樋口明雄のレビュー一覧
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<南アルプス山岳救助隊K-9>シリーズの2冊目。
ようやく巻頭の北岳周辺の地図も頭に入りだした。
山岳救助隊員のそれぞれが主人公になる話が6つ。
色んな要救助者があって、その救出に隊員と犬たちが活躍するというお話だが、季節・天候・登攀ルートその他諸々手を変え品を変え、山に登る人の背景や心情を映して、読み心地が良い話が続く。
中でも、表題作は、これだけが隊員ではなく夏の山小屋のアルバイトを主人公にした話だが、救助隊員だけではない、山での仕事の苛烈さがさりげなく描かれている佳品。
物語の中では、山を駆けて救助に向かったり自分よりも重い人を背負って歩く隊員の様子が何度も出てくるが、「NO WAY OUT」では、冬山の過酷さが詰め込まれていた中、それに負けないその日常の鍛錬の成果が凝縮されていた。
「サードマン」も、ああいう現象があっても不思議ではないと思わすものがあった。 -
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人の感情が色となって見えるという異能の持ち主星野夏実。クールでいて熱い心の神崎静奈。
彼女たちが活躍するこの山岳救助隊シリーズの新刊が出ると、見逃すわけにはいかない。読者の頭の中で、彼女たちが生きて立ち働いてしまっているから。
今作の帯惹句にはなんと「雪男」出現と。
マンネリになりかねないシリーズの乾坤一擲を狙った作者が、途方もない企画を立てたのかと、危ぶんだ。
しかし、そんな愚考を吹き飛ばしてくれるその正体。
謎の生き物を狩ろうと山に入るハンター。その正体を捉えて、注目を浴びたいYouTuber。さらに、遭難しかけていた謎の外国人。
それぞれの思惑を秘めている彼らに、山岳救助隊のメンバーはどのように立ち向かうのか。
そして、謎の生き物の正体は。
今回も、一気読みするしかない一冊。 -
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どこかで「ブロッケンの悪魔」のことを見て読んでみようかと思ったが、シリーズ物だったので最初のものからにしようと、まずこの本を買ってみた。
シリーズ物の最初ということと、主人公が初めての職場に着任することが重なって、途中までは小ネタを挟みながら登場人物や救助犬や山岳救助隊の仕事や北岳周辺の様子を説明されているような話が続き、退屈なわけではないし後で効いてくるところもあるのだけれど、このまま大きな事件も起こらずに終わりはしないかと思わされるのは話の展開としてはどうかな。
ようやく270頁を過ぎてから山場の話となったが、不穏な天候の中での、神がかり的なヘリの操縦テク、荒唐無稽なヘリからの降下&空手対決、超人的(超犬的?)な犬の働き、政治家を叱咤する主人公に、叱咤された政治家の思わぬ心情の吐露(今の政治家に聞かせたい)と、色んな要素がてんこ盛りで一気呵成に読まされた(犯人はあんまり面倒なことをしなくても、3人だけになった時、どこか絶対助からないような所で突き落としてしまえば良かったのではないかと思うが、まあ野暮なことは言いっこなしで)。
次からはもう少し前半からスピーディーな展開になるかな、続編も読んでみようと思う。 -
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〈南アルプス山岳救助隊〉シリーズ。未読と思っていたら第四作「火竜の山」を改題したものだった。だがせっかく借りたので再読してみた。
昨日読んだ「クリムゾンの疾走」とは違い、こちらは山のシーン盛りだくさん。
とはいえ、舞台は南アルプスではなく岐阜県の新羅山という架空の火山。人気の山で登山者で賑わう新羅山が噴火したことからパニック状態になる。
作中で触れられているように御嶽山のような状況だが、御嶽山と違い前兆として様々な現象が起きていた。微細な地震や山体の膨張、そして本格的な地震。
救助犬を使った山岳救助の講演会のため新羅山麓に来ていた夏実と静奈、新羅山の噴火予兆の研究をしている研究者、ネットで集まった登山パーティ、身代金目的で少年を誘拐した男女と逃げ出した少年、暴力団に雇われた殺し屋と、様々な視点の物語が並行して進んでいく。
最初はゴチャゴチャしている印象だが、次第に登山パーティの話と誘拐犯グループの話に収束していき、最終的には一つの物語にまとまっていく。
初読の時は詰め込みすぎてゴタゴタした印象だったが、今回はそれぞれにドラマがあり上手く折り畳んでくれた印象で面白く読めた。改題と共に改稿もしたのだろうか。
初読の時にも思ったが、山の中で二度も地震が起きているのに下山をせず登頂を目指すという感覚が分からない。ましてや御嶽山の例もあるのだから私なら恐ろしくて直ぐに引き返したくなる。
しかしこれが『正常化バイアス』というものらしい。それに沙耶のように周囲に流されたり逆らえない人もいそうだ。
それにしても許せないのはパーティのリーダー。彼はリーダーでもなんでもなく、ただメンバーを集めただけの身勝手な登山者だった。こんな見掛け倒しのどうしようもないヤツは江草署長にこってり絞られて欲しい。逆に第一印象は酷かった北川が実は頼れる人でホッとした。
一方殺し屋は何だか新宿鮫シリーズの『毒猿』を彷彿とさせるような哀愁ただようキャラクターで印象深かった。生まれた国と時を間違えただけで、もっと違う生き方が出来ていれば…と思ってしまう。しかしこれだけ人を殺めたのだからこの結末は致し方ないか。
火山灰と火山岩が降り注ぐ新羅山の中を登山者の誘導や救助に駆け回る夏実と静奈、そしてそれぞれの相棒犬が頼もしい。ハンドラーとバディ犬との絆も固い。
そして危険を顧みず夏実を救出に山に戻る静奈も格好良い。多分逆の立場なら夏実もそうするだろう。
そういえばこの作品で静奈と出会った自衛隊員が良い雰囲気になったのを思い出した。このまま上手く行きそうな二人だったのだが、武闘派クールビューティーと爽やか自衛隊員カップルではベタ過ぎて樋口さんの趣味に合わなかったのか。今ではおじさん刑事が相棒になっている。
解説が大倉崇裕さんなのも嬉しい。やはり山岳小説が多い大倉さんだが、登山の方はすっかりご無沙汰らしい。まぁあれだけハイペースで作品を書かれていたら登山に行く時間は作れないだろう。 -
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山岳小説あり、怪異譚あり、ホラーあり、SF小説ありと、まさにバラエティーに富んだ短編集。
著者の作品で読んでいるのは、南アルプス山岳救助隊K-9シリーズや山岳冒険小説なので、本書もその類いと思っていた。しかし解説を読むと、著者は怪奇ホラー長編も物しているようだ。
本書で印象深いのはやはり、表題作の『標高二八〇〇米』とその続編『リセット』。
ある日突然、標高2800mより上にいた人間だけが生き残り、それ以外の人間が消失してしまう。残された主人公たちの孤独で絶望的な日々が綴られる。
この状況に著者は、原発問題を絡めて、単なる消失劇とはしていない。
人類は地球にとって、当初は良性の腫瘍だったが、今では悪性の腫瘍=癌であり、そのきっかけは核エネルギーの発見だったと、登場人物に言わせている(『渓にて』で、俺たち一人ひとりの人間の中に、破滅のプログラムが密かに内包されていたからに他ならない、と記されている)。
やがて、生き残った人間も、制御を失った原発の放射能汚染により次々と死んでゆく。そんな中で、こんな状況に陥らないためには、「身の程を知ることだよ」と、一人の人物が語り、現代社会のリセットを促す。
他の作品で、ある人物に「人間は欲と傲慢さを捨てて、そろそろ謙虚さを学ぶべきなんだ」と言わせていることに通じる考えではないか。
南アルプスの麓で暮らし、現代文明への懸念を抱く著者の思いでもあるのだろう。 -
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スタンドバイミーっぽい話好きなので楽しみにしていましたが、予想以上に心打たれてしまって、読み終わった時胸苦しい気持ちになりました。
時は1970年代、山口県は岩国。米軍基地のある街で、少年少女たちの成長を追う物語で、なんだかんだ色々な人たちが書いている題材と何ら変わらないのに、どれもこれも胸をぐさぐさ刺してくるのかなあ。そういうお年頃になったという事なのでしょうか。
小説家を目指す主人公モリケン、漫画家を目指すノッポ、エキセントリックなムラマサ、ミュージシャンを目指す転校生ミッキー。中学校2年生という多感な時期を駆け抜ける1年間が濃密でとても眩しいです。トラブルも山盛り有るけれど、信じられる友達がいるっていうのは本当に羨ましい。
読み終わる頃、失われた自分の時間を思い返して胸がちくちくします。彼らが40年の年を経たように、僕らも過去を過ぎ去って今に立っています。別に昔に戻りたい事なんて一切ないのですが、それでも胸が疼く事は変わりないですね。思えば遠くに来たもんだと思う本です。 -
Posted by ブクログ
富士登山で山ガールになったアイドルグループのボーカルが、北岳に登ることになった。
彼女のファンでひきこもりネットハッカーの35歳が、彼女に会うために北岳を目指す。
さらに、母親が入院し父親からDVを受けている13歳が、北岳に逃げてくる。
思惑の違うそれぞれが、北岳でどういう遭遇をするのか。
引きこもりやDVそれにストーカーなど、現代の問題を織り交ぜながら、南アルプス山岳救助隊の面々が活躍するシリーズ第9弾は、相変わらず頁を繰る手が止まらない。
今作では、両股小屋管理人をしている加賀美淑子70歳が、魅力的でいい味を出している。
北岳の美しさ雄大さの描写にたっぷりと浸りながら、静奈の痛快な戦いのシーンに拍手を送り、救助犬の逞しさに讃辞をし、夏美と深町の微笑ましい恋愛にほのぼのする山岳警察小説。
第9弾を読み終えたばかりだが、早くも第10弾の刊行が待たれる。