樋口明雄のレビュー一覧
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シリーズ11作目。
シリーズ初の中編集で、「リタイア」「孤高の果て」の2編を収録。
「リタイア」には「風の渓」に登場したアイドル・安西友梨香が再登場。自身の引退に悩み、再び北岳を訪れる。同じく、ベテラン作家の鷹森と夏実の案内の元、頂上を目指すが、救助命令の出た夏実が途中で二人の元を離れてしまう。
何とか北岳の頂にたどり着くが、下山途中で滑落してしまう。しかし、お互いを助け合い、思いやることで、抱えた悩みを吐き出し、それぞれの答えを見つけていく。
「孤高の果て」では、これまであまり前に出ることがなかった救助隊で唯一医師免許を持つ関がメインで登場。
山で再会した同級生と結婚したばかりの関だったが、 -
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<南アルプス山岳救助隊K-9>シリーズの6冊目。
この前に読んだ「異形の山」の感想の最後に『夏実と静奈が表彰される大活躍をした事件はどの巻かな?』と書いたけど、この巻でした。
山ガールとして人気のアイドルを追いかけて北岳にやって来たネットハッカーと、DVの父親と子育て放棄の母親から引き剥がされて両俣小屋に預けられた少年。今回は夏の終わりの北岳で二つの話が並行して描かれる。
それぞれ引きこもりの生活を送っていた二人は話が終わる時には大きく道を違えることになるが、そこには、作中『この国の人間はどんどん“劣化”が進んでいると思う』と語る作者の憤りと、一方でそうした社会の中でも前向きな心を持つ人たち -
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雪山で繰り広げられる死闘には、書を置く能わずの感。
「興奮、興奮、また興奮」との賞賛も頷ける迫力。
かつてSPとして政治家を警護していた時に負傷し一線を退き、今は遭難者を救助する山岳警備隊の一員の佐伯。
警察と政界の闇の証拠を握っている彼を、警察庁直属の”殺し屋”が襲う。佐伯の属する警備隊の中にも彼を狙う警察庁のスパイが。
誰がスパイなのかのミステリーも。
超弩級の台風という自然の猛威の中で、人間の悪意の象徴ともいうべき殺し屋たちと、佐伯および警備隊たちとの凄惨を極めるサバイバル。
一方で、人を助け、その感動を仲間とともにすることにより、己の愚かさに目覚め改悛する隊員も。
エンタメの醍醐味を満 -
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<南アルプス山岳救助隊K-9>シリーズの2冊目。
ようやく巻頭の北岳周辺の地図も頭に入りだした。
山岳救助隊員のそれぞれが主人公になる話が6つ。
色んな要救助者があって、その救出に隊員と犬たちが活躍するというお話だが、季節・天候・登攀ルートその他諸々手を変え品を変え、山に登る人の背景や心情を映して、読み心地が良い話が続く。
中でも、表題作は、これだけが隊員ではなく夏の山小屋のアルバイトを主人公にした話だが、救助隊員だけではない、山での仕事の苛烈さがさりげなく描かれている佳品。
物語の中では、山を駆けて救助に向かったり自分よりも重い人を背負って歩く隊員の様子が何度も出てくるが、「NO WAY -
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人の感情が色となって見えるという異能の持ち主星野夏実。クールでいて熱い心の神崎静奈。
彼女たちが活躍するこの山岳救助隊シリーズの新刊が出ると、見逃すわけにはいかない。読者の頭の中で、彼女たちが生きて立ち働いてしまっているから。
今作の帯惹句にはなんと「雪男」出現と。
マンネリになりかねないシリーズの乾坤一擲を狙った作者が、途方もない企画を立てたのかと、危ぶんだ。
しかし、そんな愚考を吹き飛ばしてくれるその正体。
謎の生き物を狩ろうと山に入るハンター。その正体を捉えて、注目を浴びたいYouTuber。さらに、遭難しかけていた謎の外国人。
それぞれの思惑を秘めている彼らに、山岳救助隊のメンバーはど -
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どこかで「ブロッケンの悪魔」のことを見て読んでみようかと思ったが、シリーズ物だったので最初のものからにしようと、まずこの本を買ってみた。
シリーズ物の最初ということと、主人公が初めての職場に着任することが重なって、途中までは小ネタを挟みながら登場人物や救助犬や山岳救助隊の仕事や北岳周辺の様子を説明されているような話が続き、退屈なわけではないし後で効いてくるところもあるのだけれど、このまま大きな事件も起こらずに終わりはしないかと思わされるのは話の展開としてはどうかな。
ようやく270頁を過ぎてから山場の話となったが、不穏な天候の中での、神がかり的なヘリの操縦テク、荒唐無稽なヘリからの降下&空手 -
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〈南アルプス山岳救助隊〉シリーズ。未読と思っていたら第四作「火竜の山」を改題したものだった。だがせっかく借りたので再読してみた。
昨日読んだ「クリムゾンの疾走」とは違い、こちらは山のシーン盛りだくさん。
とはいえ、舞台は南アルプスではなく岐阜県の新羅山という架空の火山。人気の山で登山者で賑わう新羅山が噴火したことからパニック状態になる。
作中で触れられているように御嶽山のような状況だが、御嶽山と違い前兆として様々な現象が起きていた。微細な地震や山体の膨張、そして本格的な地震。
救助犬を使った山岳救助の講演会のため新羅山麓に来ていた夏実と静奈、新羅山の噴火予兆の研究をしている研究者、ネットで -
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山岳小説あり、怪異譚あり、ホラーあり、SF小説ありと、まさにバラエティーに富んだ短編集。
著者の作品で読んでいるのは、南アルプス山岳救助隊K-9シリーズや山岳冒険小説なので、本書もその類いと思っていた。しかし解説を読むと、著者は怪奇ホラー長編も物しているようだ。
本書で印象深いのはやはり、表題作の『標高二八〇〇米』とその続編『リセット』。
ある日突然、標高2800mより上にいた人間だけが生き残り、それ以外の人間が消失してしまう。残された主人公たちの孤独で絶望的な日々が綴られる。
この状況に著者は、原発問題を絡めて、単なる消失劇とはしていない。
人類は地球にとって、当初は良性の腫瘍だったが、今で -
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スタンドバイミーっぽい話好きなので楽しみにしていましたが、予想以上に心打たれてしまって、読み終わった時胸苦しい気持ちになりました。
時は1970年代、山口県は岩国。米軍基地のある街で、少年少女たちの成長を追う物語で、なんだかんだ色々な人たちが書いている題材と何ら変わらないのに、どれもこれも胸をぐさぐさ刺してくるのかなあ。そういうお年頃になったという事なのでしょうか。
小説家を目指す主人公モリケン、漫画家を目指すノッポ、エキセントリックなムラマサ、ミュージシャンを目指す転校生ミッキー。中学校2年生という多感な時期を駆け抜ける1年間が濃密でとても眩しいです。トラブルも山盛り有るけれど、信じられる