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かつて、こんな小説があったろうか? 南弓子は、大新聞の論説委員。成人した娘がいるが、今は独身で、長年の恋人もいる、美しき女ざかり。書いたコラムが、政府からの圧力をうけ、思いがけず論説委員を追われそうになる。弓子は、恋人の大学教授、友人、家族を総動員して反撃に出るが、はたして功を奏するか? 大新聞と政府と女性論説委員の攻防をつぶさに描き、騒然たる話題を呼んだベストセラー。94年に吉永小百合・主演で映画化。小説の醍醐味をたっぷりと味わえる名作である。
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Posted by ブクログ
ぼくは本作の美点をいくつも挙げることが出来ます。 まず何と言っても、内容。 舞台となる大手新聞社は、政府の土地を払い下げてもらい、そこへ新社屋を建てる構想を持っています。 ところがこの構想が頓挫してしまいます。 原因を作ったのは、主人公の美人論説委員・南弓子。 弓子の書いたコラムが政府関係者の逆鱗に...続きを読む触れてしまったのです。 社の上層部は事なきを得ようと、弓子を事業局へと左遷させるべく動きます。 ここから物語が大きく展開します。 弓子は同僚や友人・知人、恋人と伝手を頼り、あの手この手で事態を解決しようと画策します。 結果、どうなるかは言わぬが花でしょう。 ただ、ストーリーは実に起伏に富んで面白い。 優れたエンターテインメント作品と言えましょう。 最後まで読んで、この作品のテーマ(の少なくとも1つ)が「贈与」なのだと感じた次第。 ギブ&テイク。 政府と新聞社との間の土地のやり取りしかり、書き手としても優秀な弓子と、記事のからきし書けない論説委員・浦野の関係しかり、それから弓子と不倫関係にある恋人の豊崎の関係も「贈与」が介在しています。 そして、この関係が崩れた時、必ず「修羅場」が訪れているのです。 何とまあ凝った作りなのでしょう。 それだけじゃありません。 丸谷の博識ぶりが随所に発揮されていて読ませます。 特に哲学方面の知識はすごいと舌を巻くレベル。 しかも丸谷の場合、博識ぶりを披歴しても鼻につくのは稀です。 憲法改正ではなく、「憲法廃止」のくだりも印象に残りました。 それからユーモアね。 弓子が首相を問い詰める場面は愉快で何度も吹き出しました。 実作者としては、油断すると通俗的になりそうな設定なのに、文学的な強度を一貫して保っているのは、さすが丸谷と思いました。 痴話喧嘩も丸谷が書けば、高尚な文学になるんだから、もう逆立ちしたって敵いません。 ただただ脱帽。
「女ざかり」丸谷才一さん。1993年。 # 丸谷才一さんなので、大抵面白いのです。 丸谷さんの小説は、好きになったらもう、全部好き。噺家の語り口みたいなものなので。 1993年ですから、まだワープロの時代。携帯電話はありません。 舞台は、朝日新聞社を彷彿とさせる、都内の大新聞社。の、論説委員...続きを読む室。つまり、新聞の「社説」とか「コラム」を書く部署です。 主人公は南弓子。40代後半?くらいなんでしょうか。「女ざかり」。 バツイチのシングルマザー、若い大学生の娘がいます。そして、周囲には中年から老年の、社会的地位のある男たちが群がっている、モテモテ女流記者。 そんな弓子さんが、論説委員となり、健筆をふるいます。 論説委員の中でも、弓子さんに首ったけになる記者もいます。 社会的地位のある大人の恋のさや当て、片想い、口説きの手管。 ところが、弓子さんには人目忍んで長い歳月になる、妻子ある恋人さんがいて...。 さらに、弓子さんが書いた社説が政府の逆鱗に触れて、左遷の危機に...。 そんなドラマがありながら、物語の語り口は悠々自適の余裕を含んで軽やかに進みます。 軽快なオールド・ジャズが流れるウディ・アレンの映画のように、人生の色気、皮肉と偶然を醸し出しながら。 最終的には、血縁のコネから時の総理大臣に面会することで、(というか、偶然に総理の奥さんと出会ったことで)すべての危機は水に流れて目出度し目出度し。 ついでに、娘の恋愛も進展があってめでたし目出度し。 肩の凝らない娯楽。「へえ~」と「ふむふむ」満載の洒脱。逸話と脱線の快楽。 今にして90年代、バブル崩壊直前のふわふわした風俗を、振り返っては納得させる読み応え。 ...って、正直手放し絶賛なのですが、実は再読。それも、初読時は新刊で読んだはずなので、僕は21歳の大学生だったはず。 うーん。 正直、全くこの本の滋味豊かな豊饒さが、判ってなかったなあ...と、振り返って自分の背伸びに苦笑してしまいました。 大人になるのも悪くないものです。
女新聞記者を巡っての陰謀が話の筋だが、互酬の経済学、天皇制、文章の書き方、漢詩、哲学、などあらゆる学問的知識がふんだんに盛り込まれており、各章ごとに違った味わいが楽しめる。 陰謀の話しといっても、きな臭いサスペンスではなく、洒脱で軽快な会話劇である。 ただ、丸谷才一は市民小説の旗手とされるが、この本...続きを読むの登場人物は新聞記者や大学教授、女優、総理大臣、指揮者、書道家など上流階級ばかりで、その点が若干違和感があった。
あらすじは正直惹かれなかったが「丸谷さんの本にハズレはない」と思って読みはじめたところ、やはりハズレてなかった。むしろ大当りである。 丸谷さんの日本論、日本文学論、哲学に対する理解らしきものが随所にちりばめられていて、そっち方面を研究している自分としては実用的な読み方もできると感じた。 これを読...続きを読むんだ人は『輝く日の宮』も手にとってみてください。
教養小説としても中身の濃い1993年の作品。 熟年の働く女性を恋もする美しく魅力的な存在として描いたので話題になった印象があります。 新日報の新聞記者の南弓子は、45歳で論説委員になる。 同時期に論説委員になった浦野は、取材記者としては名物男で優秀だが、じつは文章を書くのは苦手で有名な男。 苦笑しつ...続きを読むつ手を入れるのを手伝う弓子。 この二人の出世は順当な物ではなく、派閥争いで有力候補が取り除かれた果ての偶然という内部事情もあったという~大会社では意外にありそうな?なりゆき。 弓子は若い頃に見合い結婚をして娘を生んだが、まったく家事を手伝わない夫に家庭に入ってくれと言われて離婚。 以来独身だが、20年来の愛人がいる。週に一度講義に上京する哲学教授・豊崎と逢瀬を重ねていたのだ。 取材で知り合った各界の魅力的な男達と友達付き合いを続ける~魅力ある女性。 彼のことで悩んでいるときに論説で筆が滑り、中絶問題について穏当でない言い回しをしてしまう。 最初は問題にもならないというのも社説を真面目に読む人は少なく社長も読んでいないせいとは笑えるが、どこかから圧力がかかって、閑職にとばされそうになる。 どこからなぜ圧力がかかったのか?人脈を駆使して、弓子の闘いが始まる。 弓子の伯母である往年の女優や、裏社会の浅岡、娘の千枝とその恋人候補が会いに行く書家や、はては首相の田丸など、さまざまな人物がそれぞれに面白い。 更年期障害の豊崎の妻や、子供のようになってしまっている田丸の妻など、妻としての人生にも陰影のある描き方。 日本の歴史や社会についての考察もあちこちにちりばめられていて、読み応えがあります。
いや〜〜、本当に久しぶりの丸谷才一です。 あひ変わらずの旧仮名遣ひの文章で、自立的な女性の話を描く、「たった一人の反乱」を思ひ起こさせる小説です。 この時代に旧仮名遣いといふだけで、ガチガチにまぢめな小説とおもはれがちですが、しばしば爆笑といふか、スラップスティック的なユーモア感覚を見せるのがこ...続きを読むの人の作品の特徴です。 登場人物もかなり変わってゐます。文章の書けない新聞記者、あっけからんとした元女優の叔母、助平な書道家、変な理屈を捏ねる哲学者。 なかなか楽しめる作品でした。(しかし旧仮名遣いで書くのはしんどい)
いままで読んだ丸谷小説はどれも暗い感じだったので、コメディタッチのこれはいかにも「お話」という印象。よくできてはいますが。
分量は多いけれど、おもしろくて読むのが止まらない。 20年前の作品であるにしても人物造形や会話などが古めかしくてちょっと現実離れしたところもあるし(それが丸谷才一らしいところでもあり)、筋書きそのものは話が大きすぎたり予定調和的なところもあるのだけれど、背景を貫く贈与論を中心とした日本の社会や民俗に...続きを読むついての考察、新聞社論説室の仕事や裏の人間関係のくわしさ、登場人物の会話に登場するさまざまなゴシップや雑学がおもしろくて(そこが丸谷作品の真骨頂)、ついついページをめくってしまう。 森鴎外が大した筋書きじゃない『即興詩人』を雅文体でくるんで読ませるように、丸谷才一は知的好奇心という包み紙で読ませるのだなぁ、と改めて思う。
大新聞社の舞台裏のような話と、論説委員に選ばれた主人公、離婚して大きな娘がひとりいて、母親と娘と三人で暮らす弓子の働く姿を、すごくおもしろく読んだ。弓子はまさに正真正銘の「バリキャリ」を絵に描いたような。インタビューなどを通じて各界著名人と懇意にしていて、もちろん、哲学者のすてきな恋人(不倫だけど)...続きを読むもいて、文章を書く仕事は楽しいし、お金はあるし、暮らしは優雅で。なんだか読んでいて楽しくて。あと、問題ある社説を書いた弓子に圧力をかけてきたのはだれかをさぐっていくという、ちょっとミステリっぽいところもあって、それもおもしろかった。首相公邸に入っていくところとか、どきどきわくわくしたし。丸谷先生らしく、それはもうすごい蘊蓄?の嵐で、本筋からどんどん枝葉が伸びていく感じなのだけれど、ときに興味深く読み、ときに斜め読みしたりして、あまり難しさは気にならなかった。さらさらと読める感じ。
ストーリー展開も軽妙で、作中で展開される独自の「贈り物論」も面白い。 女性の描き方が「なんだかなあ」と思わなくもないけれど、そのあたりも含めて、書かれたのは平成ながらいかにも「昭和」な雰囲気がたっぷり漂った作品。
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