潔癖症で片付け魔の男とホーディング障害で整理整頓ができない女。相容れない2人がアパートでお隣さん同士になってしまった。
ひょんなことから親しくなった2人だったが……。
正反対の2人が、互いに関わり合うことで自己を見つめ直し、やがて過去の自分と訣別するまでの姿を描く、ハートウォーミングな成長物語。
なお物語は、主人公の日下部朝陽の視点で展開する。
◇
住宅街を走る収集車から飛び降りてはゴミ袋を車体後部のプレス投入口に投げ込む。朝陽が週5日行う作業だ。同じ曜日に同じルートで行う収集作業。勤めてまだ1年の朝陽でも、無限ループの世界に入ったような気になってしまう。
午後4時。仕事を終えアパートに帰り着くや、朝陽は靴を靴箱にしまい、部屋はルンバに走らせる。さらに薄めたハイターに作業着を漬けると浴室に直行。頭も身体も念入りに2回洗う。ゴミの臭いをわずかでも残したくない。そして風呂から上がり作業着をすすぎ洗いしてから洗濯機に放り込み洗剤を投入してスイッチオン。
予定通りの行動に満足しながら、朝陽は清潔な服を着てエコバッグを手に夕食の食材を買いに行く。これがルーティンだが、この日はいつもと違った。
玄関ドアを開けるとガラガラと大きな音がする。見ると、隣室の佐野さんが台車を押してアパートに帰ってくるところだった。
佐野さんは名を友笑と言って、半年前に隣室に越してきた若い女性だ。丁寧に菓子折りを持って挨拶に来てくれたし、夜も静かな暮らしぶりで好感を持っていた。
けれど今、彼女が押す台車には不審なものが積まれている。ひび割れたPCモニター。外側がドロドロに溶けた電気ケトル。他にも使用不能としか思えない生活家電がいくつもある。極めつけは大きなゴミ袋に詰め込まれたたくさんのペットボトルだ。
朝陽の怪訝な視線に気づいた佐野さんは、「あ、これ、ゴミです」と言って無邪気にゴミの説明をしたあと、それらを部屋に搬入するべく自室のドアを開けようとしたが……。
( 第1章「隣の汚部屋」) ※全7章。
* * * * *
潔癖症の人は身の回りにも結構います。
物は決まったところにきちっと片付いていないと気になる。外から帰ったら ( たとえ職場であっても ) まず手洗いしなくては気がすまない。毎朝、自分のデスクをきれいに拭いてからでないと仕事をする気にならない。そんな少し神経質かなと感じるような人たち。
朝陽はそれよりも強い潔癖症です。
人と同じスリッパは履けない。人と同じ鍋や皿の料理は取り箸が用意されてないと食べられない。食べ物カスや飲み物の雫などがテーブルや床に落ちることに耐えられない。
病的とまではいかないのですが、その一歩手前ぐらいではないかと思えるほどです。
また、物を捨てられない、整理整頓ができないという人も同僚に何人かいました。デスク上やその周辺がすごいことになっていて、作業スペースを作るのに毎日とても苦労していたのを覚えています。
佐野友笑はそれだけでなく、さらに不用品まで拾ってくるという末期的な状態で、ホーディング障害と呼べるレベルに来ています。
朝陽と友笑の部屋は2階建てアパートの1階にあり、ベランダの代わりに専用庭がついています。隣の庭との境目には目隠しの塀があり、朝陽でも背伸びしない限り覗けないようになっています。
けれど、友笑のゴミ搬入を手伝って玄関の中を見てしまった朝陽は、隣室全体が気になって仕方ありません。彼が目にしたのは奥の方から玄関近くまであふれるゴミ。
壁一枚隔てた向こうに大量のゴミが詰め込まれていると思うと、潔癖症の朝陽は居ても立ってもいられないのです。
ついに我慢できなくなり友笑宅の庭を覗いた朝陽が見たものは ⁉
と序盤からなかなか衝撃的な展開で、先を読まずにはいられません。また、ゴミ処理についてのリアルも詳細に描かれていてとても勉強になりました。
さて、朝陽と友笑についてです。
2人に見られる、通常から少しばかり ( かなり? ) 逸脱した行動。それはとりも直さず精神的な偏りからきています。その生育過程で培われた強い観念に2人は縛られていると言えます。その束縛から解放されるための行動が後半の中心テーマでした。
解放に向けてポイントになるのは朝陽と友笑の共闘です。1人ではどうにもならなかったことでも2人なら立ち向かう勇気が湧く。清潔に対するスタンスが正反対の2人を結びつけたもの。それは……。
思いも寄らない展開でしたが「なるほど」と思ってしまうところもあり、気づけば夢中で読んでいました。
共闘の甲斐あって朝陽の超潔癖症と友笑のボーディング障害は、それぞれ緩和されたでしょうが、それでも2人の清潔観がピタリと合うところまではいっていないと思います。
おそらく結ばれることになる朝陽と友笑。これからも互いに受け入れあい譲りあいながら幸せを築いていってくれることを願っています。