あらすじ
会社をリストラされ突如無職となった澪(みお)は、祖母が遺した小さな人形店を継ぐことにした。人形マニアの青年・冨永と謎多き職人・師村の助けを得て、いまでは人形修復を主軸にどうにか店を営んでいる──自分がモデルになったという、顔を粉々に砕かれた創作人形の修復を希望する美しい女性。だが、その人形が創られたのは、彼女が生まれた頃と思しい三十年以上前のことだと判明する(「毀す理由」)。ほか、伝統的な雛人形を有する旧家の不審死、チェコの偉大な人形劇団の秘密など、名手が人形を通して人の心の謎を描く珠玉の短編を収める。書き下ろし短編「回想ジャンクション」を収録。/解説=紅玉いづき
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Posted by ブクログ
最も敬愛する作家の一人、故津原泰水氏の手になる珠玉の連作短編集。本当は一冊読めば、また一冊津原氏の未読の本が減る、それが寂しくて手を出すのを躊躇していたが、やはり繙いてしまう。創元のこととて、帯に「ミステリ連作集」とあるが違う。これは津原氏の人形愛から紡ぎ出された人形を巡る短編集。もちろんミステリの味つけのものもあるが、風変わりな恋愛譚、幻想譚、芸術家の凄みを表した芸術小説、職人の人生を描いた短編という多彩なもの。やはりどれも津原節が横溢。読み進めるに従ってたまさか人形堂が、登場人物たちが好きになるので、最終話、寂しくなるが、最後にほっとして、次作への期待が脹らむ。読んでよかった!
Posted by ブクログ
津原さんの新しい作品が読めなくなるのはつらいな。
幻想的な作品の一方、こういうヒューマンな作品も手がけている。
その懐の深さというか、筆の多彩さというか。
やはり、つらいな。
Posted by ブクログ
本当に、素敵な物語だった。穏やかで静かな時間が人形堂に流れていた。人形を軸に紡がれる魅力的な物語。人形に深い造詣がある作者によって描かれる人形の描写。兼ねてから人形に興味があったが、本書を読み、より興味を持つようになった。これまでは主に球体関節人形に興味があったが、文楽人形などの日本人形にも興味を持った。歴史で習った人形浄瑠璃はつまらない、難しいという印象を持っていたが、その奥深さに感嘆すると共に惹きつけられた。
本書は手元に紙の本として置いておきたい一冊となった。
Posted by ブクログ
連作短編集。元々会社勤めをしていた店主の澪さん、人形マニアで天才肌な青年・富永くん、謎だらけな職人・志村さん。三人の関係性が私には心地よかった。解説者の「淡麗」という表現が本当にぴったりな物語。澪さんは人形の知識こそないが、富永くんや志村さんが納得できるまで自由に作業できる場所を提供しているように見え、それはかなり重要なことだと思うのだが、当人の認識とは異なるから困る。続いて欲しい。
Posted by ブクログ
久しぶりに続編が出たのかと喜んだら出版社を変えての再版だった。だが書下ろし短編が加わっていたし久しぶりに津原さん作品の一筋縄ではいかない感じを味わえて良かった。
主人公はリストラされ再就職までの繋ぎとして祖母が営んでいた小さな〈玉阪人形店〉を引き継いだ澪。
だが資産家の坊で人形マニアな冨永と、謎の多い腕利き人形師・師村という二人の職人を得て、人形修復に店の主軸を移すと経営が軌道に乗り始める。
依頼人がモデルだという活人形と、少年が添い寝に欠かせないテディベア。大切なはずの人形たちが持ち主自身によって無残に壊されたのは何故かという第一話「毀す理由」。
この後の話も修復のために持ち込まれる人形を巡る謎が続くのかと思わせておいて、そうではないのは津原さんらしい。
第二話「恋は恋」のラブドールの話はミステリーというよりはその製作者・束前との出会いが主体だった。
第三話「村上迷想」の丹能家の殺人事件はガッツリしたミステリーなのだが人形の絡みは少なめ。
第四話「最終公演」は津原さんの『幽明志怪』シリーズのような不気味さがあり、書下ろしの第五話「回想ジャンクション」に至ってはホラーだ。
第六話「ガブ」では澪が師村の正体に迫る。個人的には本人が望まないものを無理に暴く必要はないのではと思うのだが、そのおかげで良い出会いもあった。そして澪はある決断をする。
最終話「スリーピング・ビューティ」はドタバタ喜劇のような話なのだが、最後の澪と冨永のやり取りは津原さん節全開。
冨永は本当に資産家の坊ちゃんだったのだなと改めて分かる。
初読がずいぶん前なので記憶が薄れていたが、冨永だけでなく師村も澪に結構失礼なことを言っている。まだ三十代半ばの澪に中年女と言う冨永に対し、姥桜という誉め言葉があるなどと塩を塗り込むようなことを言う師村。
今ならセクハラだなんだという話になりそうだが、澪も負けていないし上手く返しているので嫌な感じはない。
それから記憶していた以上に束前の存在感が大きかった。師村の正体に迫ったのは彼のおかげだし束前との交流は今後も続きそうだ。
師村と冨永が職人としての視点だけでなく人形を持つ者、愛玩者としての心理も読み解こうとするのが良かった。
澪は『なんの土台もないままこの世界(人形の仕事)に入った』わけだが、そうした素人目線も必要だろう。さらに束前に言わせれば『人を使う才覚がある』そうだ。二人が遺憾なく才能を発揮し気持ちよく仕事をしているのは澪がそうした環境を作っているからだろう。
詰めが甘いのは本人も自覚している通りだが、師村と冨永、束前など心強い仲間がいるから大丈夫と思える。
続編「たまさか人形堂それから」も創元推理文庫から間もなく出るらしい。読んでみよう。
Posted by ブクログ
本友の紹介レビューを見て、いつか読みたいと思っていた作品。後回しになっていたけど、作者突然の訃報を新聞で目にし、今読むしかないと追悼読書。
会社をリストラされ祖母が残した小さな人形店を継ぐことになった澪は、優れた技術を持つが謎の多い職人・師村と人形マニアの青年・冨永の助けを得て修復を中心として店をなんとかやりくりしている。
持ち込まれる人形に関わるちょっとした謎を絡めながら、職人の人形への思いや、その矜持を静かの描く連作短編7篇。
澪の優柔不断なところとか、冨永の遠慮を知らない物言いとか読んでいて居心地悪くて、あまり好きなタイプの登場人物じゃないな〜と思っていたけど、最後に来てやっと3人のその後を見たいと思わせてくれた。
続編が終わる頃には、きっとこの3人と離れ難くなっているんだろうな〜。