福田恆存のレビュー一覧
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血を血で洗う薔薇の戦争
約束は脆く、愛は偽り
突き動かすは復讐の炎
他の悲劇とはその動き方が違うように感じられる。悲劇の歯車がひとつひとつ噛み合って徐々に動き出すのに比べ、リチャード三世はすでに悲劇が動き始めた状態で幕が上がる。人を呪わば穴二つ、因果応報、どのような形にしろ、不条理な形で死を迎えるのではなく、始まりからすでに血にまみれた死の臭いが漂い、物語全体が果てのない復讐で包まれている。
父を殺され、夫を殺され、子供も殺される。憎い敵でも、偽りの愛だとわかっても、結婚せねばならぬ。それはただ、ランカスター家だとかヨーク家に生まれたがため。たとえ王の前で、神に誓って手と手を取り合っても、も -
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遠く離れた森の中
愛と嘲笑が交差する
お気に召すまま暮らす中
それでもすべてが調和する
暗い出来事が下地となっているのに、どういうわけか悲劇とならない。それは、愛の力が初めからひとを結びつけているからか。その愛を育むのが、人里離れた森の中。屋敷にあのままロザリンドたちがとどまっていたら、きっとマクベスやオセロ―のように悲劇になっていたんだと思う。背景の描写は細かくなされていないのに、確かに存在感があるアーデンの森。劇のときは、やはりこの森をどう表現するか演出家や舞台さんの力が求められるところ。疲れ切った心を和らげ、愛の力が存分に発揮される森。
愛という夢を紡ぐのは、男装したロザリンド。男性と -
Posted by ブクログ
解説を読んで驚いたのが、このストーリーに原案があったこと。完全オリジナルと思い込んでいました…
いずれにせよ、この作品が素晴らしいことに変わりはありません。硬質なのに曖昧でわかりにくい法律文章を解釈によって血の通ったものにするという裁きの真骨頂を思う存分味わえます。
シャイロックからの借金という主題のあらすじは多くの人が知っていると思いますが、ポーシャの夫探しやロレンゾーとジェシカの駆け落ちという脇道も面白いです。
シェイクスピアの魅力といえば、一番はそのセリフです。世の真理を孕んだ、まさに劇的な掛け合い。文章で読むと仰々しいけれど、きっと舞台では登場人物たちにいきいきと語られるんでしょうね。 -
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シェイクスピアの最後の作品「あらし」に加え、メンデルスゾーンの結婚行進曲でお馴染みの「真夏の夜の夢」
あえて夏の夜の夢と訳した理由もキリスト教の文化圏から考えると納得できる。
どちらの作品も妖精が物語に重要な役割を果たしていて、物語性がより一層増している。また、下地になる作品がなく、ほぼシェイクスピアの想像の世界でできている。
どちらの作品にもこれまでの悲劇作品のような愛憎劇が多分に盛り込まれているのにも関わらず、それを超越した力で喜劇にまとめ上げているところに、シェイクスピアのひとつの終着点がみえる。
だが、どうしても作品が短いためか、その転換が煮詰まらないまま成されているような気がしてしま -
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ネタバレブルータス そうなのだ、キャシアス、もちろん、おれはシーザーを深く愛してはいる……しかし、何か用があるのか、こうしてさっきからおれを放そうとせぬが? 何が言いたいのだ? もしそれが公のためになることなら、右の目には名誉を、左の目には死をさしだすがいい、おれはそれを二つながら平然と眺めよう。神々もお守りくださろう、このおれには名誉を愛する気もちの方が強いのだ、死にたいする恐怖よりも。
シーザー もっと肥っていてもらいたいものだな! いや、気にかけはせぬ。ただ、もしこのシーザーの名にとって気にかかる何者かがあるとすれば、まず誰よりも先に遠ざけねばならぬ人物が、あの痩せたキャシアスだ。あの男は本