あらすじ
東京で、証券会社に勤務する青年・竜介。多忙を極める仕事と、半年前に妻を交通事故でなくした心の傷から逃れるがごとく、郷里、高知の寒村に帰省した。そこで後家の篤子と再会し、次第に心惹かれて行く。向こう岸の山の斜面に建つその家を訪ねるには葛橋を渡らねばならない。古事記の伝説に基づき、黄泉の国とこの世をつなぐといわれる葛。その葛で編まれた吊り橋が竜介にもたらしたものは……。男と女の心に潜む亀裂と官能が、深い闇から浮かび上がる表題作を含む、傑作中編小説集。
...続きを読む感情タグBEST3
Posted by ブクログ
高知の村人の特性、山の風景、すべてがリアルに描写されている。誠実で良心的な人間の心の奥に潜む、憎悪や復讐心。良い人間が虐げられて、でも死んでからちゃんと復讐する。気分がいい。高知の女は気が強い。
Posted by ブクログ
面白かったです。
暗すぎず、怖すぎず。一本樒が一番好きかな。またたび酒の虫の話は、わ〜!と思ったけど。梅酒とかつけてみたい。
そういうまめまめしい女性の暗い話がかなりツボでした。
葛橋も、あの世につながる話ですごく魅力的。性的描写がなければもっと好きだな。
Posted by ブクログ
徳島県は祖谷渓にあるかずら橋を2度ほど訪れたことがあり、書店で本作を見かけたときにそれを思い出して購入。しかし本作はそんなノスタルジックな気分をかき消すような、少し陰鬱な気分になる中編三作が納められた作品。
「一本樒」「恵比寿」は地方での安寧な暮らしぶりが、外界の異物ーー坂上と鯨の糞ーーによって歪まされてしまう様子が描かれている…んですかね。どちらも地方の主婦が主人公で、“香気”が意味有りげに登場するところが共通しているように思います。
「一本樒」は昼ドラや二時間サスペンス的な印象。ストーリーの面白さよりは、樒の香気が“美しいもの”から不気味な印象に変わってしまうところが不思議と強く記憶に残っています。
「恵比寿」はダークなおとぎ話というイメージ。欲に翻弄されて願いはかなうけどその代償に… こちらは樒の香気と同じく、恵比寿様の笑顔が不気味に感じられる、薄ら寒い気分になるお話でした。
「葛橋」は妻を亡くした男性が主人公。ここで登場する葛橋は徳島のそれではないようですが、作りは同じく蔦のみで編み上げられた橋。イザナギ・イザナミの話と関係があるのは創作なのか分かりませんが、それを知ると葛橋の存在そのものが少し不気味に感じられてきます。
いずれの作品も人物描写がしっかりしていて、久々に人の顔が分かる小説を読んだ気がします。ただ後味はあまり良くなく、うなだれてしまうような読後感。いつかまた葛橋を訪れる際は、本作を思い出してよりいっそうのスリルを味わうことが出来そう…
Posted by ブクログ
表題作を含む中篇小説が3本収められています。
ミステリーでもホラーでもないけれど、人間の心の奥深くに潜んでいる説明のできない“不思議さ”のような部分がどの話の中にも書き込まれています。
Posted by ブクログ
坂東眞砂子氏の中編集。彼女お得意の土俗ホラーというものではなく、2編が怪奇物で1編が奇妙な味系か。
まず怪奇物2編は冒頭の「一本樒」と末尾の表題作。
前者は妹のやくざ紛いの情人が姉夫婦の家を付き纏うというお話。ネタ自体は特に目新しい物はないのだが、樒やまたたび酒などの小技が効いている。
後者は妻を亡くした男が仕事の忙しさに疲れ、故郷の徳島に帰った時に出くわす怪異譚。
この作品のモチーフとなっている葛橋は私も祖谷にある物を渡った事があるだけに興味深かった。古事記の伊邪那岐命の話から葛橋はあの世とこの世を結ぶ橋という設定を生み出した(実際そう伝えられているのかもしれないが)坂東作品の王道であるが、処理の仕方がいまいちか。
残る1編は奇妙な味とも云うべき「恵比寿」。
高知県の漁村に住む主婦、宮坂寿美が主人公で、サラリーマンから漁師へ転身した夫、3人の子供に舅姑の七人家族を支えて毎日慌しく過ごしていたある日、いつものように夫と子供らを送り出してパートに出かける道すがら、海岸に打ち上げられた奇妙な物体に気がつくことから物語は始まる。
淡い灰色のその塊はぐにゃぐにゃと柔らかく泡を固めたような物だった。家に持ち帰ると舅はかつて自分が漁師だった頃に南方の島で異国の者に見せてもらった鯨の糞だという。恵比寿様の贈り物だといって神棚に奉納していたが、寿美は娘の個人面談の時に娘の担任教師にその物体について尋ねたところ、龍涎香という抹香鯨の結石で香料として使われ、非常に価値のあるものだという。宮坂一家はその知らせに大金獲得の夢に思いを馳せるのだが、というストーリー。
坂東作品の中では珍しくどこかコミカルであり、新機軸として面白く読んだ。皮肉なラストはちょっと余計かなとも思ったが、この作者らしからぬ処理の仕方に逆に好印象を持った。
各3編に共通するのはどれもがどこか片田舎を舞台にしているということで、それぞれが小市民ながらも一生懸命生きているという生活感が滲み出ているところ。坂東作品の持ち味である登場人物が抱える業が無いのも珍しいと思った。『屍の聲』が短編であるのにもかかわらず、それぞれの登場人物が業を抱えているのにだ。
しかしそれゆえにちょっとあっさりとした感じがするのも確か。
全く贅沢なものである。
Posted by ブクログ
初めて読んだ著者の作品が、今まで読んだことのない類だったので、別の作品も読んでみようと思って手に取った。
前回のものは単なるエロ小説だと思ったが、今回は違った。読んでいる間中、ずっと後ろを確認したくなるような恐ろしさがあって、話にも引き込まれた。
でも、どの話も読後感が良くなく、「イヤミス」ならぬ「イヤバナ」(読んだ後、イヤな気持ちになる話)だなーと。
ただ、これは好みの問題。私は楽しく本を読みたい派なので評価が低いが、きっとすごく好きな人もいると思う。