あらすじ
その頃の私はいつも、どこか疲れていたし注意力散漫だった。蓄積していた疲れは私を無気力にした――漠然とした不安のなかで日常を過ごす三十代のグラフィックデザイナー・入栄暁子は、祖母の遺品から発見された、夭折の詩人・寒川玄児の日記帳を手渡すため、その孫である古楽器職人に会いに行く。この、無愛想な男との出会いは、沈んでいた暁子の心を強く揺り動かした。彼は日記の礼にと、暁子に自作の竪琴を託すが。二人とその祖父母を繋いだ“絆”と“謎”を鮮やかな筆致で描いた、静謐な恋愛小説。/解説=日下三蔵
...続きを読む感情タグBEST3
Posted by ブクログ
活字で描かれている異性は暗いというか、影のある人に惹かれる。実際にいたら意外とうっとうしいのだろうけど、活字で読むと何だか素敵に思えてしまうのだ。
で、この作中に出てくる寒川氏がとても素敵。影、めちゃくちゃありまくり。あまり読まない恋愛小説(ってカテゴライズしてしまっていいのだろうか)の中でも1、2を争うくらいに好きでござる。淡々と、でも切ない気持ちにさせられる。
Posted by ブクログ
『バレエ・メカニック』から読みはじめた私としては、津原泰水ってこんな作品も書けるんだーと、ちょっと意外。
まったく毛色が違うけど、すごく好きな作品。
祖母の遺品として出てきた夭折の詩人の日記を孫・耿介に渡しに行く暁子。楽器職人である耿介はお礼に赤い竪琴を渡す。それを自宅に持ち帰る暁子。
翌日、暁子は耿介に恋をしていると気づく。
ここで、暁子と一緒に耿介に恋できるかどうかで、この作品の評価が分かれそうなんだけど、私は耿介の登場から完全に目にハートマークがついてました。
でも、よく読むと、耿介の容姿につてはまったく触れられてないのよ。
なのに、「この人好き」って思えるってどういうこと?
私はそれを、津原泰水の文章力の凄さだと思ってます。
暁子は夭折の作家となにか関係があったのではと思われる祖母との関係を、自分たちの関係になぞらえます。
こういう思い込みも、なんか共感できる。
私もそういう妄想タイプだ。
好きだと思いながら、積極的になれない、線引をしてしまう暁子と、それに呼応したかのように淡白な耿介の他人行儀な関係にイライラしつつもドキドキしてしまう、そんな恋愛小説です。
Posted by ブクログ
無気力に生きる暁子と楽器職人の耿介。近いようで遠く、淡白で深い不思議な恋愛観。
なんとも表現しがたいが、窮屈そうにみえるのに憧れる距離感。淡々としているのに切なく、わざとらしくない描きかたがとてもよくて、とにかく、うまく言えないが好きなんだよなぁと思う。どう好きなのか表現できないのだが。空気?やっぱり距離感かな。
Posted by ブクログ
気がついたら恋に落ちていた。
相手のことなんてほとんど知らないのに。
直球の恋愛物語。
創元推理文庫から出ている作品だけど、ミステリとしてではなく、恋愛小説として読んだ。
だって、恋愛って多かれ少なかれミステリでしょ。
100%オープンに分かり合っての恋愛って、そもそもあるのかしら?
相手の気持ちがわからない。
自分の気持ちがわからない。
どうしたいのか、どうされたいのか。
何事も生真面目に思いつめるタイプの暁子が、どうしようもなく耿介に惹かれ近づいて行きながらも、なかなか一歩が踏み出せないもどかしさがよい。
一冊まるまるがもどかしいほどの恋うる心。そこがよい。