あらすじ
映画音楽の勉強のため四国から上京してきた修文。幽霊が出ると噂される風月荘704号室を舞台に、「音楽」という夢の船に乗り合わせた人が奏る、切なくも美しい、著者最後の青春小説。
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Posted by ブクログ
新居浜から東京の音楽専門学校へ入学した若者の青春譚。劇的な事件が起こるわけでもない、驚嘆するような幻想が現出するわけでもない。ただ、内省的な青年が東京で暮らし、夢分けの船にいつしか乗ってしまい、どこへ向かうかも分からず日々生きているだけ。なのに読んでいて、かくも楽しく引き込まれ作品自体が愛おしくなるとは。作家の文章技巧のなせる技なのだろう。氏の新作はもう読めないのか。嗚呼。
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読んでからしばらく経ってから感想だけ書く。津原泰水先生の作品の中では凄く好きな方ではないかもと読んでいる最中は思った筈なのに読み終わってから何度も思い出してしまうのでやっぱり好きなんだと思う。印象的なシーンが多い。大きな蛾を二人で出そうとするシーン、目の不調のために回廊のような病院に行くシーン、最後の岡山と主人公の別れのシーン。そして特徴的な文体。きっとまた読み返すと思う。
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『ヒッキーヒッキーシェイク』をきっかけに著者のことを知り、『たまさか人形堂』を読んでみたらこれがまさに好みど真ん中。本作では語り手の巧みな語り(方言もだけどそれだけでなく)に翻弄され、読者は時代や空間、夢と現実の境い目を行き来させられる。2022年に急逝されたので本書が遺作となってしまったが、過去作品が次々と文庫化もされているのでこれからの楽しみにしたい。
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宛字(借字)の文体に慣れるまでは、いちいち気になってしまうが、リズムが掴めてしまえばシンプルな青春物語だった。修文モテすぎやろと思いつつ、物語の終い方が好きだった。
著者、亡くなっていたと知らず。あとがきで驚いた。
Posted by ブクログ
2022年に急逝した津原泰水最後の長編。
「現代の青春小説を明治の文体で」というコンセプトで書かれた青春小説。確かに今は使われない仮名遣いや漢字が多く難渋。さらに主人公が新居浜出身ということで方言が多用されているのは、私には馴染みがあるから問題なく読めたけれど、そちらにも苦労する読者は多いだろうと思う。
夢を追って田舎から東京へ出てきた主人公・修文の日常を、入居した部屋に現れるという噂の幽霊のエピソードを絡めながら描く物語は、いつ何が起こるんだろうという期待を裏切りいつのまにか終わる。
でも青春一時期ってこんなものよねと、歳を重ねた今だからそう思うし、何も起きないその日々が、今となっては人生いち輝いていて、妙に懐かしく切ないものだということが胸に迫ってくる。
そしてこの内容を今の軽い文体で書かれたら、それこそ面白くなかったかもと思うと、この文体あってこその詩情が心地よかったという感想。