神林長平のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
ネタバレ発刊当時のハードカバー版を途中で放棄してしまったので文庫で改めて買い直し。
一度挫折したのが嘘かのようにのめり込んで一気に読破してしまった。
認識論、言語論、コミュニケーション論、宗教をSFという箱にぎっしり詰め込んだ、神林長平流の哲学書でした。
劇中で登場人物たちはジャムの策略により意識をシャッフルされてしまい、人間のみならず異星体ジャムや雪風のような戦闘知性体との意識の共有も体験してしまうけれど、その様子がごまかしやファンタジーを排除した硬質さで破綻なく描かれていて、さすがはこの著者だなと思わされた。
機械には本当に世界はこう見えてるんじゃないか、と想像してしまう。
お互いを認識しあっ -
Posted by ブクログ
そこまでSFに明るいわけではないが、火星に住むアンドロイドと人間に対立を描いた物語は割と映画などでも結構ネタにされている印象がある。
しかし本書は26年前の小説で、今となってはありきたりな設定の物語でも物語は新鮮なまま本の中に残っている印象。2012年になった今でも古臭さは感じられない。
SF作品だと未来設定の上に作者による何かしらの哲学的な考えが発せられていて、どうにも難解に感じがちだが(特に最近の作品は)、本作は単純なエンタメ要素と文学的なテーマが上手い具合に混ざっていて、とても読み易かった。
後半の展開はやや急な印象を覚えたが3部作の一作目として、今後裏で何が起こっていたのかが徐々 -
Posted by ブクログ
ネタバレ戦闘妖精・雪風シリーズ第2弾
生まれ変わった深井零と雪風の新たな物語
ただ依存するだけであった雪風との関係、自身の戦いの意味を見つめることで、自身のあり方を再認識し周囲への関わり方を変えてゆく深井大尉。軍医のエディス・フォス大尉、過去の自身を喚起させる雪風の新フライトオフィサ桂城彰少尉との関わりを経ることで自身の変化と向き合い雪風との関係性も変化していく。メイヴという新たな体を得た雪風、フォス大尉にもたらされたツールも駆使して機械の戦闘知性体としてそのキャラクターを確立してゆく。愛する/人と機械の複合生命体というようにフォス大尉が評した深井大尉と雪風の関係性の描写も素晴らしい。
ジャムとの接触 -
Posted by ブクログ
さらにはまった。雪風の〈I have control / I wish you luck... Lt.FUKAI〉にやられた~
「人型アンドロイド」とか「中央コンピュータ」でなく、「戦闘機」に意志があるふうに感じるという設定がいいなあ。ジャムの『我は、我である』も最高!『おまえはだれだ』に対する究極の答えだし。
深井さんの精神的成長も物語の軸で、なんのために生きているのか、に対する答えはたぶん一生かかっても普通はわからないんだけど、深井さんはだんだん自分の周りにも人がいるって分かって、関わらずにはいられないことを知るのだ。「他者とのコミュニケーション」がテーマなのかな。
他者とは人間だけに非ず -
Posted by ブクログ
・・・クルマの詳しい設計とか専門用語はサッパリわからない。
自転車のハンドルとタイヤをつなぐ軸に角度をつけないと安定しない…というくだりはどこかで聞いたことあったなあ…くらい。
おじーちゃんたちが愉快なので、専門用語の難しいのは相殺されてるけれど。
この本は、魂と人間と意識の話なんだと思って読んだらすんなり入ってきた。
自分の魂はわたしになにを要求しているのだろう。
なにがしたいのか。それがわかる日が来るのか。来ないまま肉体が限界を迎えるのか。魂の欲求を完全に満たしてやったとき、魂は満足して消滅するのだろうか。自分はどう生きるか、なんのために生きているのか、生かされているのか。それはある意味 -
Posted by ブクログ
なぜか人間の臓器が崩壊してしまうという奇病が突然蔓延し、人類は高度な人工臓器の開発と臓器移植技術により最初の混乱から脱した。
その後、人工臓器市場を独占していたライトジーン社が解体され、臓器製造は各部門ごとに新たな会社として独立した。
主人公の「菊月虹」は、人工臓器をめぐる犯罪を取り締まる中央署第4課に雇われている。実は彼はかつてライトジーン社が製造した人造人間で、「サイファ」と呼ばれる特殊な共感能力を持つ。普通人の思考を読んだり、思念の力だけで、普通人の心臓をも止めたりできるスゴイ能力だ。
彼はある事件で知り合った新米刑事タイス・ヴィーと共に人工臓器が絡む事件を解決する…
こんなに派手な設定 -
Posted by ブクログ
神林氏の単行本二冊目にして長編第一作、実は初読。汚染された地上に住むアンドロイドと、彼らが生み出すエネルギーを利用して地下で生きる人間たちの物語……と書くと、ごくありきたりな設定のごくありきたりなSF作品のようだが、リアルで緻密な科学技術設定とリアルで切ない登場キャラクターたちの感情が同居する神林作品は、やはり「ありきたり」では終わらない。硬派で王道な“サイエンス・フィクション”なのに、そうした理系の理論ベース上に、繊細微妙な文系の世界――まさに“文学”世界が広がっているこの持ち味が本当に好きだ、と再認識。
「人間」の生きる目的、「人間」を「人間」たらしめているものは何か? アンドロイドという