宮下規久朗のレビュー一覧
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美術はその国の歴史を紐解く鍵だ。
色使い、人や動物、物の配置など、その時代の特色がそこで判然とする。
また、政治や宗教を暗示させる美術は、後世に長く語り継がれ現在まで人々に影響を与えている。
今まで風景として見ていた絵を、描かれた時代や登場人物の表情や目線を読み解けば、作者が何を伝えたかったのかが分かる。
「マタイ問題」が不思議だった。全く知らない所から読み始めたものの、意味が分かってくると面白い。目を凝らす楽しさ。真実を追い求め、全てを知りたくなる探究心。
『最後の晩餐』でもそうだ、犯人などが明示されていない、または居るかすら分からない状態から読み解く研究者達の目は、子ども時代の好奇 -
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ネタバレプリマー新書として安心して人に勧められる。
『聖マタイの召命』の画中の5人の俗人のうち、
マタイは誰を指すのか?
広い視野で考察しているのが好印象。
特に時代背景・西洋画での身振りのお約束だけでなく、
絵の注文・制作の経緯から考察しているところに説得力を感じた。
限られた紙幅でカラヴァッジョの生涯はもちろん、
カトリックとプロテスタントとの仕事に対する姿勢の違いや、
キリスト教と仏教(日本)との臨終に望む姿勢の違いまで書かれていた。
カラヴァッジョの描く宗教画は遠い昔の出来事ではなく、
現実世界におけるリアルな幻視。
現地の光源を生かしたカラヴァッジョの技術とセンスに脱帽。
つまり我々も -
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聖マタイの召命は、ローマに行ったら必ず観に行ってほしい絵です。教会の祭壇に向かって左手奥にあります。
初めて見たとき、胸を打たれて、暫く動けませんでした。
宮下さんの書かれた本を読みながら、またこの絵のことを思い出しています。
我が家には、ローマの教会で買ってきた、聖マタイの召命のポスターが、いつも壁に貼ってあります。
今回、この本を読んで、美術史から見ても、この絵は革新的な絵なのだということがわかりましたが、私はむしろ、著書のこの絵についての深い愛に、共感しました。
私自身、西洋美術が大好きで、好きな絵はたくさんあるのですが、この絵は生涯の一枚だと、信じています。
絵の中で、どの人物が -
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図が多く絵画をカラー図版で確認できイメージしやすい。自分が行った展覧会や観たことのある絵画が思い出されて読んでいて嬉しい。
絵画や美術そのものの意味を問うている精神性の高い深い内容。「絵画とは何か、絵を見るとはいかなることなのか」(p.90)を考えさせてくれるモノとして絵画が紹介されている。
また日本の美術教育に対する懸念、問題提起もされている。美術史を学ぶこと、古今の実際の作品を観ること、そして名画を模写することをしないことにより「自分の感性だけで見ればよいという姿勢に結びつく」「好き嫌いだけで見ればよく、色や形の美しさを感じるだけでよいという誤解」がある(p.136)という言葉にはドキリと -
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ティツィアーノの受胎告知に影響を受けたのが、エルグレコの受胎告知。
中世は圧倒的に神の時代。ルネサンスがおこり、人間を基準として物事を眺める視点が生まれた。
アルチンボルドって、野菜とか花とかで人の横側描く奇抜な感じだったから最近の人かと思ってたけど、16世紀とかの人なんだな。
フランス革命前は教会や宮廷がパトロン。
政治的、精神的に果たす役割も大きく絵画がでかい。
以後は住居に展示されるようになり小さくなる。
日本での絵画は巻物や襖絵など私的なもの。
みんなで、鑑賞するという文化がなかった。たしかに。
だから春画も流行った。
ウォーホルは敬虔なキリスト教信者。あのスープ缶などは、 -
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西洋、日本の美術作品を、その時代や作家、モチーフの話題を交えて紹介している。新聞連載をまとめたもののため、テーマごとに短い文章で書かれて読みやすい入門書的な内容。さらに専門書で深い知識を得たくなる良書だと思う。
筆者が「美術を見るということは、感性だけの営為ではなく、非常に知的な行為」というように、歴史や寓話、作者、描かれた時代の知識を踏まえて鑑賞することで、作品の深みが増すことがわかる。
「美術というものは古今東西を問わず、どんな天才的作品であっても必ず過去の作品と密接な関係を持っており、時間と空間の制約の中からしか生まれないものであって、芸術家の天分や創意工夫などといったものはごくわずかな -
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ネタバレ◆面白かった!絵画の中で象徴的に用いられる66モチーフの意味や用例を示した参考書。カラー図版もふんだんに挿し込まれた贅沢な1冊。西洋絵画だけでなく、東洋のものについても触れられている。さらなる参考文献が紹介されているのもうれしい。できれは、高価でも、文庫でなくもう少し大きめの冊子で読めたら申し分ないんだけど。◆「蝶」「魚」「種」「手紙」「書物」「ヴァニタス」「梯子」が興味深かった。特にオランダ絵画における「手紙」と絵の中の絵「海をゆく船」との関係には物語を感じてうっとり。これは、知らなきゃ損してしまうな。◆後書きを読むと、執筆時、著者がプライベートで大変キツイ想いをしていたことを知る。最後に置
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美術史家・宮下規久朗氏の新刊。
絵の掲載は十分で、全てカラー、各章が完結で安定の読み心地だった。
近年開催された美術展にフォーカスし、代表作を解説されていたのが目新しい。
自分が訪れたものも多く、美術展の印象の振り返りにもなった。
「イスラエル博物館所蔵 印象派・光の系譜」展で展示された、レッサー・ユリィ『夜のポツダム広場』は実際に会場で見たが、確かに印象深いものだった。
1920年代の戦間期のドイツで、敗戦と経済混乱からの復興、そしてその後に起こる新たな歴史の予感を、にじんだベルリンの夜景を通して描いている。
宮下先生といえばカラヴァッジョは定番だが、今回はアメリカのカラヴァッジョとい