樋口明雄のレビュー一覧
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文庫帯の「山岳冒険小説の金字塔」は、けっして誇張された讃辞ではない。
山でしか己の生き甲斐を見出せない主人公ロッタ。そして、不幸な過去を持ち、生きるうえでの彼の存在が欠かせない妻の亜希。
彼らと、暴力団と産廃業者の悪行を新聞で暴露したロッタの兄に、魔の手が伸びる。
「純粋無垢にして自由奔放」、正義という言葉を何より信じるロッタ。復讐の念に燃えた彼は、兄と妻の仇を撃つべく、組事務所ですさまじい銃撃戦。
さらに、狼犬シオを従え、豪雪と極寒の南アルプスで、暴力団を相手に、一人サバイバル戦を繰り広げる。
その壮絶な戦いに、頁置く能わずも誇張と言えず、読む手が止まらない。
「古典的西部劇や東映やくざ映画のよう」とは、言いえて妙。
そんなハードアクションの一方、この小説に爽風をもたらすのは、ロッタと妻との愛。それに、彼らが最初に絆を深め、死闘の後のクライマックスの舞台ともなる”物見岩”と、そこからの絶景。
今、実在するその一枚岩物見岩は、登山者の隠れた名所となっているらしい。そこからの絶景を、一度見てみたいものだ。
ロッタを側面援助する、山梨県警の堂崎雄一と山梨日報の沢村聡志。彼らの名前に、それぞれ堂場瞬一と沢村鐡の両氏の名前を想起したのは、読み手だけだろうか。 -
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帯や裏表紙の解説を確かめもせず、最初の頁を開いたとたん、七倉航というなつかしい名前を見つけ、この作品が『約束の地』の続編だと、初めて知った(笑)。
もちろん、単独で読んでも少しも支障はないと言っていい。
『約束…』が、七倉の娘が小学校5年の時の出来事であるのに対し、この春中学生になったという説明から、本書はその2年後の話のようだ。
七倉は、支所長をはずれ一管理官となっており、キャリア丸出しの新支所長が赴任している。さらに、新メンバーとして新人二人が加わる。
そのうちの一人関千晶は、同著者の別シリーズ「山岳救助隊K-9」で活躍する隊員関真輝雄の妹のようだし、県警航空隊のヘリの操縦士たちがチョイ役で登場するのも、ファンにとっては楽しい。
今回は、急増する野生動物の被害に対処するために、オオカミを中国から移入し、八ヶ岳に放つという計画の話。
中国奥地での辛酸をなめる調査活動や移入地の反対派との対立等、計画がどういう決着をつけるのか、息を持つかせぬ展開とともに、ただ頁をめくるだけ・・・
植物連鎖の頂点に君臨し、自然界で生きる誇り高き存在としてオオカミを描き、農業及び環境破壊を懸念する一方、著者は作中人物に、オオカミ放獣をただセンセーショナルに取り上げるマスコミを批判させる。
南アルプスの麓で暮らす著者だからこそ書ける山岳冒険小説。 -
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星野夏実を中心とした南アルプス山岳救助隊員と救助犬の活躍を描いたシリーズの第3弾。
今作の相手は、人質を盾に北岳山荘に立てこもるテロリスト集団で、スリリングでエキサイティングな一気読みの傑作。
今回メインとなるのは、絶望的な状況の中で、心が折れることなく必死の抵抗をする、北岳山荘のスタッフ松戸颯一郎。
そして、山岳救助隊員の沈着冷静で空手のエキスパート、神崎静奈。彼女の、テロリスト集団との息詰まる格闘対決場面には、読み手の目が縛り付けられてしまう。
このテロリスト集団のリーダーの肉付けをしっかりとしたことで、物語に膨らみを持たせている。
このリーダーの経験した、カンボジアや東日本大震災での出来事は小説の中だけで、こんな事件や事故が現実社会では起ってはいないと信じたいが・・・ -
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南アルプス山麓に居を構える著者ならではの自然描写が、書中様々な場面で詳述される。
読者は、迫真の物語をしばし忘れ、主人公たちとともに八ヶ岳、南アルプス近辺を辿っているかのような寄稿文的臨場感を味わえる。
もちろん、この小説の主題はそんなところではない。
人と動物の棲み分け、人と自然の共生を問う意欲作であり、著者自身の生活体験から紡ぎだされた告発の書でもある。
その思いを、古参猟師に語らせる。
「・・・開発開発で山がどんどん切り崩され、必要もねえ大規模林道をあちこちにこしれえて、森はズタズタに切り裂かれる。人間の暮らしが作り出した有害なものをあちこちに埋めて、土や水は汚染される・・・」
山の怒りを体現する化身として巨グマ、巨イノシシが登場する。とりわけ、次々と繰り広げられる三本足の巨イノシシとの死闘の場面は、書を置く能わずの感。
その一方、人と犬の絆、人と人との絆は、心温まる描写となっている。
また、登場人物たちはそれぞれ家族や仲間を喪うことになるが、生者と死者の絆も描かれており、再三語られる言葉が印象に残る。
「死というものは忘れたり、克服したりするもんじゃない。共に生きていくものなのです」 -
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エキナカ書店大賞第1位、しかも『南アルプス山岳救助隊』シリーズの作者なら、きっと面白いだろうとの期待にそぐわぬ面白さ。
ネット心中で集まった男女5人組が、少女を助けたばっかりに、やくざに追われ警察には指名手配となる。
生きることに意義を見出した彼らは、逃げるのではなく自ら冤罪を晴らすべく、ただただ走り続ける。
裏にあるのが、強大な政治権力が絡んだ陰謀かと思いきや、破廉恥な行為をめぐる隠蔽工作だったとは・・・
ちょっと、思惑が外れた気がしないでもない。
だが、疾走感あふれ、彼らの奇想天外な活躍に拍手を送りたくなる、楽しさ満載のノンストップアクション小説の傑作。 -
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主人公は、南アルプス山岳救助隊に属するハンドラー。そして、共感覚という特殊な能力を持っている。
そんな彼女の成長物語かと思っていたら、終盤にきて事件性を帯び、俄然警察小説の趣きになって、急展開した。
著者は、南アルプスの山麓に居を構えているとのこと、それだけに山の描写は美しくリアルで、山の魅力はいやがうえにも読者に迫ってくる。(40年ほど前に北岳の頂上に立ったことを思い出させる)
山岳小説と警察小説とを融合した秀逸な作品には、笹本稜平氏の著者が多々あるが、さらに動物小説を加味したのは著者だけであろう。
東日本大震災、原発事故に触れられ、遭難者の死亡の事故等々もあるが、信頼し合う救助犬とハンドラー、爽やかで誇り高い山岳救助隊員たち、そして舞台は南アルプス。
読後に爽快感が残る傑作。
シリーズ化されているようで、次回作にも手が出る誘惑が・・・ -
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K-9シリーズはこういう短編集の方が好き。個人的な好みだが、このくらいのボリュームでほのぼのする感じが似合う。
夏実、静奈、進藤、深町という主要メンバーだけでなく横森や曽我野という若手メンバーにもスポットを当ててくれて良かった。次は江草隊長やヘリ部隊もお願いしたい。ついでに山小屋メンバーも。
山にいると人間は生かされているということをより感じられる気がする。動物、植物、自然の脅威とも共生し、だからこそ超自然現象のようなことも受け入れられるのかも。
ハンドラーと救助犬との絆が対等で良い。怪我をしたメイが捜索に連れていって貰えずプライドを傷つけられた感でふてくされ、それを宥める夏実の図。
病を推して救助に駆け回るカムイと最後まで一緒にいる進藤。あー、カムイ!
このシリーズを読むたびに山に登るのではなく登らせてもらう、くらいの謙虚で真摯な気持ちを持って入らないと、と気が引き締まる。それでも事故は起こる。
山は美しい景色を見せてくれるが、それだけではない。
救助隊のみなさんに感謝。
夏実と深町が良い感じになってるのが嬉しい。静奈は誰とお似合いかな、なんて思いながら読むのも楽しい。 -
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この物語の主人公たちは死の寸前まで行って引き返してきた、いわば自分が死ぬリハーサルをしてしまったような人たちだ。
否応なく事件に巻き込まれてからの彼らは活き活きとしている。
何かと文句を言ったり、不平不満は言うけれど、結局は見知らぬ少女を助けるためにまっしぐらに進んでいく。
まるで映画のような・・・という表現が出てくるけれど、まさに映画並みのカーチェイスを繰り広げ、銃弾が飛び交う中を走り抜ける。
とにかく「バンディッツ」のメンバーがカッコいい。
余命があろうとなかろうと、アル中だろうとなかろうと、そんなことは関係ない。
引きこもりだって、立場を利用した悪事を働いていたって、必死に戦っている姿は文句なくカッコいい。
読んでいて痛快な気持ちになってくる。
頑張れと「バンディッツ」を応援したくなってくる。
何故か悪役のはずのヤクザさえ「もっとやっちゃえ」と最後には言いたくなる。
終わり方もいい。
後味の悪さを残さない物語は、やっぱり気持ちがいい。