あらすじ
婚約者と奈良の実家に帰った玲は、かつて姉の綾が結婚目前に首を吊った蔵にはいる。姉の遺品に見つけた、珍しい蛇の浮き彫りのある古鏡。その日を境に、玲の心の中で何かが変わっていく。近くの発掘現場で掘り出された、ふしぎな水濠址。祭りを前に一人焦る、神社の神主。もうじき「みぃさんの祭り」がやってくる……連子窓からひっそりとお互いを覗きあう古い町で、何かが起ころうとしている。神代の闇から語りかけてくるのは誰? 人の心の移ろいを描き出す傑作伝奇ホラー小説。
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古代史と日本古来の信仰に翻弄される運命を描いた恋愛ホラーの傑作 天孫降臨からの系統で大和政権を築いた人たちは、天照大御神をはじめとする天津神を信奉していた。日本古来、土着の神である国津神を退散させるために崇神天皇が鏡作職人に作らせた鏡(八咫鏡)が、伊勢神宮と賢所にある。
その更に複製が鏡作神社のご神体となっているが、盗まれていた。蛇神の妻として生贄となる女性たちが鏡によって惑わされ心に潜む情を表出させられ死を選ぶ。
多黄子、綾、玲、霧菜と、それぞれ女性たちを取り巻く事情から情念に惑わされ死を選ぶに至る心の動きが、日本古来の信仰と共に進行する様子が描写され、スリリングで引き込まれるストーリーとなっている。最後のページまで何が起こるかと期待させるところも凄い。
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「死国」「狗神」などで知られる坂東眞砂子氏のホラー・カルテット(実質)最終作。
「死国」から変わらない、作者独特のテンポのよい語りのスタイル、土俗的暗さを持つムラの描写はそのままに、ストーリーの展開、登場人物の描き方、そして神話・民俗学的奥行きの深い世界観が完成を見た。
舞台は他の小説の舞台と異なり、奈良であるため、方言は奈良弁である。作者は、大学時代奈良に居住していただけあり、方言も自然である。
個人的にはホラー・カルテット最高の傑作だと思うのだが、なぜか他作品に若干知名度が劣るのが残念でならない。
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この人の小説は一筋縄ではいかない。予定調和で決して幕を閉じないのだ。
人間の業はまだ終わらないというメッセージが共通して感じられる。
そして、『死国』、『狗神』、この作品と3作品通して共通しているテーマが、死者の再生。失われた者たちが生者の心の隙間を利用して甦ってくるという設定が一貫して、ある。
生を営む者たちが心の奥底に潜ませている愛という名の傲慢さを発揮した時に、再生を虎視眈々と狙っている死せる者達が牙を剥く。そして坂東眞砂子氏はこの生者たちが己の感情の赴くままに犯す過ちを描くのが非常に巧い。
私を含め、すぐ隣にいる誰かが心に孕んでいる感情、それは凡人であるがゆえに説明できない気持ちや想いをこの人は実に的確に表現する。その心理描写は読中、ページを捲る手、文字を追う眼をはたっと止めるほどストレートに心に飛び込んでくる。恰もページから手が出てきて心臓を鷲掴みにされる、そんな感じだ。
今回も読中、思い惑う表現がいくつかあった。いくつかピックアップしてみよう。
①主人公、玲が自身の性格について語るシーン。
「多弁なのは、(人と喋るのが好きなのではなく)沈黙に耐え切れないからだ」
②同じく玲が婚約者広樹の性格について語るシーン。
「この人は私を見ようとしていないのだ。(中略)それぞれ、相手への自らの愛情の深さをいとおしんでいるだけ」
③そして玲が親類の美佳伯母さんの性格を語るシーン。
「気はいいのだが、自分の言動がどんなに他人を傷つけるのかがわからない女だった」
これらを読むとドキッとする。そうそう、こういう人たちっているんだよなぁと思う反面、これは私のことを客観的に表現しているのではないかと。特に①は私にかなり当てはまる。
こういう文章に遭遇するとき、この作者の人間観察の眼の確かさに感心するとともに戦慄が奔る。出来れば逢いたくない、とまで思ってしまう。
またこの作者は実にドラマ作りが巧い。
玲が一成と契りを交わした直後に、なかなか電話を掛けてこない婚約者広樹から電話が掛かってくる。そしてその台詞「ひどいな、玲ちゃん」の巧さ!
そして首を吊った玲を助けに入るのが一成ではなく、想いが離れつつある広樹である所なんかも巧いなぁと思ってしまった。人物配置と小道具の使い方が非常に巧く、何一つ不自然さが無い。
そして玲と一成の鏡池でのキスシーンの官能的な事!泥にまみれた二人の指が絡まるところは二人の止まらない愛情の激しさが行間から匂い立つようだった。
これほどまでに構成がしっかりしているのに、結末をああいう形で終わらす事に実は私自身、戸惑いを感じているのだ。
これこそこの作者の資質なんだろうが、個人的には余計な味付けだと思った。レストランに食事に行き、おいしい料理を堪能した後で、最後に出てきたデザートが陳腐だった、そんな感じがするのである。
やはりここはあるべきところに収まって欲しかったなぁ。残念。
あと最後に1つ。人が首吊り自殺した縄を腰に巻くと陣痛が軽くなるというエピソードが作中出てくるのだが、これは本当なのだろうか?
もし嘘だとしたら、死と生を弄ぶがごときこの作者の想像力は恐ろしい。
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期待以上に面白かった!
大好きな奈良と神話が題材となっていて物語にのめり込めた。
玲の気持ちの変化も、丁寧に書かれていたし。
ラストがん?という感じも、するけど良かった
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今年初めての一冊は、日本人でよかった~!と思える伝奇小説。坂東さんの狗神に衝撃を受けて、虜になってしまった。これも、日本的な湿った怪奇小説で、舞台が奈良の土着的なお話。とにかく世界観がドハマリなんです。好き嫌いあると思うけど、日本人でヨカッタ!
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板東さんのホラーにはまっていた時に読んだ本。
霧菜に、すごく共感してしまった。
怜が元彼のことを考えている時の
・私は浮き輪のように彼にしがみついているだけなのかもしれないという言葉に考えさせられた。
あぁあたしもしがみついてたのかも。
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ひっそりと歩み寄る恐ろしさを感じる秀作。
心の弱い部分につけ込まれるとどうしようもなくなる様は、共感できるだけにわかっていながらも罠に嵌っていく心境にさせられる。
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日本古来の八百万の神への信仰に興味があるので、それだけでも楽しめた。でもそこに、結婚を控えた女性や、下半身不随の少女などの揺れる心境が見事に重ねて描かれていて、日常の中の心の迷いからふと、「あちら側」の世界に引き込まれてしまうこと、あるのかもしれないなぁ・・・と思ってしまう。
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地元で「みぃさんの祭り」がおこなわれる直前に、恋人の広樹をともなって実家に帰省した永尾玲は、蔵の中で蛇をかたどった鏡を発見します。この鏡は、三年前に自殺した玲の姉の綾が首吊り自殺をおこなった場所に置いてあったものでした。
斗根遺跡の発掘をしていた田辺一成は、玲から蛇鏡の話を聞き、興味を示します。広樹のつれない態度に、将来の幸せについて漠然とした不安を抱いていた玲は、しだいに一成に惹かれていきます。
その一方で玲は、父の前妻だった多黄子が、33年前にやはり蔵で首を吊って自殺し、その足元に蛇鏡があったこと、さらに姉の綾が自殺したとき、彼女は婚約していた男性ともう一人の男との間にはさまれて苦悩していたことなどを知ります。しかも、多黄子も綾も、みぃさんの祭りの日に自殺を図ったというのです。自分と同じくうつろいがちな恋に悩んでいた永尾家の女性たちが、みぃさんの祭りの日に自殺していたことを知った彼女ですが、一成に惹かれていく自分の心をどうすることもできず、鏡と向きあいつづけてみぃさんの祭りまでの日々を送ります。
一成は、地元の鏡作羽葉神社(かがみつうりはばじんじゃ)が蛇と関係の深い大物主大神を祀っていることに興味をいだき、蛇神がよみがえる時が近づいているという神主の東辻高遠の依頼を受けて、蛇神にまつわる謎を解くために、神社に伝わる社伝の解読を急ぎます。
土俗的なホラー・ストーリーと、恋に悩む女性の心情がからみあって、独特の作品世界をつくりあげています。ただ、大掛かりな舞台設定の割には、ストーリーがやや単調に感じてしまいました。
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意識しての事ではないのだけれど、今年(巳年)に入ってから蛇に纏わる本を沢山読んでいる気がする。
土地土地によって伝わっている事の差はあるものの、古代から蛇と人間は密接な関係にあるのですねー。
現代に、こんな不思議な事が起こるわけないじゃん!
と頭では思っていても何だかゾクっときてしまう。
終わり方もスッキリしていて好みの本でした。
Posted by ブクログ
坂東真砂子初めて読んでみた。もっとこう、熱っぽいねっとりした作風かと思ってたけど、ひんやりしたねっとりだった。蛇だからなあ。あんまり好きな感じの話ではないけど、結構面白かった。しかし奈良が舞台っていうとこういう感じになっちゃうんですかねえ。
Posted by ブクログ
おどろおどろしぃ〜
昔の金田一耕助風なドラマで描くとこわいぞ〜♪
肝心なところなんだろうけれども、説明が長くって、つい斜め読みしちゃった…。
落ちがちょっとありがち〜な気もした。
退治できたほうがよかったなぁ。