神林長平のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
ネタバレ最初に断っておきます。
これから書く感想は、個人的なノートに書いたものを転載しているだけなので非常に分裂的な文章になっているが、オレの頭は正常である(はず)のでご安心ください。
神林作品の登場人物たちは皆、何かしらの独特なユーモア感覚を持っているのだが、この作品に登場するキャラクターは全員共通して「能天気」だ。この脳天気という性格、つまりは個人の希望的観測をポジティブな方向に考えられる人間と言うのは、神林作品では次第に強調されていくことになる。
例えば、初期作品では「踊っているのでなければ踊らされているのだろうさ。」と言う文に代表されるように、自身が何か別の存在に操られていたり、自意識は幻想であり、それらを悲観的な形で表現する話が多かった。
しかし、徐々にそういう状況下においても「それがどうした。」と、開き直り、自分が納得できるように力強く生きていくキャラクターが目立つようになってくる。
つまり、能天気なキャラクターが異常な世界に対する対抗策になるのだ。
今作もまさにその通りの話である。物語序盤で主人公たちは死ぬ。そして平行世界へ飛ばされ、迷惑一番と名乗るタヌキのぬいぐるみと行動を共にする。状況は実にシリアスである。生きるか死ぬか。自身の存在が危機的状況に置かれているにもかかわらず、主人公たちはギャグを連発し、面白おかしく、臆することなく、突き進んで行く。実に能天気だ。
特筆すべきなのは、主人公たちはなにも冗談を言って眼前の事実から目を背け、思考停止しているわけではないのだ。自分たちの置かれた現実を受け止め、考察した上で、能天気さを失わずに行動する。クーデターを起こし、銃撃戦をしている最中でさえもユーモアたっぷりな思考をし続ける。
結局、飛ばされた並行宇宙から戻ることは出来ないのだが、それでも自分の居場所を作り出し、生きていこうと決意できる強さは見習いたいと思う。
平行宇宙を移動できる迷惑一番から元の宇宙次元へと送られてくる情報は何の信頼性も持たず、SFを自動で書く機械を造っただけだと言うアイデアは面白いなと思った。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ発刊当時のハードカバー版を途中で放棄してしまったので文庫で改めて買い直し。
一度挫折したのが嘘かのようにのめり込んで一気に読破してしまった。
認識論、言語論、コミュニケーション論、宗教をSFという箱にぎっしり詰め込んだ、神林長平流の哲学書でした。
劇中で登場人物たちはジャムの策略により意識をシャッフルされてしまい、人間のみならず異星体ジャムや雪風のような戦闘知性体との意識の共有も体験してしまうけれど、その様子がごまかしやファンタジーを排除した硬質さで破綻なく描かれていて、さすがはこの著者だなと思わされた。
機械には本当に世界はこう見えてるんじゃないか、と想像してしまう。
お互いを認識しあったことで、地球人対ジャムの戦争がこれから本当に始まる。
続きが出るのを十年でも二十年でも待ちます! -
Posted by ブクログ
そこまでSFに明るいわけではないが、火星に住むアンドロイドと人間に対立を描いた物語は割と映画などでも結構ネタにされている印象がある。
しかし本書は26年前の小説で、今となってはありきたりな設定の物語でも物語は新鮮なまま本の中に残っている印象。2012年になった今でも古臭さは感じられない。
SF作品だと未来設定の上に作者による何かしらの哲学的な考えが発せられていて、どうにも難解に感じがちだが(特に最近の作品は)、本作は単純なエンタメ要素と文学的なテーマが上手い具合に混ざっていて、とても読み易かった。
後半の展開はやや急な印象を覚えたが3部作の一作目として、今後裏で何が起こっていたのかが徐々に明かされていくのだろう。
オチも伏線はあったものの見事に気付けなかった。「SF」だと思って読んでしまうとついついミステリ的に慎重に読む事を忘れてしまう。 -
Posted by ブクログ
・・・クルマの詳しい設計とか専門用語はサッパリわからない。
自転車のハンドルとタイヤをつなぐ軸に角度をつけないと安定しない…というくだりはどこかで聞いたことあったなあ…くらい。
おじーちゃんたちが愉快なので、専門用語の難しいのは相殺されてるけれど。
この本は、魂と人間と意識の話なんだと思って読んだらすんなり入ってきた。
自分の魂はわたしになにを要求しているのだろう。
なにがしたいのか。それがわかる日が来るのか。来ないまま肉体が限界を迎えるのか。魂の欲求を完全に満たしてやったとき、魂は満足して消滅するのだろうか。自分はどう生きるか、なんのために生きているのか、生かされているのか。それはある意味「魂」まかせ、すべては「魂」のおもむくままに…?
そう思うと…ちょっと肩の力が抜けたかんじがしてきた。
これって「あなたの魂にやすらぎあれ」ってこと? -
Posted by ブクログ
なぜか人間の臓器が崩壊してしまうという奇病が突然蔓延し、人類は高度な人工臓器の開発と臓器移植技術により最初の混乱から脱した。
その後、人工臓器市場を独占していたライトジーン社が解体され、臓器製造は各部門ごとに新たな会社として独立した。
主人公の「菊月虹」は、人工臓器をめぐる犯罪を取り締まる中央署第4課に雇われている。実は彼はかつてライトジーン社が製造した人造人間で、「サイファ」と呼ばれる特殊な共感能力を持つ。普通人の思考を読んだり、思念の力だけで、普通人の心臓をも止めたりできるスゴイ能力だ。
彼はある事件で知り合った新米刑事タイス・ヴィーと共に人工臓器が絡む事件を解決する…
こんなに派手な設定なのに、アクションは少ない。最初はちょっと拍子抜けした。本とウィスキーを愛する主人公のコウさんが、社会との関わりを最小にしている自由人で、40代という体力はないが自己の確立したオトナで、さらに「テレパシーより喋ったほうがラク」という考えの持ち主だからなのかもしれない。
中篇7話の連作で一話ずつ事件が解決するので、先をあせらずゆっくり読めた。コウさんが容疑者にされる「ダーマキスの皮膚」とタイスのはしゃぎっぷりが可愛らしい「ヤーンの声」が面白かった。 -
Posted by ブクログ
神林氏の単行本二冊目にして長編第一作、実は初読。汚染された地上に住むアンドロイドと、彼らが生み出すエネルギーを利用して地下で生きる人間たちの物語……と書くと、ごくありきたりな設定のごくありきたりなSF作品のようだが、リアルで緻密な科学技術設定とリアルで切ない登場キャラクターたちの感情が同居する神林作品は、やはり「ありきたり」では終わらない。硬派で王道な“サイエンス・フィクション”なのに、そうした理系の理論ベース上に、繊細微妙な文系の世界――まさに“文学”世界が広がっているこの持ち味が本当に好きだ、と再認識。
「人間」の生きる目的、「人間」を「人間」たらしめているものは何か? アンドロイドという異種生物(バイオ体なので実際に「生物」)と比較せねばそれは見つけられないものなのか? 読後感は切なく、でも新しい世界への期待にも満ちている。批判すべき点はあっても悲観すべきではない、終末が来てもその先に新たな始まりがあるという姿勢で世界に臨む神林作品の目線は、作品世界がどう展開しようともタイトルの祈りの言葉通りにあたたかい。“SFとして”というジャンル分けは不要な傑作だと思う。