梶井基次郎のレビュー一覧
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心理描写と情景描写のバランスがいいのか、単純に両方上手いからなのか、とても読みやすい短編集だった。
特に「泥濘」という短編が印象に残った。
まず「泥濘」という字がとても綺麗。「ぬかるみ」とも「でいねい」とも読むらしく、個人的にはでいねいが好み。濘はさんずい(水)+寧(安らぐ)で構成されていて、柔らかい雰囲気がある。
作品としては、日常の停滞感や重苦しさをリアルに感じられるものだった。不活発と活発を繰り返しつつ、結局は同じ場所に留まっているような、足を取られて進みにくい様な感覚や心境に共感できた。構成上は逆だが、これを読んだ後に「檸檬」を読んでも面白い気がした。 -
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現実の生活が重苦しい。焦燥。嫌悪。憂鬱。肺尖による熱。ある日、果物屋で一個の檸檬を買う。檸檬はひんやり冷たい。香りを嗅ぐと温かい血のほとぼりが昇ってくる。憂鬱が紛れる。書店(丸善)に入る。すると憂鬱がまた立ち込めてくる。画集(美術)の棚に行き、重い本を積み上げてみる。奇怪な幻想の(本の)城。その城壁の頂に恐る恐る檸檬を据えた。檸檬の周囲だけ変に緊張している。書店を出る。檸檬が大爆発し、気詰まりな丸善がこっぱみじんになる姿を想像した。梶井基次郎『檸檬』1925★
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佐藤春夫『田園の憂鬱』1919
あめあめ ふれふれ かあさんが じゃのめ(和傘)で おむかえ うれしいな ピッチピッチ チャップチャップ ランランラン。北原白秋『あめふり』 1925
山椒魚。岩屋の中に棲んでいるうちに体が大きくなり、外に出られなくなる。独りぼっち。深いため息。すすり泣き。ある日、一匹の蛙が岩屋にまぎれこむ。山椒魚は蛙を外に出られないよう閉じ込める。他人も自分と同じ状態へ引きずり込んでやる。山椒魚と蛙は罵り合いを始める。一年が過ぎ、二年が過ぎた。蛙は深いため息をつく。蛙「空腹で動けない、もう駄目のようだ」。山椒魚「今、何を考えているのか?」。蛙「今でもべつにお前のことをおこってはいないんだ」。井伏鱒二(いぶせ・ますじ)『山椒魚』1929★
「これは何という木ですか」と、お墓のそばの木の名をたずねたが、町長さんの返事は海風に消されて聞こえなかった。井伏鱒二『瀬戸うちの人びと』1965
慾はなく、決して瞋(いか)らず、いつも静かに笑っている。あらゆることを自分を勘定に入れずに。寒さの夏はおろおろ歩き。誉められもせず苦にもされず。宮沢賢治『雨ニモマケズ』1934
ジョバンニ。孤独な少年。ザネリにいじめられている。ある日、丘の上で星空を眺めていると、いつの間にか列車の中にいる。そこには親友カムパネルラの姿も。列車の中で、化石を発掘する学者、鳥を捕まえて商売する人、かおる子・タダシ姉弟に出会う。気づくと、親友カムパネルラがいない。ジョバンニはもといた丘にいる。川に落ちたザネリを助けようと川に飛び込んだカムパネルラが見つからないという。宮沢賢治『銀河鉄道の夜』1941
※カムパネルラ。太陽の都のトンマーゾ・カンパネッラから、という説。
私。男。絵を描くのが好きな女・節子に出会い、恋に落ち、婚約。病弱な節子に付き添い、南アルプスの療養施設(サナトリウム)で暮らすことに。死の臭いと生の幸せ。節子は夏の暑さで体力を失い、冬に血痰を吐く。ある日、節子は私の髪を撫でながら、髪に雪が…とつぶやき、息を引き取る。自然なんぞが本当に美しいと思えるのは死んで行こうとする者の眼にだけだ。堀辰雄『風立ちぬ(風が立った)』1938
セバスチャン・ロドリゴ。男。ポルトガル人。イエズス会の宣教師。恩師フェレイラ神父の消息を確かめるため、キリスト教布教が禁止されている日本に密入国。幕府に捕えられる。絵踏を拒んだ日本の信徒(貧農)たちが穴吊り・水責め・磔などの拷問を受ける。ただでさえ貧しく過酷な生活をしている貧農たちが、キリスト教徒であるがため、さらなる苦痛を味わっている。しかし奇跡は起きない。神の声は聞こえない。救済も現れない。ロドリゴ「なぜ神は沈黙しているのか」。幕府「おまえがキリストの絵を踏めば、農民たちへの拷問は止める。表向きの棄教でよい」。ロドリゴ「神への忠誠を貫くために、他人の命を犠牲にしてよいのか」。ロドリゴは苦悩する。「踏むがいい」。キリストの声を聞いた気がした。ロドリゴはキリストの絵を踏み、背教者として生きる道を選ぶ。遠藤周作『沈黙』1966★
〇キチジロー。男。貧農。キリスト教信者。何度も棄教し裏切るが、何度も赦しを求める。人間の弱さ。
〇クリストヴァン・フェレイラ。男。ポルトガル人。イエズス会の宣教師。ロドリゴの恩師。日本で拷問を受け棄教。日本はキリスト教の育たない沼沢地。
〇井上筑後守。男。幕府の役人。ロドリゴを論理的・心理的に追い詰める。
〇ガルペ。男。ポルトガル人。イエズス会の宣教師。キリシタン農民を助けようとして殉教。
*バテレン追放令(1587), サン=フェリペ号事件(1596), ロドリゴ上陸(c1638)
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苦労を重ね(原因が身体にあるにしても)参ってしまった人間の、暗いモヤモヤした日常を正確に描いている。
不思議と負の感情は少なく、小さなことに幸福や安心を見出したり、また暗闇に落ち着いたりする。
精神的に病んだ経験がある人ほど共感を得やすいかもしれない。
多くの人が漠然と持っていたりする、あまりに抽象的な感覚が日本語でハッキリと表現されていてハッとする。
このような精神状態を文学として言葉にして表現された例はあるのかないのか知らないが、ここまでリアルな感覚は他にないのだろう。
非常に独特の読後感。
梶井基次郎の世界観に飲まれて脱力する。
現代の忙しさから逆行する感覚がある。
唯一無二であることが素晴らしいのであるならば、梶井基次郎の短編集は日本文学の頂点のうちのひとつ言えるかもしれない。
個人的には非常に好みの作品で、作者の心情を汲み取りながら、限りなくゆっくり読むほうが楽しめると思う。 -
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文豪6名の最後を飾った作品を集めたもの。同じような趣旨で、デビュー作代表作を集めた「文豪誕生」も読んで出版社の策にとても共感している。
表装は今風というかアニメタッチな文豪が1人、芥川だろうかと想像する。
登場する6名の文豪、初めましての方もいて、読書の門扉が少し開けた気がする。
それでも好きになったかと言うとそこまでではないが、この点が点と合って線になっていくんだろうなと思う。
特に芥川龍之介はこの作品でちょっと興味をもった。そして梶井基次郎は檸檬の他に機会があって良かったと思う。
文豪死すも文豪誕生も、名前は知っているけどそこまでじゃないと言う人にはぴったり。機会があったら読んでみると良いとおススメできるものだ。 -
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習作、遺稿を含めたすべての作品が収録されている。そのため、作品のいくつかは話が似ており、梶井基次郎が作品を完成させるまでの過程と苦労がわかる。また本書の末尾に、実際に梶井基次郎と親交があった宇野千代の文章も収録されており、宇野から見た梶井の人物像を垣間見える。それによると、人と話すのが好きでしかも話が面白かったという。その反面、自身の話については語ることは少なく、病気を患ったこと(それにもかかわらず激流の川の中に飛び込んだ)についても周囲に打ち明けなかったらしい。さらに解説によると、梶井は青春や病気に捉われたことで、日ざしや雲などといった世界を発見して、それが感情や感覚となって揺れ動いた自己を発見したのではないかと考えられる。