安部公房のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
再読。
初めて読んだのは10年くらい前で表題作の「無関係な死」以外は印象が薄かったのだけど、今回は他の作品もじわじわ楽しめた。
特に面白かったのは複雑な構造のビルが登場する「賭」、盲目の恋に警鐘を鳴らす(鳴らしてないか)「人魚伝」、ボクサーの孤独な戦いを描いた「時の崖」、そしてもちろん表題作の「無関係な死」。
安部公房さんの小説に私はいいように振り回されてしまう。
モグラ叩きやらワニワニパニックやらのようにあっちかと思ったらこっち、その次の瞬間にはまた別のところにいる。
その混乱が不思議と癖になる。
短編は混乱の度合い(?)がちょうど良い気がする。
これが長編になるとまた大変で、以前は読み切 -
Posted by ブクログ
安倍公房による、1977年の長編小説。
社会には催淫表象が遍在している。文化的・欺瞞的意匠を施していても、一皮剥けばそこには性的欲望の蠢きがその生々しい貌を出す。現代社会を駆動させているものは、およそすべて「性」に根源をもっているのであるかのように。
"それにしても、べらぼうな音の氾濫だった。追従、怒り、不満、嘲笑、ほのめかし、ねたみ、ののしり・・・・・・そしてそれらのすべてにちょっぴりずつ滲み込んでいる猥褻さ。"
人間は、その剥き出しの性的欲望、セックスの無間地獄に落ち込んでいくしかないのか。ところでいま「地獄」と表現したが、そもそもそれは本当に「地獄」だろう -
Posted by ブクログ
描写が生き生きしていてすごくよかった。舞台やキャラクター設定、SF要素なども、安部さんらしさ満載。雪にまどろむ寂れた町、診療所を与えられない医者、の組み合わせがカフカの「城」を思い出させる。
しかし、花井さんは骨の髄までしゃぶられっぱなしだったなぁ。同盟が空中分解くらいで済むのかなーと思ったら、予想以上にひどい結末だった。うーん。主人公二人の身の上が自分と重なってしまって、結構堪えた。
どんな思想があっても、どんな努力をしても、現実は壁だらけでどう行っても回り道だらけで、結局目的地にはたどり着かないまま歩かされ続けるんだよなぁ。
春が来て、窪地に落ちた小鳥の死骸が一瞬見せた可能性が切ない。 -
Posted by ブクログ
閉ざされ沈む小地方都市の町花園。
それ自体がまるで一つの巨大な病棟のような町の中で
"ひもじい"と呼ばれ疎外されたよそ者たちが結成した飢餓同盟。
地熱発電に託した若い彼らの野望は
町に渦巻き、飲み込まれ、やがて崩れ去っていく。
安部公房の著作にしては珍しく、登場人物・主人公に名前があってびっくり。
「夢」を生け捕りにした様な
シュールにシュールを塗り重ねた彼の多くの作品とは
ちょっと趣向が違う作品でした。
「医者」と「党」の、安部公房。
こんなに現実に寄った作品は初めて。
革命の思想から遠ざかって久しい世代の私には
少し入りづらい読みかかりでした。
-
Posted by ブクログ
おすすめされて読んだ本。
どれも不気味で、不条理で、それが面白くもあり。
全5篇の戯曲形式のお話。
表題作の「友達」は侵入してくる家族の理不尽な親切心が
とても不気味。彼らが話す言葉は一見正論。
だからこそ反論する余地がなく、受け入れさせられてしまう。
それは「棒になった男」内の「鞄」も同様。
登場人物たちのココロの有り様、揺れ動きの様が
いつかどこかで見たような、感じたようなことがあるのだろう。
それが不快感に繋がっているのかな?
「棒になった男」も何故突然に棒に??と疑問が付きまとう。
推測するしかないのだけれども、だからこそ地獄の男の
最後の台詞にゾクッとさせられた。
「友達」「棒に