樋口明雄のレビュー一覧
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なるほど。著者のあとがきを読んで初めて合点がいった。
天空の犬K-9シリーズの新作は8篇からなる短編集。
一つ一つの作品が、短編ではなく長編として書かれても違和感がないほどに内容が濃い。
ページ数が膨らめば、シリーズとして何作品かにできるほどの面白さ。ひとつ一つの作品を堪能し、これなんで短編なんだろうと考えていたら、あとがきに小説誌に連載された作品を集めたものとあり、初めて合点がいったというわけ。
山岳小説とはいえ、警察小説でもあるという性格上、そこには犯罪があり、犯人が出てくる。
しかし、犯罪事件を解決してよかったねという話ではなく、物語の結末に優しさがあった。
八ヶ岳の自然がベースにあるからなのか?
長期シリーズになったことにより、登場人物は成長していく。ひとより早く老いてしまう犬たちも例外ではない。
そうか、そんなことも考えなければならないほど、長い付き合いになったなぁと改めて思った。 -
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北朝鮮にクーデターが勃発し、難を逃れた政府軍が屋久島に上陸し全島武装制圧するという、近未来的冒険小説。
彼らは、キムジョンウンの解放と亡命を日本政府に要求する。日本を通じアメリカに圧力をかけるための戦略。
島民を虐殺し、警察署を爆破し、さらに核爆弾を爆発させると脅す北朝鮮軍。
山岳救助隊員の高津夕季と山岳ガイドの狩野哲也たちが、「奇跡はまた起きるさ・・・ここは神の島だからな」との思いを胸に、北朝鮮軍の精鋭たちを相手に、生き残りをかけて戦いを挑み、山野を駆け巡る。
しかし、この一連の事態には、その裏に国際的な謀略が。
政府内のスパイが浮かび上がり、それにアメリカCIAの関わりも。
終息に向かうなかでの総理大臣の述懐に、現在の日本の状況を浮かび上がらせる。
「それにしても徹頭徹尾、自分たちは蚊帳の外だった。・・・”裸の王様”と揶揄されるほど、見てくればかりの構築に腐心し続けてきた結果、今の日本政府は世界中のどの国からも信用されていない」
「アメリカという大国にとって日本は、田んぼの端のカカシのようなものだった。友好友好といいながらも、子供の頭をなでるように密かに冷笑されていただけのことだ。それをわかっていて、まやかしの親米路線を継承してきたのである」
これがそのままの現実ではないだろうが、納得できる部分もあるような。なんと哀しいことだろう。 -
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南アルプス山岳救助隊K-9シリーズ。
北岳で星野夏実は、記憶を喪失している青年を救助する。赤石岳に登っていたはずだと証言する彼を、甲府の実家へ届ける。
その頃、甲府では猟奇的な連続女性殺人事件が発生。
犯人は誰なのか?記憶喪失の彼と、殺人事件は関係あるのか?
彼に疑惑が深まる中、彼の妹と彼女の友達たちが北岳山行を計画する。彼女の危険を予感する彼が強引に同行し、そして・・・
殺人事件の犯人は?というミステリーに、山での超常現象を絡ませているが、多少消化不良の感がなきにしもあらずというところ。
確かに、山で不可思議な現象や怪異譚がみられることがあるだろうが、少なくとも小説上では殺人事件のリアルさとは相容れないのではないかと思うが。
しかし、このシリーズはもともと、星野夏実が持つ超能力(人に色が見える)がベースになっているのだから、今回のケースも許されるか。
1年に1冊のペースで刊行されるこのシリーズ、次回作の刊行も待たれる。 -
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樋口明雄『還らざる聖域』ハルキ文庫。
久し振りに正統派の日本の冒険小説を堪能した。屋久島を舞台にした山岳アクション小説なのだが、複雑な国際情勢も関係して来るのだから、さらに面白い。
如何せん、登場人物の設定が今一つはっきりとせず、そこがマイナスポイント。
早々と登場した山岳救助隊員の高津夕季が主人公かと思ったら、事あるごとに泣いてばかりで使い物にならず。代わって主人公役に名乗り出たのは山岳ガイドの狩野哲也なのだが、北朝鮮軍の特殊部隊の女性隊員ハン・ユリに比べると物足りなさを感じた。
北朝鮮で内戦が勃発し、世界に緊張が走る中、北朝鮮の航空機2機が日本の領空に侵入し、スクランブルした日本の戦闘機とは別に、突如現れた米軍機が北朝鮮の航空機をミサイルで撃墜する。
その翌日、北朝鮮の舞台が屋久島に上陸し、屋久島署を始めとする島の主要施設を攻撃し、島を武装制圧する。
屋久島署で、独り生き残った山岳救助隊の高津夕季巡査は弟からの情報で山に逃げ込む。同じ頃、山で環境省から依頼された自然環境のモニタリング調査を行っていた山岳ガイドの狩野哲也とアシスタントの篤史は旧ソ連製のプロペラ機が墜落するのを目撃する。
プロペラ機から脱出した北朝鮮軍の特殊部隊の女性隊員ハン・ユリを助けた狩野と篤史だったが、ユリから恐るべき事実を伝えられる。
本体価格940円
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「水はカネのあるところへ流れる」と巻頭に綴られるとおり、水をテーマとした社会派エンターテイメント。
天然水が蛇口から出る八ヶ岳山麓に移住し、レストランを経営している主人公の秋津俊介。しかしある日突然水が出なくなる異変が。
解決を図るべく、管理会社や地下水を大量取水する飲料メーカーへと奔走するが、対応は平行線のまま。
埒があかない状況に、遭遇した市長選で新人候補に望みを託し選挙スタッフとして活動する。
選挙小説になるかと思いきや、新人候補にも何やら胡散臭い背景があり、予測の付かない方向へ。
水というものが、当たり前のように手に入る現代日本では、水が有限だという事実に、我々はなかなか気がつかない。
しかし、この地の天然水を狙っている外国企業は数多ある(なかでも中国企業が群を抜いているとか)と、堤未果著『日本が売られる』のなかで警鐘されていた。
樋口明雄のこの小説も、そういった事態への警告の書ともいえるだろう。
さらに現在の山林行政について、林業に携わる男の言葉で語らせる。
「水源涵養だったら広葉樹林にするべきなんだよ。今の時期みてぇに秋の落葉で林床に枯葉がいっぱい溜まる。それが自然のダムになって雨水を蓄える。それが地下に染み込んで地下水になる。それがこったら荒れた人工林じゃ、何の意味もねえだな。雨が降ったら降っただけ斜面を流れるだけだ。そのうち木の根っこが露出して、地盤が緩む。テレビのニュースでやっとる大雨のときの土砂崩れは、たいていこんな荒れた人工林の斜面だ」
南アルプス山麓に居を構える著者だからこそ書ける作品といっていい。 -
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<南アルプス山岳救助隊K-9>シリーズの8冊目。
読む順番がバラバラになってしまっているのだけれど、シリーズとしてはこの前に読んだ「白い標的」の次の巻ということで良いのかな?
今回は冒頭から怒涛&波乱の展開。
静奈が出場した空手大会を皮切りに、最近出没しているシェパードばかり狙う賊と遭遇してのカーチェイスと見せ場が続く。
ここまででも結構凄いと思っていたがなんのなんの。今度はバロンが捕らわれ再び激しいチェイスと格闘劇、挙句に犯人一味と間違われた静奈が警察から追われるはめに。
くう~っ、なんと言うこと…、一旦本を閉じて心を鎮めないと次に進めないくらい苦しい展開。遂に捕まってしまっても手錠のままに脱出し、警察から逃げながら、バロンを救いに追い縋る。
もしもバロンが被害に遭ったらと問われて『そのときは自分を抑えきれる自信がない』と言ってはいたが、それにしても無茶するなぁ…。
この窮地をどう脱するのかとドキドキしていたが、新宿のホームレスや所轄の刑事・大柴の助けで意外とあっさり抜け出し、警官を撃った疑いをどう晴らすのかと思っていたがこれも簡単に晴らされ、それまでの展開からするといささか肩透かし。
その後は、どちらかと言えば大柴が事件の全貌を解き明かしていく話となり、公安が貼り付いたりフリーライターが接触してきたり、それなりに面白い話ではあったけど、あまり山岳救助隊とは関係ない話になってしまったのがやや残念。
今回、巻頭にお馴染みの地図がついておらず、大半が都内での話だったので必要なかったということだが、このシリーズでは北岳で犬たちが活躍する話を読みたいね。 -
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最近は1年に1冊のペースで刊行され、それが待ち望まれるシリーズの一つ。
今回は中編が2篇で、『南アルプス山岳救助隊Kー9』が2倍楽しめるかのよう(笑)。
相変わらず、彼ら彼女たちの活躍は、南アルプス北岳の描写とともに爽快で、このシリーズ病みつきになる。
『リタイア』では、『風の渓』でのヒロイン安西友梨香が再登場する。
己の仕事に真摯に取り組む救助隊たちに涙腺が刺激される『孤高の果て』では、警視庁阿佐ヶ谷署の大柴刑事が活躍する。これもシリーズものならではの楽しみだろう。
山岳救助隊の星野夏実と神崎静奈、この二人の恋の行方も気になるシリーズでもある。 -
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シリーズ11作目。
シリーズ初の中編集で、「リタイア」「孤高の果て」の2編を収録。
「リタイア」には「風の渓」に登場したアイドル・安西友梨香が再登場。自身の引退に悩み、再び北岳を訪れる。同じく、ベテラン作家の鷹森と夏実の案内の元、頂上を目指すが、救助命令の出た夏実が途中で二人の元を離れてしまう。
何とか北岳の頂にたどり着くが、下山途中で滑落してしまう。しかし、お互いを助け合い、思いやることで、抱えた悩みを吐き出し、それぞれの答えを見つけていく。
「孤高の果て」では、これまであまり前に出ることがなかった救助隊で唯一医師免許を持つ関がメインで登場。
山で再会した同級生と結婚したばかりの関だったが、少し前に救助した大学生が死亡したことにより、遺族である大学生の両親から恨みを買ってしまう。
一人息子を失い、自らも末期がんである父親の暴走を止めるものとは・・・
「孤高の果て」には「逃亡山脈」などに登場する阿佐ヶ谷署の大柴刑事が再登場。これまたシリーズを全部読んでいるファンには堪らない。
書下ろしなので、時系列が分からないが、1作目ではリハビリ中の江草隊長が2作目では普通に出て来るし、2作目の関に恨みを持つ、阿佐ヶ谷署のマル暴の刑事・中砂が辞職した時の静奈と大柴のやり取りが2回繰り返されるところに違和感があったので、星は一つ減点で。 -
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<南アルプス山岳救助隊K-9>シリーズの6冊目。
この前に読んだ「異形の山」の感想の最後に『夏実と静奈が表彰される大活躍をした事件はどの巻かな?』と書いたけど、この巻でした。
山ガールとして人気のアイドルを追いかけて北岳にやって来たネットハッカーと、DVの父親と子育て放棄の母親から引き剥がされて両俣小屋に預けられた少年。今回は夏の終わりの北岳で二つの話が並行して描かれる。
それぞれ引きこもりの生活を送っていた二人は話が終わる時には大きく道を違えることになるが、そこには、作中『この国の人間はどんどん“劣化”が進んでいると思う』と語る作者の憤りと、一方でそうした社会の中でも前向きな心を持つ人たちに対する信頼の気持ちが託されているように思える。
いつも変わらずそれぞれの持ち場で活躍する救助隊メンバーやヘリ乗員に山小屋の人々だが、少年を殺害しようとするやくざ者と対峙する静奈とともに、今回は凶行のハッカーを追う夏実にも見せ場たっぷり。
メイが熊を追っ払うくらいであまり犬たちの見せ場がないのはちょっと残念。 -
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雪山で繰り広げられる死闘には、書を置く能わずの感。
「興奮、興奮、また興奮」との賞賛も頷ける迫力。
かつてSPとして政治家を警護していた時に負傷し一線を退き、今は遭難者を救助する山岳警備隊の一員の佐伯。
警察と政界の闇の証拠を握っている彼を、警察庁直属の”殺し屋”が襲う。佐伯の属する警備隊の中にも彼を狙う警察庁のスパイが。
誰がスパイなのかのミステリーも。
超弩級の台風という自然の猛威の中で、人間の悪意の象徴ともいうべき殺し屋たちと、佐伯および警備隊たちとの凄惨を極めるサバイバル。
一方で、人を助け、その感動を仲間とともにすることにより、己の愚かさに目覚め改悛する隊員も。
エンタメの醍醐味を満喫できる傑作。