Posted by ブクログ
2010年03月13日
若いころ、沢木耕太郎氏のファンだった。「一瞬の夏」「敗れざるもの」「深夜特急」等々、それこそ貪るように読んだ記憶がある。
しかし、年齢を重ねるに従って、沢木氏の持つ優しさが少し鼻につくような感じがするようになって、いつの間にか氏の作品から遠ざかってしまっていた。
本書は久しぶり(10年ぶりくらい...続きを読むか)に読んだ沢木氏の作品である。
久しぶりに手に取ってみた理由だが、本書の舞台は1960年頃という高度成長期の日本であり、以前からこの時代についてもう少し知りたいと思っていたからである。
本書はその高度成長期の真っ只中のド真ん中にいた、首相の池田勇人(はやと)と、有名なコピー『所得倍増計画』の中心人物、下村治。そしてその二人の仲立ちをした田村敏雄の三人を描いたノンフィクションである。
読んでいて意外だったのは、とにかく『熱い!』のである。登場する3人も書き手である沢木氏も。ただ、その熱さの表現の仕方がそれぞれ異なっており、そのコントラストがまた素晴らしい。
この3人、頂点にたどり着くまでに文字通り、死と向き合わねばならないような苦難を経ており、キャリアのなかでもいわゆる「負け組」と目されていたのである。
その非常な苦難を乗り越えて来た彼らの取ったものが、『所得倍増』という究極の楽観論。ここにある意味での凄みを感じたのは沢木氏だけではないと思う。
久しぶりに「志」という言葉(僕なんかもう殆ど忘却の彼方だ)を思い浮かばせてくれる作品だった。
前編通じて興味深いのだが、最後のある部分で、恥ずかしながら大泣きしてしまった。きっと、いつの間にか失ってしまった大切な「志」というものに触れることで、心動かされたのだと思う。
テーマは非常に地味だが、これを読んで興味を少しでも持って下さった方なら、是非読んでみていただきたい作品である。