大崎善生のレビュー一覧
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シリーズ第2巻。
この著者の心の機微を言葉で表現する形が独特で、しかも、たのしいうれしいとかよりも、寂しい、苦しい、辛いっていうのをなんとも言えない言葉で表現しながら進む物語。
ネジを限界までネジあげた後にさらに巻くような、ギリギリとしたこころの感触。そんな言い回しが、主人公の気持ちが痛いほど伝わる。
こう、読んでてこころの奥底が
ぎり、ギリギリ、、ギリ、、、ぎ、ぎ、ぎ、ぎ、
と、ネジを巻かれすぎてしまうようななんとも言えない気持ちにさせられるんだけど、限界の中から気持ちのいい世界が垣間見える、少しの幸せがものすごい幸せに感じる、そんな小さな小さな幸せを一粒一粒丁寧に拾いながら1日を生き -
Posted by ブクログ
「聖の青春」も「将棋の子」も、深く心にしみる哀切な傑作だ。しかしまあ、作者の大崎善生さんがこういう人だったとは知らなかったよ。今頃言うのもなんですが。
先崎学さんのエッセイにチラチラ登場するので、酒飲みであることは知っていた。昨今では世間でも将棋界隈でも珍しくなった、無頼系の方であることも。それにしても、この「昭和のおっさん」ぶりはどうよ。コラコラと思いつつ(主に女性への感覚)、妙な懐かしさがあったりして(濃くて熱い人間関係とか)。
将棋界周辺の人々の話って、どうしてこんなに面白いのだろう。私は何を読んでも全然飽きない。将棋は指さないし、皆目わからないのになあ。アクの固まりみたいで数々の伝 -
Posted by ブクログ
途中、先輩のエピソードのところでありきたりな展開にうんざりして読むのを中断していたけど、もったいないので読み続けた。最後は一気に読み進められた。
大崎さんの小説を読んでいると、生活のそこここで感じる小さな輝きを繊細に文字にして集めたような、小さいけど気の利いた贈り物のような趣を感じる。
諦めずに読んでよかった。
「生きることの意味」が穏やかな筆致ながらも結構突き詰めて綴られているので、人生を投げ出したくなっている人が読むとかなりしんどいのでは。
この物語の主人公には、挫折しそうな出来事が何度も起こっているのだけど、その時々の心情が丁寧に描かれているので、感情移入してしまって辛くなる。
でも -
Posted by ブクログ
恋人の死、双子の妹との分裂、報われない青春、囚われ続ける人たちの決別と新しい一歩を映し出す、優しくてセンチメンタルな短編集。
「八月の傾斜」
この中だとこれが一番好き。
ピアスの穴を開けることによって、大切なものを無くしてしまう。
そういう迷信じみたものを私も信じています。
自分がピアスの穴を開けたときもそういう決定的さがあった。
もう二度と手にすることのできない大久保君との時間。
それをようやく葬ることができた祐子と、彼女をきっと丸ごと抱きしめてあげられるだろう早津のこれからの幸せを願いたい。
「だらだらとこの坂道を下っていこう」
30代も半ばを超えて、自分の人生の山頂にはすでに登りつめ -
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「憂鬱の中から立ち上がったアジアンタムだけが、生き残っていく」
主人公山崎隆二の恋人葉子が癌で亡くなるときに残した言葉だ。この物語で著者が伝えたいことなのだと思う。
ストーリーは恋人を癌で失った喪失感に沈んだ主人公の回想でよくあるものだ。
主人公の一人称視点で淡々と綴られる文章は「ブルー」を表現しているようで、暗澹たる主人公の気分と二人で過ごす最期の地であるニースの青さの対比が切ない。
目の前で起きる自分ではどうにもできない事柄にうちひしがれるときが人生には幾度も訪れるだろうが、その渦中からも得られるものがあると信じさせてくれる物語だった。