津原泰水のレビュー一覧
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2022年に急逝した津原泰水最後の長編。
「現代の青春小説を明治の文体で」というコンセプトで書かれた青春小説。確かに今は使われない仮名遣いや漢字が多く難渋。さらに主人公が新居浜出身ということで方言が多用されているのは、私には馴染みがあるから問題なく読めたけれど、そちらにも苦労する読者は多いだろうと思う。
夢を追って田舎から東京へ出てきた主人公・修文の日常を、入居した部屋に現れるという噂の幽霊のエピソードを絡めながら描く物語は、いつ何が起こるんだろうという期待を裏切りいつのまにか終わる。
でも青春一時期ってこんなものよねと、歳を重ねた今だからそう思うし、何も起きないその日々が、今となっては人 -
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ネタバレ大人の青春譚。
四十代に入った中年が高校時代を振り返り、吹奏楽部再結成に向かう話。
私はブラバン経験もないし、楽器も作中の音楽もてんでわかりませんでしたが、「ああ、青春の振り返りは甘いもので、けど現実に戻ったときの衝撃も大きいなぁ」と感じた作品でした。
年月が経って変わらない人もいれば、音信不通の人もいる、変わり果ててリスカする飲んだくれになっている者もいる。
発案者の桜井さんは土壇場で披露宴取りやめで、クライマックスは悲しみに溢れてしまう。
主人公も順風満帆とは程遠く、振り返った後は悲しみが残るような感じで描かれていました。
割と救いが無い人は完膚なきまでに無いよなぁ…
特に先生…
流 -
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たまさか人形堂物語の続編。
4つの連作短編と1つの戯曲。
登場人物の人となりがわかってきたからか、前作よりも思い入れが深くなる。
冨永君のスランプは、彼の内に秘めた悩みを反映させる深刻なものだったけど、そこから抜け出るきっかけとなった彼のやり方、その現場での澪の涙にホロリときた。
師村さんが髪の伸びる市松人形の手業の奥深さに感じ入り自分に人生無駄ではなかったと涙するシーンは感動もの。
そして澪と束前さん、口は悪いけど互いに憎からず思い合っているような関係性がなんだかいい。
彼らのこれからをもっと見ていきたかったのに、もうそれが叶わないことが残念でならない。 -
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「たまさか人形堂ものがたり」の続編。
出版社を変えての新装版。書下ろしの「戯曲 まさかの人形館」も収録。
澪が亡き祖母から引き継いだ〈玉阪人形堂〉は、人形の修理を主に請け負っている。職人は腕利き人形師の師村と人形マニアな冨永。
前作では主に師村の過去に迫る話だったが、今回は冨永。
遅刻も早退も長すぎる昼休憩もあり、店主の澪にも平気できつい言葉を投げつける傍若無人な冨永なのだが、今回は彼にスランプが訪れる。
人形を作らない澪には『作り手にのしかかる重圧は、永久に分からない』と冨永に突きつけられた澪。少しでも彼らに寄り添おうと木目込み人形の教室に通うも、自分が思った以上に不器用であることが分か -
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本友の紹介レビューを見て、いつか読みたいと思っていた作品。後回しになっていたけど、作者突然の訃報を新聞で目にし、今読むしかないと追悼読書。
会社をリストラされ祖母が残した小さな人形店を継ぐことになった澪は、優れた技術を持つが謎の多い職人・師村と人形マニアの青年・冨永の助けを得て修復を中心として店をなんとかやりくりしている。
持ち込まれる人形に関わるちょっとした謎を絡めながら、職人の人形への思いや、その矜持を静かの描く連作短編7篇。
澪の優柔不断なところとか、冨永の遠慮を知らない物言いとか読んでいて居心地悪くて、あまり好きなタイプの登場人物じゃないな〜と思っていたけど、最後に来てやっと3人 -
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ネタバレあとがきによると「賑やかな孤立」とでも称すべき情感がこの作品に通底する、世界中の現代人が共有している、普遍的な感覚と思われているとのこと。
私が作品を評価するなんてたいそうな見識や豊かな情緒、多彩な表現力があるわけでもないのだけれど、感情的に私的な感覚でいえば、毎日毎週毎月毎年読み返したい、という激情はなく、何年か後にふと、フレーズや情景を思い出して、読み返したくなる予感がする、といった書籍でした。
幻冬舎騒動なんてのは読み終わってから初めて知ったのだけれど、早川書房の文庫版の帯、《この本が売れなかったら、私は編集者を辞めます。》なんて今日日言う人がいるのかという驚きと、口だけのパフォーマン