津原泰水のレビュー一覧
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人形堂の主になった元OLと、店にもちこまれる人形たちの話の第2弾。
まぁ、ほかの面々が個性的すぎるので、主人公はこうじゃないとダメなんだろうけど、彼女にはいらっとさせられることが多くてww
彼女の成長記でもあると読めば、さもありなん、ではあるのだけど、でもなぁ。
今回は、束前氏が素敵でした。
あまり人にいえない類の人形を作っているのだけど、仕事に対するプロ意識がすごい。
職業に貴賤はない、っていうのを体現している。
個々のエピソードはよかったし、全体的に面白いんだけど、なんかもやっとした感じになるのは…。
単に主人公が好きじゃないから、ってだけか?? -
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ネタバレゆるやかにつながりを持つ連作短編集。長編とも呼べる。
物語の含む柔らかさ・温かさ・厳しさも勿論だが、特筆すべきは「会話」の緩やかさ・鋭さ。
こいつらの丁々発止をいつまでも聞いていたいと思える。
個人的には漱石→奥泉光→津原泰水の水脈が見えた。
「香山リカと申します」
「髪が伸びる」
「小田巻姫」
「ピロシキ日和」
「雲を超えて」
エピローグ「雲を越えて」。
かつて自分が書こうとして挫折した小説のことを思い出して、心地よく敗北宣言を胸に刻む。
2冊の中に2冊以上のボリュームが篭っているからこそ、この章の深みが味わえる。
(カラックス「ホーリー・モーターズ」の結末が取ってつけたものでないのも思い出させてくれた) -
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ネタバレグレン・ミラーが終わったので僕は『アルルの女』をかけた。すっかり酔ってしまった風情の笠井さんが僕をつかまえていう。「他片くん、ビゼーはええねえ・ビゼーの曲は優しいねえ」ビゼーを優しいと感じる、あなたが優しいのだ、と僕は思った。
顔を上げると、父は亀岡さんと話しこんでいた。僕のかかえている楽器を指し、あれはコピー商品ではないのか、なぜ他社の楽器をコピーするのかなどと不粋なことを訊いている。
「あれは一つの完成形なんで、もはや改良の余地がないんですよ」と亀岡さんは無難に答えていた。「ヴァイオリンやピアノは、いまあ全部同じ形でしょう」
「ほいでもこうして見たら、エレキはずいぶん色んな形がありますね」
「あえて変わったんを好まれるお客さんもおってんです。基本はいま、息子さんが弾きよっての形です」
父は納得したように見えた。僕に近づいてきて訊いた。
「その形でええんか」
「あーうん」と、いちおう頷いた。形はフェンダーと同じだから、なんの文句もないのだが、良い楽器かどうかはまったくわからなかった。父は亀岡さんを振り返り、「この本物はありますか?」
「フェンダーですか」と彼はたじろいだ。壁の高い位置を示して、
「あそこに一本ございますが」本物のフェンダー・プレシジョンベース。塗装はサンドバースト。もちろん僕はその存在を知っていた。アホみたいに立ち尽くして眺めた日もある。今日のところは見ないようにしていた。フェンダーが一本しかない楽器店? と若い人は首をかしげるかもしれない。当時はあるだけでも凄かったのだ。「弾いてみたいね?」と父は僕に訊いた。僕はぽかんとなってしまい、返事ができなかった。
「あれを弾かせてやってください」
「かしこまりました」
亀岡さんの言葉つきや動作は豹変し、父の十数年来の忠実なしもべのようになった。
「あの程度の女に惚れてしもうて、アホな男じゃ思いよろうが」
「ーーいえ」
「言い訳せんでもええ。顔を見りゃわかる。お前はそういう人間じゃ」
「誤解ですよ。桜井さんにも来る途中、意地が悪いいうて言われました。なんでなんでしょう」
「思うとることを口にださんけえよ。相手が見て欲しい部分じゃなしに、見てほしゅうない部分をさきに見つけて、しかも黙ったままでおるけえよ。それがみな怖いんじゃ。お前の先輩としてふるまうんはプレッシャーじゃった。ダイでさえお前は怖い言いよった」
「すまんの。いちおう上に相談したが無理じゃった。その代わりというわけじゃないが」彼は窮屈そうなポロシャツの胸ポケットから折り畳んだルーズリーフを取り出し、テーブルの上に広げてこちらに向けた。B♭cl(3)、Fl(2)、A.sax(1)、T.sax(1)、ーー。僕が全部読みきらぬうちに彼は続けた。「典則で長いこと使われとらん楽器のリストじゃ。何年もケースを開けとらんらしいけえ、修理が必要かどうかすらわからん。つまり音楽室からときどき消えても誰も気づかん。岸田先生以外は」僕は息を吸い上げた。
「頼んでくれたんか」
「べつに頼んじゃおらん。なんべんか一緒に飲みにいっただけじゃ。もし他片くんや桜井さんがもういっぺん頭を下げにいっとったら、同じ紙を渡されたろうよ」
僕は黙ってこうべを垂れた。
「やっと後輩じゃいうのをカミングアウトしたよ。儂も確かにあのクラブにおったもんの」
「おったよ。中心におったよ」
「なに言いよんや。こっちが永倉を追いかけとったんじゃ。まだ追いつかん」彼は頭を振った。それから腕時計を見て、行かにゃ、と腰を上げた。 -
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津原泰水の原作、もうあまり細かく覚えてはいないのだけど、並行世界の移行の装置としての「くだん」というSF的なアイデアの新鮮さが強く印象に残った記憶がある。
今回、近藤ようこの漫画を読んでみると、たしかに同じ物語なのに、まったく異なった色彩で見えてきて、まさに「くだん」によって違う世界に運ばれたみたいだ。幻のように消えていくような世界(それが私たちの生きている歴史)の中で、いわゆる「畸形」として放逐された5人が創りあげる「家族」の力強さが、くっきりと焦点を結んでくる。あちらの世界に行ったふたりが、この失われた世界を想っているラストシーンは、自分の足元が不確かになるような不思議さ。おもしろい。 -
購入済み
五色の舟
発売当初から、ずっと、読みたくて読みたくて、でも、手に入らなくて、電子図書でやっと
購入できました。もう、何回読み返したか、わかりません。これからも、わかりません。
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かけがえのない青春時代、とはよく言いますが、時を経て振り返るときになればあえてそれを実感するもの。当時は今を生きるだけで精いっぱいだった。そしてそれで良かった、そんな時代。大人になったらそんなわけにはいかないから、そのがむしゃらに打ち込んでいたモノがあったあの頃がとても眩くも感じられる。
…そういうことをほろりほろりと思った、ブラバンに打ち込んだ高校生時代と現代を行き来しながらつづられるかけがえのない日々の物語。
広島弁の温かみが味わいがあって良かったですし、シニカルで容赦もあんまりない25年後の現在の人々の姿もかえってリアルで親近感もあります。
みんなその時その時一生懸命に日々を生きていて、今も昔もうまくいかなかったりもしたけれど、それでもかけがえのない音楽と絆がある、そのうつくしさを感じたのでした。 -
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ブラバン小説というと…「楽隊のうさぎ」とか、現役中高生を主役にしたものが思い浮かぶ。
でも、これは「その時」から遠く離れた大人からの物語。
着実な人生を歩む者、消息不明の者、そして死んでしまった者。
それぞれの人生が重なり合って、複雑な色合いが見える。
現役のブラバン中高生が読んだら…あまり面白いとは思ってくれないかも。
バンドを舞台にするだけに、登場人物が多く、また時間が交錯するので、うっかり読むとすぐにわからなくなる。
自分よりもちょっと上の世代がモデルなようだ。
ほぼ同世代の方が読んだら、その時代の空気を思い出せて、また別の面白がり方ができるのかもしれない。
私もブラバンで「弦バス」を担当したこともあって、楽器にまつわる話はちょっとわかる部分があるけれど…
やっぱり楽器に穴をあけてしまう件は、どうも感覚的に受け入れられなかった。 -
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幻想、SF、ホラー、文学など11話の作品を収録した短編集。
自分が今まで読んだことのない物語たちでした。短編それぞれが多種多様なジャンルをまたいでいる、というのもありますが、それに加え文章もそれぞれの短編の味を最大限に引き出すため、それぞれに工夫が加えられている、そんな風に思いました。
そうした短編たちばかりだったので初読での評価が非常に難しい、というのが正直な印象…。自分の理解の範疇を越えているように感じた短編もいくつかあって、あらためて小説の世界は広いのだな、と感じました。
そんな中印象的だったのは、異形の家族がたどり着く新たな運命を描いた「五色の舟」。幻想的かつ圧倒的な物語の力、想像力の強さを感じさせられます。これまでも、そしてこれからもこういう作品は生まれないように思います。
「微笑面・改」は自分の顔の前に常に別れた妻の顔が見えるようになった男の話。シュールなホラー形かと思いきや最後で男がたどり着いた心理は過ぎ去った過去への郷愁を感じさせます。
「琥珀みがき」はショート・ショート。ラスト一行でぐっと心がつかまれます。
脳科学と音楽をテーマにしたハードSF「テルミン嬢」は理論が難しかったものの読みごたえは十分。
そして「土の枕」も「五色の舟」に負けない唯一無二の短編であるように思います。20ページに満たない短編ながら、戦争と、戦後の時代の雄大かつ急な流れ、そしてその流れの中での人間の小ささ、そんなものを濃密に感じさせてくれる短編でした。
既存の小説で満足できない、という人にはぜひ読んでみてほしい短編集です。自分もまた時を置いて再びこの短編集は読むことになるのだろうな、と思います。
第2回twitter文学賞 -
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ネタバレ九年前に海辺で溺れ、大脳の機能を失い脳幹のみが機能し生存している理沙。
東京各所にて、七本肢の巨大蜘蛛が目撃されたり、
高速道路で津波に遭遇されたりなどの現象が起きる。
理沙の父の木根原は担当医の龍神から、これらは理沙の夢想が引き起こしているという話を聞き、起きている現象に心当たりを覚え動き出す。
第一章バレエ・メカニックは理沙の父親木根原サイド、
第二章貝殻と僧侶は理沙の担当医龍神好実サイド、
第三章午前の幽霊はチルドレンとなった山岸外起夫サイドで構成されている。
読み進むにつれていったい誰の語りなのかと不思議さが増していったが、なぜかその不可解さが読み進めさせているような気がした。
読んでいてすごいと感じたのは、
幻想、夢想の世界にひきこまれると同時に、
ものすごいリアルさを感じてしまうことだ。
現実なのか夢想なのか登場人物たちも判断できなくなっていくが、まさにそれを体験させられるような感覚をもたせる文章ですごかった。
ただ難解なのは間違いない。
けど、それでも読めたことについて考えると
それだけのおもしろさがそこにあったということだと思う。