沢木耕太郎のレビュー一覧
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ボクサー、カシアス内藤の復活にまつわる人間ドラマ。一度破れた、韓国のボクサー柳に対戦を申し込み、リベンジに挑戦する。
上巻とかなり話が変わってくる下巻。というのも、作者自身が試合のマッチングやそのための金策をする話が多く、そこでスポーツに関係のない、人間の嫌な部分が、これでもかというくらいに描かれる。
不謹慎ながら、そこが一番面白かったのは、冷静な筆致ながら、かなり感情が顕になっていたからであろう。
試合結果は結局ダメで、ダメなりのハッピーエンドというのは予想していたが、グーッと上下2巻で引っ張って、割とあっさりなのは、個人的には好感を持った。こういう作品だと、試合こそ全て、という具合に -
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纏わりつくような粘度の高い人間ドラマ。次から次に起こる問題はノンフィクションを疑わせるほどだが、そこにある結末は残酷であり一抹の希望を感じさせるものである。
決意と現実に揺れる内藤、柳戦をマッチメイクするためのハードな交渉を担う沢木、内藤とエディとの強い信頼関係の裏にある極度に脆い緊張状態。すべては何のための闘いなのか。そこ先に何があるのか。目指した「いつか」は見つかったのか。
読む人にとっては内藤たちの格闘は大いなる敗北に映るかもしれない。朴戦に至るまでの1年の行跡は無駄足に映るかもしれない。しかし理亜ちゃんを膝の上に乗せて思い出した沢木氏の本心と、理亜ちゃんの笑顔は、不要なことはない偶 -
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本書はルポとはいえないかもしれない。筆者が被写体に入り込み自分の抱える閉塞感や焦燥感を内藤へ重ね託す。才能ある者は湯水の如く湧く才能を浪費し才能が疲弊し喪失しかかったときに取り返しの付かなさに気付き再起を図るのかもしれない。ニューオリンズでのカシアス・クレイ(アリ)の復帰戦はショービジネスと化した何とも言えない物悲しい残骸感が漂う。試合前の計量者やマネージャーの態度は戦う者への敬意が欠如した見世物に成り下がった実情を感じさせられる。
一方、カシアス内藤や大戸のボクシングへの真摯な姿勢に対して本番でのある種期待はずれの不完全燃焼な出来は弥が上にも現実は常にドラマチックとは限らない現実を突きつけ -
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確かに所得倍増って言われても、
それは月給のことなのかGDPのことなのか、
はたまた他の何かなのか、言われてみると良く分からない。
後の世代に生まれた者としては、
とにかく「景気の良い時代だったのだ」、
というだけの印象が大きい。
そういう曖昧模糊とした「所得倍増」の成立ちを、
池田勇人、田村敏夫、下村治の生を通して視ていくのは面白い。
そこには様々な意図、偶然、思想、人が絡んでいたのだ。
「テロルの決算」もそうだったが、
読むことで近代史に目を向けたくなると思わせてくれるところが、
この本の素晴らしいところだと個人的に感じる。
「未完の六月」は是非書いてほしかったが。 -
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所得倍増という池田政権下でのあまりにも有名なスローガン、未来を知る者にとっては時代の趨勢として割合に自然と実現したかのような印象をもっていたせいか、スローガンが世に踊る前、そして高度成長期においても大半の学者、政治家は高度成長に懐疑的、批判的であったんだということに、ちょっと驚く。スローガンだけに終わらせず、実現を信じて政策を実行させる力となったのは財務エリートたる大蔵省の中枢、ではなく、それぞれ出世コースから一度離脱を余儀なくされた敗者の3人だった。
人の縁、時の運、いくつもの偶然が隠されていたんだなぁと、あとがきを読みながらじんわりとした。
ノンフィクションの醍醐味を味わえる一冊では?