丸谷才一のレビュー一覧
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ネタバレ読み応えのあるボリュームを備えた作品。ただ、薀蓄がちりばめられ、主筋を辿るのを妨害するきらいがある。アサコの恋の行方だけに集中できたら、どうだろう?とも思える。また、社長となった長良との恋の行方も気なるところ。だが、この小説の主役は、「輝く日の宮」なのだろうから、この結末でOKなのだろう。
で、作者がこめた数々の謎。これも、読者を惑わせるものだろうと思うし、いろんな読み方が出来てよいのだろうと思う。影の主役は、『源氏物語』であり、その創作の謎であろうのだろうから、表面に現れた暗喩や、文学史的な話題も、それぞれに役割を演じて、この作品を構成しているのであろう。 -
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大新聞社の舞台裏のような話と、論説委員に選ばれた主人公、離婚して大きな娘がひとりいて、母親と娘と三人で暮らす弓子の働く姿を、すごくおもしろく読んだ。弓子はまさに正真正銘の「バリキャリ」を絵に描いたような。インタビューなどを通じて各界著名人と懇意にしていて、もちろん、哲学者のすてきな恋人(不倫だけど)もいて、文章を書く仕事は楽しいし、お金はあるし、暮らしは優雅で。なんだか読んでいて楽しくて。あと、問題ある社説を書いた弓子に圧力をかけてきたのはだれかをさぐっていくという、ちょっとミステリっぽいところもあって、それもおもしろかった。首相公邸に入っていくところとか、どきどきわくわくしたし。丸谷先生らし
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懸念していた旧かなづかいもあまり気にならず、ものすごくーーおもしろく読めた。主人公の女性は国文学者。やはり学者の父親とのアカデミックな会話や、研究や学会での発表の場面など、専門的でまるで知らないことだらけだったりするんだけれど、難解とか退屈ということはなくて、研究ってこういうことをするのかーとか学会の発表ってこんななんだーなどと興味深かった。主人公の恋愛話もからんでいて、プロポーズされるところがすごくおもしろかったり。文章のスタイルがいろいろ変わって、論文の原稿だったり、戯曲だったり、になるのは、普通の文章のほうがいいなーと、大変失礼にも思ったけれども。やっぱりいちばんおもしろかったのは、源氏
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解説によると、この小説の構造自体が、「輝く日宮」巻の喪失に関する提言になっているそうです。本自体がミステリー。
「源氏物語」が何事につけてもぼんやりと曖昧模糊に描かれていることを受けて、この小説も何事も「ズバリ」がありません。
「輝く日の宮」喪失の謎が今、明らかに!ということにはなっていないのが、かゆいところに手が届かなくてちょっと欲求不満なんだけど、そのおかげでよりいっそう「源氏」に思いを馳せることになり、ますます源氏の虜に(それが作者のねらい!?)。
400ページの分厚い中には、たくさんの知識が詰まっていて、芭蕉はなぜ東北へ向かったのか―義経五百年忌説など面白かったです。芭蕉は源平時代に -
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▼それこそ十代からの長い歳月で、丸谷才一さんの「一般向けの小説本」は多分あらかた読んでしまいました。相手がお亡くなりになっているから、そりゃいつかそういうことになります。
恐らくこの本が最後の一冊だったのでは・・・・そういう感慨がありました(笑)。
▼収録は以下
・横しぐれ
・だらだら坂
・中年
・初旅
▼「横しぐれ」
執筆当時の現代劇で、私小説風、ですね。
国文学者の中年男が主人公で、
<自分の父が戦前に道後で飲みかわした坊主というのは、山頭火ではなかろうか>
というミステリーに挑みます。
これはもう、語り口で載せていく不思議な日常ミステリー。
圧巻の筆力です。ただまあ、好みによっ -
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筑摩書房 日本詩人選
丸谷才一 後鳥羽院
新古今和歌集を中心として、後鳥羽院の歌を解説した本。古典主義的な歌を想像していたが政治色が強く、「承久の乱は、文芸の問題を武力によって解決する試みだった」という著者の見解に驚いた
後鳥羽院と藤原定家の違いを「後鳥羽院は最後の古代詩人となることによって近代を超え、定家は最初の近代詩人となることによって中世を探していた」としたことは とてもわかりやすい
著者が、和歌史上最高の作品としたのは、百人一首「人もをし 人もうらめし あぢきなく 世をおもふ故に もの思う身は」でなく
「見渡せば 山もと霞む みなせ川 夕べは秋と何思ひけん」上句と