井上ひさしの博識と問題の切り口、設定の仕方の巧みさにただただ脱帽だった。
本書を著したのが1985年と自分が生まれる前年にも拘わらずテーマとしている問題意識が全く古めかしく思えない。
期せずして安保関連法が物議を醸した正に同じタイミングで読んだことで井上ひさしの訴えようとしている課題の一端を強く共有することが出来たと思う。
個別には特効薬、特に虫歯(および歯医者)に関する論点が素敵だった。
虫歯の特効薬が発明される。
すると「全世界の歯科医師や歯科技工士が失業しますよ。残るのはごく一部の、美容師まがいの歯科医師。つまり細々と派の手入れをさせてもらうしかなくなります。歯科用の医療機器商も潰れましょう。世界的な社会問題になりますよ。」(pg.55)と厚生省の役人が嘆く。
特定分野の技術開発がもたらす社会的な影響に考えを巡らせてくれるきっかけを与えてくれる。ラングドンウィナーの「技術の政治性」を日本的視点から論じているようだ。この視点は「組織の自己保存」にも繋がるのではないか。歩留まりの改善を主業務にしている技術者が、仮に100%の歩留まりを達成する技術を開発したら自分の職を潰すことになるその技術を果たして公にするのだろうか。また、そのような技術を開発するインセンティブは発生するのだろうか。
率直に面白かったのは以下の記述。
「わたしはね、七十や八十の老人がマラソンなんかして体を鍛えているのを見るとぞっとするんだ。薄みっともない、恥を知りなさいってんだ。いったい、いくつまで生きてりゃ気が済むのか。自分と同じ世代の人間で、戦争や病気で早死にした人たちのこともちっとは考えてみるがいい。また自分より若い人たちの邪魔をしていないだろうか、たえずそう反省して、ひそかに余生を送ってはどうなのだ。」(pg.68)
こんなこと、空気を読むことが絶対の今の世の中では思っていたとしても口になんてできやしない。それを小説の中で痛快に言い放ってしまうあけすけなこの小説は読んでいてとても楽しかった。
※ちなみに★三つ評価は少々長すぎて読みつかれてしまったから…。