あらすじ
承久の変後、孤絶と憂悶の慰めを日々歌に託し、失意の後半生を隠岐に生きた後鳥羽院。同時代の歌人・藤原定家が最初の近代詩人となることによって実は中世を探していたのに対し、後鳥羽院は最後の古代詩人となることによって近代を超えた―歌人であるうえに『新古今和歌集』で批評家としての偉大さも示す後鳥羽院を、自ら作家でもあり批評家でもある著者が論じた秀抜な日本文学史論。宮廷文化=“詩の場”を救うことを夢みた天皇歌人のすがたに迫る。1973年度に読売文学賞を受賞した第一版に三篇を加え、巻末に後鳥羽院年譜と詳細な和歌索引を付した増補決定版。
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Posted by ブクログ
筑摩書房 日本詩人選
丸谷才一 後鳥羽院
新古今和歌集を中心として、後鳥羽院の歌を解説した本。古典主義的な歌を想像していたが政治色が強く、「承久の乱は、文芸の問題を武力によって解決する試みだった」という著者の見解に驚いた
後鳥羽院と藤原定家の違いを「後鳥羽院は最後の古代詩人となることによって近代を超え、定家は最初の近代詩人となることによって中世を探していた」としたことは とてもわかりやすい
著者が、和歌史上最高の作品としたのは、百人一首「人もをし 人もうらめし あぢきなく 世をおもふ故に もの思う身は」でなく
「見渡せば 山もと霞む みなせ川 夕べは秋と何思ひけん」上句と下句の衝突と調和を見出している
個人的には「鶯(うぐいす)のなけども いまだふる雪に 杉の葉しろき あふさかのやま」が 色彩豊かで わかりやすい
「我こそは 新じま守よ 沖の海のあらき浪かぜ心してふけ」も島流しに負けないメンタルを感じる
風雅和歌集
あはれ昔いかなる野辺の草葉よりかかる秋風ふきはじめん
*古代への思慕〜天地のはじめから現在までの厖大な時間を三十一音に封じ込める
新古今和歌集 春歌
ほのぼのと春こそ空にきにけらし天のかぐ山霞たなびく
*「ほのぼのと」は「春こそ空にきにけらし」「霞たなびく」の双方にかかる
新古今和歌集 春歌
さくら咲く とほ山 どりの しだり尾のながながし日も あかぬ色かな
*めでたい言葉「さくら」「とほ山」「しだり尾」「ながながし」「あかね」を続けた挨拶の歌の傑作
新古今和歌集 春歌
みよしのの 高ねの桜ちりにけり 嵐もしろき 春のあけぼの
*風に散る桜の花=日本人の美意識の基本
*春の夜明けの眺めは後鳥羽院の生涯の主題
新古今和歌集 秋歌
野はらより 露のゆかりを尋ねきて わが衣手に秋風ぞ吹く
*「野原」が冒頭にくる破天荒さ
*香をたきこめた袖に野の風がまつわる〜遠い野原から訪れる風は速い
*一句の俗が 「露のゆかり」「わが衣手」の雅と衝突
新古今和歌集 哀傷歌
思ひいづるをりたく柴の夕けぶりむせぶもうれし忘れがたみに
新古今和歌集
みるままに山かぜあらく しぐるめり都もいまや夜さむなるらん
*熊野詣りの旅の心
*都の人=広く都の人、後宮の女性