丸谷才一のレビュー一覧

  • 後鳥羽院 第二版

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    後鳥羽院については、歴史的には無謀にも承久の乱を起こし、武家社会を揺るがないものにしてしまった失敗した帝王という印象だと思う。その内面を想像するに、三種の神器なく践祚され、自己の正統性に迷いがある中、和歌では新古今和歌集を実質的に編纂し、そのほか武芸、刀鍛冶など多才を極めた人物でもある。歴史という構造の中で、自己を同定していくのは外からの圧力によってであって、後鳥羽院の本性はどこに隠れているか想像するのも面白い。
    とは言え、作者の丸谷才一さんの断定口調に辟易しなければ、そういうもんかと楽しく読める。和歌を通じて深く考えているはずなのに、人としての後鳥羽院を見失いつつ、やはり本書の中心は和歌である。

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    2026年05月24日
  • 闊歩する漱石

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    2000年刊。エッセイ風の文芸論。
    あの丸谷才一なのに、しかも漱石に絡めての話なのに、難しい。日本の古典や西洋の文学作品がたくさん引き合いに出されるためか。
    3篇、とりあげているのはそれぞれ、坊ちゃん、三四郎、猫。3番目の「あの有名な名前のない猫」は、冒頭20ページが猫とは関係のない文学史的前口上(でもおもしろい)。そして登場するのが犬のポンペイ君。あの千駄木の家にいた猫の源流を西洋に探っている。
    文学史好きなら、闊歩できるかもしれない。

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    2026年05月07日
  • 女ざかり

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    久しぶりに日本の小説らしい小説を楽しんだ
    軽妙洒脱そのものだが、途中憲法やら贈与に関する哲学的な蘊蓄がダラダラと披露されるのには閉口した
    それがもう少し短ければ五つ星だった

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    2026年03月09日
  • 横しぐれ

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    ネタバレ

    いきなり今まで全く思い浮かばなかった作家、丸谷才一を読んでみた。某鈴木保奈美さんの番組で紹介されてたからやけど。

    表題作、読み耽ってしまった。あぁ、北村薫っぽいな…と思ったが時系列では圧倒的にこっちが先、これらの作品に北村氏が影響を受けてるってことだろうなぁ。

    残りの掲載掌編もそれぞれ味わいがあって、昭和の大衆文学もあなどれないなぁ…と感じ入った、こういう小説の魅力が分かるくらいに読解力が上がったと捉えるべきか、そういうお年頃になってきたということか?

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    2026年01月31日
  • 日本文学史早わかり

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    日本文学史は西洋的文学史の型に無理やり当て嵌めて考えられているのでは?という問題意識から、その源流を宮廷文化にあるとして、勅撰の詞華集(21代もある)に着目した論考。

    勅撰詞華集は文化政策であり、美学の編集を通じて、日本文化の本筋は宮廷であることを告知するものであっただけでなく、詞華集への掲載・編纂に関わることの名誉を、名誉職として(秀吉が土地は渡せないが茶器を送るかのように)も活用。

    なぜ中国には勅撰の詞華集がほとんどないのか?という話を儒教との関係で説明しているあたりも面白かった。曰く、日本には儒教の影響が少なく、土俗的な呪術性の残存があり、宮廷に司祭性が求められていたとのこと。

    詞華集の伝統が消えていったのは明治維新以降の急速な近代化・西洋化、それに伴う宮廷文化の絶滅によるものだが、漢詩人であり詩華集の編纂にも関わった永井禾原、その息子で小説家である永井荷風親子をもって、”文学史的形勢の格好の見取り図”であるとしたあたりも興味深い。

    論考自体は80p程度。読みやすい。

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    2025年05月29日
  • ボートの三人男

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    価値観については、古い小説であることを承知しつつ、イギリスらしいユーモアの勉強になりました。
    どこかずれた会話劇は、非常に面白いし、イギリスの皮肉混じりのユーモアは独特だなと感じつつ、メモをとりながら、マネをしたくなる作品!
    面白かったです!!

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    2025年02月16日
  • ボートの三人男

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    アガサ・クリスティーや太宰治など、とかく引用されることが多いイギリスの古典。気になって読んでみたら、とても面白かったです。

    物語は、気鬱にかかった三人の男(犬は勘定に入れません)が、ロンドンからオックスフォードまで、ボートを漕いでテムズ河を往復する旅の顛末を描いているだけです。しかし、この三人、準備に手こずりなかなかボートに乗らないのですが、いざ乗って帰ってくるまで、その合間に語られるユーモアのある会話のやり取りや、過去の出来事を回想するシーンの数々のエピソードは、とても楽しく読むことができました。

    主人公のわたし(=著者)は、ボートを漕ぎながら、テムズ河流域の歴史や地理などに思いを馳せるのですが、日本人からするとわかりにくいところもあります。そこは、Mapアプリでテムズ河の様子を眺めたり、水閘(すいこう=ロック:水位の差の水域を船が通過できるようにした設備)の写真を検索して眺めながら読んだので、情景がよく理解できました。

    そんなスマホの寄り道が多かったので、読み終わるのに時間がかかりましたが、各章の最初に、その章の要約が書かれていて、途切れ途切れに時間をおいて読んでも、内容を見失うことがないのが嬉しかったです。

    欲を言えば、簡単な地図があると良かったのにとは思いました。あと、注釈も欲しいですね。この辺りが減点かな。丸谷才一の訳文は読みやすく、井上ひさしの解説も良かっただけに残念。カバーのイラストは和田誠さん。本文を読んだ後ではジワジワ来ますね…。

    この手の本で頭に思い浮かぶタイトルは、ヴィクトル・ユーゴー『ライン河幻想紀行』ですが、おそらくこれほどユーモアに富んではいないかもしれない。コニー・ウィリス『犬は勘定に入れません』とともに、気になっている本なので、二つともいつか読んでみたいです。

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    2024年07月07日
  • 別れの挨拶

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    立ち読みだけでも読む価値は有り

    立ち読みだけでも面白いです。
    不満なのは、文章読本を探していたのに未だ電子化されていない。
    三島由紀夫みたいな感じ。
    よつばと、といい電子書籍はやはり紙にはかなわない。
    ブックオフ万歳、お好みで。

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    2024年04月13日
  • 日本文学史早わかり

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    講談社文芸文庫
    丸谷才一 「 日本文学史早わかり 」


    西洋の文学史の枠組みにとらわれず、勅撰集(詞華集)に注目して、日本文学史をまとめた本。

    5つに分けた時代区分は、年数に偏りはあるが、宮廷文化の盛衰 や文学の共同体的性格という目線から 分けられ、とてもわかりやすい


    詞華集に代表される日本文学の大半は、共同体的な立場で書かれたものだったが、明治時代において、西洋の刺激が強すぎて、詞華集のない文学になり、個人主義的になったという論調


    「趣向について」という論考から、自然主義文学や私小説といった個人主義的な純文学に対して、批判的立場をとっていることがわかる



    時代区分、指導的な批評家など
    1.八代集時代以前(9世紀半ばまで)
    「萬葉集」

    2.八代集時代(13世紀半ばまで)
    「古今集」「新古今集」
    宮廷文化の全盛
    紀貫之

    3.十三代集時代(15世紀末まで)
    「新勅撰集」「風雅集」
    宮廷文化の衰微
    藤原定家

    4.七部集時代(20世紀初めまで)
    応仁の乱から日露戦争(自然主義の勃興)
    芭蕉七部集
    宮廷文化の普及
    藤原定家

    5. 七部集時代以後
    個人詩歌集
    宮廷文化の絶滅
    正岡子規


    5の時代区分(明治時代)において、天皇は恋歌を詠まなくなったことの意味
    *天皇自身が勅撰集の伝統を否定し、宮廷が宮廷文化を拒絶した
    *日本文学が個人主義的になったことの現れ


    江戸の文学趣味の基本は「新古今」
    「新古今」は古代文学の終わりを飾り、近代文学の先駆けを示す


    「趣向について」
    日本自然主義と私小説によって成り立つ日本の純文学は〜趣向を軽んずることによって、江戸文学と対立しているだけでなく、人類の文学史全体と対立している


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    2023年12月14日
  • ボートの三人男

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    フォローしているb-matatabiさんの感想に共感して手にした。英国ユーモア小説の古典と言う事だが、今読んでも、変わらない人間の本質とかが描かれていてドキッとさせられる。バカバカしい小説の様だが鋭い人間観察が面白かった。

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    2023年05月24日
  • 日本文学史早わかり

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    「美意識の型」を提示することは一国を統治する上できわめてコストパフォーマンスの高い打ち手であり、従って日本文学は「土俗的かつ洗練された」宮廷文学(=勅撰詞華集)を中心に回っていたという洞察。

    また本論ではないが、日本の自然主義文学の特殊性についての指摘も興味深かった。西欧文学史の中ではそもそも異端な19世紀文学を、さらに煮詰めて手本としてしまったがゆえの孤独な自我へのフォーカス、そして社会・風俗の中の人間という視点の欠如。

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    2023年01月11日
  • 快楽としてのミステリー

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    ミステリーへの造詣が深いことは、毎日新聞の書評で確認していたが、軽快な語り口が重なると、余計に熱が高くなってくる。
    「丸谷ワールド」リターン。
    ミステリー(探偵小説)をがっつり読める余裕(時間と心理面)が欲しいです。

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    2022年12月05日
  • 輝く日の宮

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    国文学者の女性が源氏物語の失われた一巻を探っていく。
    作中人物に、漢詩の発音は適当でよいと言わせながら、本作は(も?)旧仮名遣い。
    いろいろ趣味的だが、通俗的な面白さもある小説と思う。
    中村(萬屋)錦之助が好きな外人が出てきて嬉しかった。

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    2022年10月27日
  • たった一人の反乱

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    一見600p超の大作だが内容自体はライト。
    掛け合いもユーモアの中に知性があり感心しながら読み進めてしまった。
    途中数十pも続く、作者の思想代弁とも言えるスピーチシーンが個人的に面白く良い装置だと思った。

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    2022年09月09日
  • 横しぐれ

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    ボリュームもユーモアも話の硬さも適度すぎる品の良い短編集。
    表題作のテーマ・進行・締めは余りにもオシャレ。

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    2023年01月04日
  • 横しぐれ

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    丸谷才一「横しぐれ」、誰が何処で推奨していたのか定かでないが、信頼する作家が強く薦めていたことはよく覚えている。この本がなかなか手に入らず焦れていたことも事実である。
    読むうちに、その意味がよくわかった。構成・文章・内容のすべてが読む者を独特の世界に深く引き込んで、しみじみとした懐かしさとともに強烈な印象を残してくれる。父の過去の話・種田山頭火の詩論とその晩年・国文学者(英文学者)の研究作法 等々、丸谷才一という作家の能力・学者としての矜持を見せつけられた思いである。
    「だらだら坂」の緊迫感、「中年」の夫婦間の裏切りと諦観、兄弟関係の微妙な齟齬と距離感 等々ちょっとした話を簡潔で絶妙な表現で展開する秀逸な短編であった。「初旅」はいまひとつピンとこなかった。
    彼の他の作品も早速読もうと思う。

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    2022年07月19日
  • 別れの挨拶

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    挨拶の名手(でもあり、一流の批評家でもあり、更に、長編小説の名手でもある)、丸谷才一さんの、最後の挨拶、であります。どの挨拶にも、相手の良いところへの心配りが一杯、そしてその中にピリッとした批評も一緒に、という熟練の挨拶が一杯。あの素晴らしい挨拶を、もう聞くことが出来ない(読めない)という事を教えてくれる(そして和田誠さんの装丁とイラストレーションもこれが見納めなのでしょうか)一冊(別れの挨拶、最後の挨拶)でもあります。丸谷さんの素晴らしい別れの挨拶(和田誠さんのイラストに)に☆4つです。

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    2022年07月04日
  • 横しぐれ

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    ネタバレ

    小説のたくらみ
     解説の池内紀が指摘してゐるが、横しぐれは種田山頭火の裏に、主人公の出生の秘密が隠されてゐる。私は終盤に差しかかった時気づいた。明言されないやうに巧く書いてゐるので気づかない人もゐるだらう。
     樹影譚も出生の秘密ものである。《次男なのに「才一」という名の謎。》といふ小谷野の文の意味がやうやく解った。
     種田山頭火の考證も、飛躍的な所はあるが「おっ」と昂奮する部分もあっておもしろかった。

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    2022年05月01日
  • ボートの三人男

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    楽しんだ^ ^
    解説にあった、地理、歴史、自然、冒険、ユーモア、なんかの多面性がまさによかったなあ。
    写真と地図付きの旅行案内出して欲しい

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    2022年02月20日
  • ボートの三人男

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    三人の病弱な紳士たち、ジョージとハリスとぼく、それから犬のモンモランシーは、休息と気分転換が必要だという理由で、テムズ河をボートで漕ぎ出すことに。
    寝泊まりする場所や、持って行く物や食糧について、三人の間で議論が交わされるのだが、すぐに話が横道にそれるし、ドタバタ喜劇みたいで笑わずにはいられない。
    ボートに乗る前から、何やら珍道中が始まる予感がする。
    19世紀に書かれた古典だが、ユーモアのせいか垢抜けた感じがして楽しめたし、各章の始まる前に要約された文章がつけられてあるので、内容が分かりやすくなっていた。
    小さなコテージをちりばめた並木道や絵のように美しいホテルなど、河の眺めを想像しながら読むのは、まるで観光を楽しんでいるような気分だった。テムズ河の歴史にも触れることができた。
    二週間の旅が終わろうとする間際、ジョージが弾くバンジョーが溢れるばかりの哀愁を引き出し、みんなですすり泣いたのも束の間、やっぱり最後も笑いで終わらせてくれていた。
    笑いが何よりの癒しであるようだ。
    この先も、この仲良し三人組と一匹の犬をふと思い出して、時々笑ってしまうかもしれない。

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    2021年07月11日