坂東眞砂子のレビュー一覧
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これがホラー小説大賞佳作とは思えない文章力。自分は本当に巧いと思った。
男と女という性を強く意識させられる、繊細で丁寧にかつねっとりと描かれた心情や思考は著者独特の領域。妄想ではないかという疑いをうっすらと持たせられながらも進行していく描きっぷりは「ローズマリーの赤ちゃん」を連想した。振り返ると、大きな流れはホラーのお手本のような展開だけれど、主人公と夫との関係が見事に小説として面白くて、そこが読みどころかな。
作中にたびたび挿入される海外の戦争のニュースは、何となく意図がわかるようなわからないような。主人公の強迫観念的な恐怖と、社会という外部の終末的な(けれど現実感のともわない)恐怖が重な -
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南の島に古くから伝わる砂絵サリタを軸に、戦前、戦争末期、そして現代のストーリーが交代で進んでいく。途中からは、死んだ人間の視点も時折加わり、それぞれのストーリーがひとつにつながって、伝承の謎も解明された…と思いきや、時間が巻き戻され…。
夢だったというよりも、もうひとつの未来だったのか。
視点が変わるたびに、前の段の言葉をつないでいく手法も凝っていて、うまい。勤勉とは対極にある、南の島の粗野な力強さは、作者の得意とする舞台設定で、描写にも熱い息づかいを感じる。
直木賞を受賞した山妣の印象が強烈で、ずっと追いかけているが、じつのところ最近はピンとくる作品がなかった。本作は、久し振りに読み応え -
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最初、道祖だの猿嫁だのという単語があったので、民俗学を取り入れたホラーなのかと思いましたが、全然違って、蕗という一女性の一代記でした。
蕗は猿みたいない顔なので、嫁入りしたときに「猿嫁」と軽蔑されます。しかし懸命に、地道に日々励むなかで、次第に閉鎖的な村社会にも受け入れられていき、かけがいのない存在へと変わっていきます。
もちろん架空の人物ですが、土佐地方の歴史を織り交ぜつつ、明治・大正・昭和と激動の時代を股にかけて、次々に襲いかかる困難に力強く立ち向かう主人公の生き方が、とても痛快です。
こういう小説を大河小説というんだな、と納得した作品です。