樋口明雄のレビュー一覧
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樋口明雄『クリムゾンの疾走 南アルプス山岳救助隊K-9』徳間文庫。
文庫書き下ろしシリーズ最新刊。何時ものように南アルプスから物語は始まるが、序盤を過ぎると驚愕のハードな展開が待っていた。そもそもタイトルの『クリムゾン』とは何だ、何だと、気になりながらの予想外のハードアクションな展開に一気読み。
空手大会出場のため上京中の山梨県警南アルプス署の神崎静奈の愛犬バロンが謎の男たちに拐われる。バロンを取り戻すために静奈はなりふり構わずハードなカーチェイスと男たちとの闘いを繰り広げるが…
こういう血沸き肉踊るようなハードアクションを描ける作家の存在は非常に貴重だ。しかも、主人公が美人空手家という -
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樋口明雄『ブロッケンの悪魔―南アルプス山岳救助隊K‐9』ハルキ文庫。
シリーズ第3作。前2作は徳間文庫だったが、今回はハルキ文庫からの刊行。前2作も非常に面白い警察山岳冒険小説だったが、本作に描かれる事件はさらにスケールアップし、面白さが倍増している。
南アルプス北岳に至る三つの林道で崩落事故が発生、一帯は陸の孤島になる。その頃、内閣危機管理センターに集まる閣僚たちの元へ自衛隊施設からVXガスが盗まれたと報告がもたらされる。北岳山荘に立て籠り、VXガスを使い、政府を脅すテロリストたちの目的は…
テロリストに立ち向かう南アルプス山岳救助隊の星野夏実、神埼静菜らの運命は…
樋口明雄が描く -
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あの大傑作冒険小説『約束の地』の続編であるのだが、読んでみると、全く違う趣の作品であることに驚いた。決して『約束の地』より劣っている訳ではなく、十二分に面白いのだが、明らかに物語の持つ雰囲気が違うのだ。『約束の地』が、ゴツゴツした男の冒険小説なら、本作は女性らしい冒険小説である。
主人公は前作と同じ野生鳥獣保護管理官の七倉航。野生動物の被害に喘ぐ八ヶ岳で、狂った生態系のバランスを取り戻そうと中国からオオカミを移入し、放獣する計画が持ち上がるが…
どういう訳か冒頭から登場人物に関わる様々な『死』が影を落とし、不安をかき立てる。読み進むうちにその訳が解るのだが、少なくとも5年前の東日本大震災が -
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ネタバレスペンサーシリーズに同名の作品があるが、全く別物。
本作は八が岳や南アルプスの自然を舞台に、環境と獣害問題をテーマにした家族小説。
とにかく、やたらとテーマを盛り込んでくる。狩猟の問題、獣害からのモンスター、食物連鎖、地方行政の怠慢、環境汚染、いじめ、またぎの老齢化、気候変動…こんなに盛り込んでどう収拾するねんと読みながら危惧していたんだけど。
ネタバレしてもしょーもないので、多くは語らないが大丈夫。力とテクニックを上手くミックスさせた筆運びで見事収拾させてくれる。ある程度予想がつく、悪く言えばベタな展開にはなってるけど、安定度は抜群。むしろ巧みな捻りは無用だろうと思わせるぐらいのストレー -
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文庫書き下ろしピカレスク冒険小説。久しぶりに手に汗握り、血湧き肉躍るような物語に出逢った。登場人物の背景と人物造形、巧みなストーリー展開、そして、爽やかなラストと、非常に面白い作品だった。
東日本大震災の津波被害で家族を失い、死に場所を求めて流離う元刑事の村越謙作は、冬の長野の山中で中国人女性の張梨花と出会う。外国人研修生として過酷な労働と性的虐待を受けていた梨花は犬と共に逃亡を続けていた。梨花を救うべく村越は…
梨花を執拗に追う阿久津、柳のサイコパスとも言うべき冷酷なヤクザとその運転手の元お笑い芸人の田浦、村越と梨花を助けるペンション経営者の高野夫妻と獣医の三枝美緒、フリージャーナリスト -
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山梨の南アルプスを舞台にした山岳連作短編集の第二弾。
前作に続き、本作も警察の山岳救助隊で山岳救助犬のハンドラーを務める星野夏実を中心に描かれる人間ドラマと、まるで眼の前に迫って来るような山の描写が秀逸であった。
本作には6つの短編が収録されているが、いずれも素晴らしい短編である。中でも、『サードマン』と『ハルカの空』、『NO WAY OUT』が良かった。また、『北岳に来ただけ』の改題作の『ビバーク』は単行本未収録というのも嬉しい。
『沈黙の山』、『ランナーズハイ』、『サードマン』、『ハルカの空』、『NO WAY OUT』、『ビバーク』を収録。
是非、山の厳しさと包容力、人間が心の底に -
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最後には感涙、感動の山岳冒険警察小説。主人公の星野夏実は被災地での経験で心に深い傷を負い、ボーダーコリーのメイと共に南アルプス山岳救助隊で任務に就くことになる…主人公が心に深い傷を負ったのは共感覚の持ち主ゆえ…
星野夏実が山岳救助隊の中で揉まれながら成長し、次第に山の仲間と打ち解けていく過程が南アルプスの自然の描写と共に見事に描かれている。
樋口明雄が描く山岳小説は兎に角面白い。自然を愛するがゆえなのか山の描写から心に強く伝わって来るものがある。初期の『狼は瞑らない』『光の山脈』『男たちの十字架』も素晴らしい山岳小説であり、日本冒険小説協会大賞を受賞した『約束の地』も素晴らしいが、この作品