内実が見えてきます。
特に李鴻章が力を発揮できるに至った清の政治構造や当時の対外情勢について丁寧に記述されているので、あまり清の歴史に詳しくない私でもスラスラと読めました。
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岡本隆司『李鴻章』(岩波新書 1340)
李鴻章の伝記的な本。
知っているようで知らない(二人目 笑)李鴻章の本です。
日本の近現代史を勉強していると、否が応でも目に入ってくる人ですが、どういう人物なのかはまったくといっていいほど知りませんでした。
日中近代史を少し囓った事もあり、新書なのでちょうどいいと思って手に取りましたがなかなかいい本でした。
なるほど、李鴻章は古い時代の比較的新しい人間といったところでしょうか、袁世凱なんかは古い時代の新しい人間ですが。
陸奥に「大した事はない」と言われ、小村に「でくの坊」と言われた残念なイメージしかありませんでしたが(…)随分と印象が変わりました。
日本と違って外交との境界が陸地にあり、なおかつ領土が広く人口も多い(勿論民族も日本とは比較にならないくらい多種多様)の清国ではできる事も限られてくる…その中で李鴻章は限られた選択肢の中から随分最善を尽くしているように感じます。
それでもやはり、日清戦争は失敗だったんでしょうね…結局これが清国の崩壊に一気に拍車をかけたような気もしないでもないですから…^^;
幕末幕府内でもそうですが、旧体制の中にも逸材はかなりいるものなんですよね、東洋のビスマルクとはよく言ったものです。
しかし伊藤も東洋のビスマルクと呼ばれていたとは…そして勝に「李鴻章の方がもててるじゃん」とか言われてしまう伊藤…(笑)
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●内容
・京都府立大准教授の歴史家による評伝
・李鴻章は清代末期の中国の政治家で、外交と海防の実力者。
著者はかれを“落日の孤臣”とし、中央の西太后による院政「垂簾聴政」と、地方軍閥への権限委譲「督撫 重権」を噛み合わせ、安定に導いたと評価。一方で、彼が権勢を失うにしたがって、中央と地方との対立が激化したとする。
●感想
・ドラマにもなった、浅田次郎『蒼穹の昴』にも登場する”かっこいい爺さん”
英雄史観で李鴻章の個人スキルに注目するより、社会情勢と絡めて「そうせざるを得なかった」と冷静な評価を行なっており、さすが学者の著作!な雰囲気。
・師匠の曽国藩が「大功を立てすぎては返って身の危険を招く」として引退せざるを得なかったのに対して、李鴻章は70を超えても使い回される「大物」となっていた。もはや国内で争う余裕もなくなっていた背景が窺える。
部下の袁世凱は清朝崩壊後に「中華民国大総統」となるが、この処し方は曽国藩―李鴻章ラインの功臣マインドとはかなり異なる。それもまた情勢のためなのかもしれないが、是非著者による袁世凱の評伝を読んでみたい。
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李鴻章の生きた19世紀後半の清朝は,激動の時代。科挙をはじめ,自分が頭角を現す舞台だった古いシステムを打破する必要性を痛感するも,ついにその実現を見ることなく生涯を終えた。それでも彼の働きは決して欠かすことができないものだった。この巨人の人生と,瓦解へ向かう清朝の運命が印象的に描かれる。やはり中国史における王朝末期の物語はドラマチック。
科挙に受かった典型的エリート官僚だった李鴻章。内憂外患のまっただ中,淮軍を組織して太平天国を平定し,北洋大臣として厳しい外交にあたり「洋務」「海防」に邁進。実務官僚として位人臣を極める。
淮軍は,曾国藩の湘軍にならって作ったもので,地方の有力な武装集団を組織したもの。曾国藩は,李鴻章の父の科挙及第同期。そのコネで,殿試を控えた李鴻章が曾国藩に師事したのが縁。太平天国を平らげた後,湘軍は解散へ向かうが,上海の潤沢な財力に裏打ちされた淮軍は残る。
財源は釐金と言って,要するに貿易に対する関税のピンハネ。上海を抑えた李鴻章はこの点有利だった。生産力の乏しい長江中流域を拠点とする湘軍は,十年にわたる太平天国との戦いで疲弊,給料の遅配も続き維持できなくなる。後の捻軍鎮圧には,当初曾国藩が淮軍を率いたが,李鴻章の私兵である淮軍を思うように動かすことはできず,途中で交替。その軍事力に裏打ちされた交渉力が必要とされ,李鴻章は直隷総督兼北洋大臣に任命される。これ以降三十年以上にわたって,対外関係をほとんど一手に引き受けることに。その交渉は苦しいものが多かった。
李鴻章は,特に対日関係を憂慮しており,琉球処分を見てからはかなりの危機感を持っていた。海軍力を重視する海防論を主張し,左宗棠の塞防論と論争,淮軍を基盤に北洋艦隊を建設する。朝鮮をめぐって日本と対立,壬午,甲申を経て,日清戦争を戦うことに。主戦論を抑えきれなかった。
下関条約の際,ピストルで狙撃を受けるが協議を継続。日本の言いなりだったわけではなく,三国干渉の確約を得てから調印するなど粘り強い。虎の子の北洋艦隊を失ったものの,その後も経験人脈を生かして外交に辣腕をふるった。すごい人物。著者も言ってたが,もうちょっともてはやされてもいいかも。74歳の欧米歴訪に,自分の棺桶をもって赴いたエピソードなんて魅力的。
著者は,中国の歴史では古代とか20世紀に目がいきがちなのを残念がっている。諸葛亮なんかもういいよ,みたいなw。現在の我々との関わりにつながる意味では,李鴻章はもっと存在感があってもいい。
「弁」の字がちゃんと正字で書かれていたのが印象的だった。「辨別」p.33,「買辦」p.62,「辯論」p.133。 さすが中国史の先生。「辮髪」は出てきそうで出てこなかった。
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督撫重権は著者の造語のよう。近代にはいり巨大化、複雑化した中国を独裁的な集権で統治することはもはや不可能となり、軍権をももつ実質的な統治は各地方単位となり、それをシンボリックに結わえる北京という清の統治の状態をさす。
垂簾聴政と督撫重権、すなわち中央と地方のバランスのなかに李鴻章の立ち位置があった。
清末を概観する良書なれど、誤字脱字が目障り。岩波といえども校正に人員をむけられないのかしら。