支倉凍砂のレビュー一覧
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狼と香辛料第13作目はまたまたサイドストーリー。でも結構このシリーズの短編集が好きな自分がいる。
ロレンスが稼ぐ2話、ホロ目線の1話と、羊飼いノーラを護衛する黒き騎士・エネク(犬)目線の話が1話の4話。
やっぱりホロ目線の話は面白い。俺は完全にホロ派だから毎回短編集に1話は入れてほしいくらい。
ロレンス主体の話は個人的にお気に入りの話。シリーズの最初のあたりと比べると、ああ…ロレンスも漢になったなあ。とニヤニヤしながら読める内容。
エネクの一人称が我輩だったところがなんとなく予想どうりでウケたwなんとなく老獪な雰囲気を漂わせつつも、ちゃんと抜けているところが逆にリアルな感じがした。うちの犬もこんな感じだといいなあ。笑 -
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ネタバレ前巻では学園都市アケントでの学生たちの問題を解決したコルとミューリの二人は、教会が開く公会議において、教会改革を完遂させるための準備に突き進んでいく。しかし、その二人にもたらされたのは、コルの二つ名である「薄明の枢機卿」を名乗る偽者が現れたという知らせだった。いずれは予測されるような事態ではあったが、想像していたよりも早く自分の偽物が出てきたことに動揺したコルとミューリは、急いでその偽物が現れたという街エシュタットに向かうのだった。
実際の中世でもよく偽物の聖人のエピソードがあるように、インターネットどころか写真も電話もない時代においては、身元を自分で証明するというのは結構難しい。本作でもコルとミューリは、何回もハイランドの紹介状を持って旅に出ているが、これは第三者の権威がなければ、自分たちの身元を正しく証明することができないということの表れでもある。
そして薄明の枢機卿と呼ばれる存在は、この小説世界においては正統権威へのカウンターという意味があるので、身元を証明するものがなくてもおかしくない。その隙を突いて登場してきたのが偽物というわけだ。
もちろん本物は既存権力を背景にしているのだから、偽物を倒すというだけであればそれほど難しくない。しかしこの巻で話をややこしくするのは、この偽物の「革命の救世主」は、エシュタットという街において教会に立ち向かう新たな街を作っているということなのだった。いわば革命軍が新たな街を作っており、その精神的支柱として、薄明の枢機卿が存在するという構図になっているというわけだ。
当然、そこで偽物を糾弾したとしても、受け入れられるとは限らないし、何なら正統である方が偽物であるということになってしまう。そのことを現地に行って知ったコルとミューリは、問題をどのように解決するか頭を悩ませることになる・・・というのがこの巻の流れとなる。
最終的にはいつものようにコルとミューリが新しいアイデアを思いつき、エーヴやハイランドといった彼らをバックアップする人間たちの協力を得て問題を解決するのだが、今回はそれらの仲間たちに加えて、懐かしの「傭兵団ミューリ」が登場する。
戦のようなものが起こりそうな雰囲気がある問題においては、武力の下支えが欠かせないとコルが判断して彼らを呼び寄せたのだが、そんなことを思いつくようになったのはコルが大人になった証拠だ(本人も作中で自覚している)。
最終的には、物的な損害はともかく人的な損害は出ない状態で大団円を迎えるのだが、本作でコルとミューリが取ったアイデアというのは、これまでの巻のものとは少しスケールが違っており、いよいよ物語も権力争いの様相を呈してきたということを実感させてくれる。とはいえ、あくまでライトな世界観を大切にしているこのシリーズにおいては、最終的には誰も傷つかずに物語が終わるのだろうということは確信しているので、安心して読み進めることができそうだ。 -
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ネタバレ元々は『狼と香辛料』のスピンオフとして企画された『狼と羊皮紙』もどうやら、この辺りで折り返しに入ったらしい。このVII巻では前巻で少しずつ明確に見え始めた「コルが世界をどのように変えていくのか」という本作のメインテーマの一つをより深める巻になっている。
前の巻ではコルとミューリは異端の疑いを晴らすために赴いた場所で、本作を動かす要素の一つである「西の果ての新大陸」についてより深い知識を得ることになった。そしてその過程において、コルは教会の教理の根幹をなしていると思われる一つに対して疑いを持つようになる。すなわちそれは、「この世界は本当は月のように丸いのではないか?」といった、現実世界でも中世において大きな議論となった問題だ。
本作におけるコルは、この「もしかすると大地は丸いのではないか」という考えを、どうしても頭から離すことができない。21世紀に生きる読者である我々からすれば、地球が丸いというのは当たり前の知識である。しかし、この世界ではかつて歴史上でそうであったように、地球は平でなければならず、その考えを権威づけているのは、教会そのものであるらしい。歴史上ではガリレオが異端審問にかけられて「それでも地球は動いている」といった逸話がよく知られているが、同じような関係がこの小説世界でも成立しているようだ。
そもそもコルの旅立ちの理由は「正しい神の教えを伝えることができていない教会組織をたてなおす」ことが目的だった。言い換えてみると、コルは教会という組織の在り方については批判的であったわけだが、教理そのものに対して批判をしていたわけではない。
ところが大地が丸いかもしれないという疑問は、その考え方の枠組みに対する疑問を揺るがしてしまう。
神学に対してかなり柔軟な解釈をしているコルであっても、神の教えとして語られている世界と現実世界が異なっているとなった時に、どのような反応をするのかというのはまだちょっと予想がつかない。なんとなく地球が世界が丸かろうと平らであろうと、神の意思は変わらないと言いそうな気もするけど。
さらにこの巻では、現実の歴史と同じように、宗教改革を導く一つの要素として活版印刷の可能性も示される。すでに現実の歴史を通り過ぎてきた自分たちは、印刷技術によって聖書や宗教文書が広まり、宗教改革を後押しすることになったことを知っている。
この世界でも同じように、印刷技術が知識の独占を崩し、教会の権威を揺さぶることになるということをコルやル・ロワたちはすでに気がついているし、教会側も間違いなく気づいているだろう。どのような組織においても情報の秘匿性は常に権力の源泉となるからだ。正し本作ではライトノベルということもあり、結構あっさり技術者が見つかってしまったりもする。
全体として、本作はこういった物語を大きく変えていく要素を提示するという位置付けになっているようで、あまり大きな冒険は起こらない。一応コルがクリーベント王子に誘拐されるという事件は起きるのだが、読んでいる感覚としては、国家を揺るがす大事件というより、王家の内輪の問題をどう収めるかという話に近く、アニメ作品だったら第一話あたりにきそうな話だな・・という感じがする。むしろ読者としては(そして劇中のコルが心配しているように)、「これは後でミューリが怒り狂うだろうな」というところに意識が向いてしまう。そのあたりはぼやかして書いているのだが、実際には間違いなく狼になったんだろうな・・とか想像してしまう。
おそらくそういった「物語を展開させる要素」の一つとして先に処理をしておかないといけなかったのであろう、ハイランドとクリーベントの関係もこれまでの因縁はなかったのようにきれいにまとまる。王宮を舞台にした骨肉の争いや、こじれた姉弟の感情のぶつかり合いを期待していると、少し物足りないかもしれない。考えてみると、このシリーズで最も緊迫感が高かったのは、エイブがロレンスを殺そうとした時だった。あの時は実際にロレンスは怪我をしているし、一歩間違えたら死んでいた。
ミューリとコルの組み合わせでは、なかなかああいった緊迫感を生むようなシーンは出てこないかもしれないが、これだけ大きな戦いになるのであれば、一回ぐらいはアクションシーンがあってもいいのではないだろうか。とはいえ、本来は神学の話なので、むしろ公開問答とかで話が終わってしまう可能性もある。 -
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ネタバレシリーズが始まった頃は、ロレンスとホロが本拠としたニョヒラを飛び出したコルが、ミューリと一緒に旅をしながら、いつの間にか「薄明の枢機卿」などと呼ばれる存在になっていくという、ある意味で立身出世的な話として読むことができた。また『狼と香辛料』でサラッと登場したウィンフィールの騎士団をめぐるゴタゴタを描くあたりも、政治的な駆け引きや宗教組織との距離感がうまく組み合わさっていて、シリーズものの続編として十分に楽しい作品になっていた。
ところがV巻でコルとミューリがブロンデル大修道院へ向かう旅に出たあたりから、この作品の雰囲気は少しずつ変わり始める。ある意味でライトノベルの王道とも言えるが、物語が進むにつれて世界の謎が少しずつ明らかになっていくという形を見せ出したのだ。おそらく著者は前作では意識的に避けていたその展開を、このシリーズでは入れ込むことを決めたのだと思う。
Ⅴ巻でミューリの思いつきのように話された、「人ならざるもの」の時代を終わらした「月を狩る熊」の正体が教会の始祖であるといったアイデアは、どうやら本作の内容においてはそれなりに重要なものを示すらしい。というのも本作ではいつもの通り物語で起こった厄介事を解決することと並行して少しずつ境界とは何であるかとかそもそもこの世界はどうなっているかといったことがとりあげられるからだ。
考えてみれば、この世界は実に不思議な構造をしていて、中世ヨーロッパのように教会の力が明らかに強いのだが、一方でその教会を統括する教皇庁がどのような組織であったのかというのはほとんど描かれていない。劇中では屈指の神学知識を持つとされるコルが知らないのだから、おそらく明確には残されていないのだろう。
本作のエンディングでコルが気が付いた、あるいは気が付いてしまったように、この世界では「世界は丸い」と主張することは禁忌に当たるらしい。現実の歴史と同じく、どうやらこの世界では教会は「地球の果て」が存在していることを主張しているらしいのだ。神学については誰よりも強い知識を持ちながらも一方で現実的な感覚を失っていないコルが、どのようにしてこの「気づき」と折り合いをつけていくのかというのは、今後物語を動かしていく一つの要素となるだろう。 -
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ネタバレこの第四巻では物語も序盤の導入を終え、いよいよ王国側と教会側の対立が本格的に描かれ始めている。内容も「ここから話が一気に動きそうだな」と感じさせる展開で、先の展開が気になってくるところだ。とは言っても、全体の雰囲気はライトノベルらしく明るさが保たれているので、重くなりすぎず、安心して読み進められるのがこのシリーズの良さでもある。
スピンオフの元となった『狼と香辛料』シリーズは、行商人のロレンスと相棒のホロが旅をしながら、行く先々で事件に巻き込まれていく物語だった。一方で、この『狼と羊皮紙』シリーズは、最初から「教会改革を成し遂げたい」という大きな目標が置かれている。そのため、物語を読み進めていると、冒険というよりも政治的な駆け引きが前に出てきたな、という印象を受ける。『香辛料』シリーズとはまた違った読み味になっているのは、こうした前提の違いが効いているのだと思う。背景として登場するのも『香辛料』では商会だったが、『羊皮紙』では王国や教皇庁といった固い組織になった。
そしてこの第4巻では、物語の空気がさらに一段階変わってくる。劇中の言葉を借りるなら、コルの活躍によって、これまで危ういながらも保たれていた王国と教会のバランスが、少しずつ崩れ始めてしまった、ということになる。読んでいても、「ああ、もう元には戻れなさそうだな」と感じさせる。
こういったストーリでは、主人公が自分の得意なことをしているだけなのに、いつの間にか大きな騒動に発展してしまう、というのはよくある展開だ。ただ本作の場合、視点が終始コルとミューリに固定されているせいか、当人たちはそこまで事態を深刻に捉えていないのに、周囲だけがどんどん盛り上がっていってしまう。その温度差が読んでいて少し怖くもあり、同時に面白くも感じられる。これが映画や硬めの小説だと、別の場面・別の時間の出来事が神の視点から挟み込まれたりするだろう。
そしてさらに話をややこしくしているのが、コルの背後にロレンスとデバウ商会という大きな後ろ盾があることだ。本人はあまり意識していないものの、その影響力は想像以上に大きい。本作で再登場し、相変わらず裏で動き回っているエーブ・ボランとの関係も、ロレンスやホロの存在がなければ成立しなかったことを思えば、二人はロレンスの見えない大きな庇護のもとで活動しているとも言える。
今回はこの再登場したエーブが裏で糸を引く商人たち、教皇庁と現地の教会、そして王国内の権力争いが入り乱れ、話はかなり複雑になっていく。正直なところ、これまでのシリーズ以上に情報量が多く、Audibleで途切れ途切れに聞いていると、「あれ、今どことどこが争っていたんだっけ?」と立ち止まってしまう場面もあった。それでも、少しずつ状況が整理されていく過程は読みごたえがある。
最終的には、いつものように「人ならざるもの」たちの力とコルの機転によって、物語はなんとかハッピーエンドに収まる。ただ、そこに至るまでの道のりはこれまで以上に険しく、文字通り危機一髪の連続だった。読み終えたあとには、「今回は本当に危なかったな……」という感想がまず浮かぶ。
その一方で、このまま進めば、いつかどこかで大きな戦争が起きてしまうのではないか、という不安も感じさせられる。ただ不思議なことに、このシリーズに関しては、「まあ最終的には何とかなるだろう」という安心感も同時にある。そのバランス感覚が、この作品らしさなのかもしれない。次の巻では、王国内の権力争いがさらに激しくなっていきそうで、今から少し身構えている。
最後に気になった点として挙げたいのが、ミューリがかなりあっさりと自分の正体をエーブに明かしてしまったことだ。これまでのシリーズでは、エーブはホロの正体に薄々気づいていながらも、実際に狼の姿を目の前で見ることはなかったように思う。
百戦錬磨のエーブのことだから、ホロやミューリが「人ならざるもの」だと知っても動じないのは分かる。それでも、「こんなに簡単に正体を明かしてしまって大丈夫なのだろうか」と、少し心配になってしまった。このあたりは、落ち着いているように見えるコルよりも、やはりロレンスの方が大人としての慎みや思慮深さを持っていたのかもしれない、などと思いながら読み終えた。 -
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さて3巻目に突入したこの狼と香辛料シリーズだが、前巻でスタートした宗教改革がいよいよ本格化する兆しを見せ始める。といっても、どうやら本作は主役であるコルとミューリの周囲で起こっていることを描くために、同時多発的に各地で起こっているであろう改革の有様が描かれることはないようだ。劇中でもコルがたどり着いた街のデザレフで、自分の活躍(?)が広まり自らが「薄明の枢機卿」と呼ばれていることに驚くというシーンがあるように、彼らは彼らでとにかく目の前のことを必死に乗り切っていくというスタイルで冒険を続けていくようだ。
本作ではその2人は漂流して流れ着いたデザレフという町で、イレニアと名乗る商人と出会う。この商人は羊が人間に変わったもので、このシリーズではお馴染みの「人ならざるもの」の一人だ。彼女はどうやら今では大商人になったエーブ・ボランの元で働いており、いずれは西の新大陸に渡って「人ならざるもの」だけの国を作りたいと考えているらしい。
そしてこの未だ人間にとっての未到の地である新大陸には、かつてホロたち狼の一族を滅ぼし、「人ならざるもの」の時代を終わらせた「月を狩る熊」が渡ったという伝説があるらしい。人ならざるものがこれほど多く生き残っているこの世界であることを考えれば、「月を狩る熊」が生き残っていると考えるのは自然のことだろう。これまで多くの「人ならざるもの」が出てきたにもかかわらず、「月を狩る熊」の存在を知っているものが誰もいないというのは本作では謎の一つになっているが、どうやらこの新シリーズではすっかり忘れられていた存在となった「月を狩る熊」についてももう少し深掘りされるようだ。
物語としてはいつもの通りコルとミューリがトラブルに巻き込まれるものの、2人の知恵と勇気で危機を乗り越えていくという構造は変わらない。ただし今回は最後には否定されたとはいえ、聖遺物が2人を救うというシーンが登場してきており、どうやら作者もこれまではややおざなりにされてきた世界観をより深く描こうという気になってきたようだ。