永井路子のレビュー一覧
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今放送中の大河ドラマ「鎌倉殿の13人」(三谷幸喜)はこの小説をベースにしてつくられているのではないかと思える程、史実や想像・創作の細かい微妙なところまで整合している。
しかし、頼朝・政子に最も近い全成と安子夫婦の心の動きを深く抉った「悪禅師」と「いもうと」はドラマでは決して表現できない凄みがあり、作者の思考の深さ繊細さの真骨頂をみる。
意志を面に出さない、顕揚への反感、時間をかけて熟成し、状況が熟れるのをひたすら待つ---。
簡潔なあとがき「この四編は、それぞれ長編の一章でもなく、独立した短編でもありません。一台の馬車につけられた数頭の馬が、思い思いの方向に車を引っ張ろうとするように、一人一人が主役のつもりでひしめきあい傷つけあううちに、いつの間にか流れが変えられてゆくーそうした歴史というものを描くための一つの試みとして、こんな形をとってみました。」がすべてを表している。
厳選し言葉を削いで表現し、心の底の複雑な思いを汲み取り、歴史を人それぞれの思いから丁寧に描写する、リアルで躍動感溢れる素晴らしい作品である。 -
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大河ドラマの影響で、北条政子その人に興味を持った。
政子の心の動きを細やかに捉え、鮮やかに描いている。
時代の波が容赦なく政子を悲しみに陥れる。
果たして本当に彼女は悪女だったろうか。
この本では政子を悪女としては書いていない。
一人の女、一人の妻、一人の母、一人の祖母として書かれている。
妬みや恨み、裏切りや悲しい死に囲まれ、悪女になるなと言う方が無理である。
ただ自分のわがままや欲望のために生きた人ではなく、深い愛情を与え続けたにもかかわらず、報われなかった悲しい人生の人であった。
当然、最終的にはどのような人生として受け入れていたかは、政子本人にしか分からない。
それでも、同情したり、同苦せずにはいられなかった。
ただの歴史の波に飲み込まれてしまった人には思えなかった。
その悲しさの中でも、自分の行動に後悔しもがきながら必死で生き抜いた強い人だっただろうことが見て取れた。
少なくとも同じ人間なのだなと、どこか身近に感じてしまう。
女性が書いているので当然なのだが、文章の印象がすごく女性的であった。
ページ数は600近く気後れしそうになるが、実際は改行も多く、文章が柔らかいために長く感じなかった。
むしろ残り少なくなってくるにしたがって、どう着地させるのかと楽しみであった。
終始、一貫した政子の印象のまま着地されていて、その余韻がまた色々と想像させてくれる。
大河ドラマの予習にもなったのだが、今後どのように政子を描いていくのか、比べる楽しみが増えた。 -
ネタバレ 購入済み
大河ドラマの予習で
歴史小説と言えば花形である、戦国時代の武将の作品は色々読みましたが、源平や鎌倉時代は実はこれまで、あまり興味が無かった時代。
今回、大河ドラマの影響で読んでみることにしましたが、武士社会のさきがけの葛藤、苦悩、それらに恐怖と切なさを改めて感じました。
血縁者が血縁者を葬り去ることが普通に行われるなぞ、考えただけでも恐ろしい。
組織の秩序を守る為にと、血縁者に限らず、信じていた者に裏切られるということが起こりえる…、という時代だったわけですね。
北条家の政子、その兄、弟である今回の大河の主人公が、仲良くやっていたのかな、という点は、安心して読めました…。
政子は、武士社会の地位確立のためとはいえ、間接的に子供たちを次々と早くに失くしていて…、これは本当に、辛かったのではないかと思います。
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永井路子氏が描いた北条政子は、一人の翻弄される女だった。
正直、従来の政子像にあまり触れていないので、それほど衝撃は受けていないのだけど。
一夫一妻多妾を地で行く頼朝に、何で浮気するんだよとイライラしながらも、頼朝を慕う気持ちを隠せない政子が、なんだかとても良い。
その後の夫の死、そして子どもたちの死に、その都度、自身の愛し方を省み、深く傷ついていく。
結局のところ、表舞台では父を殺された恨みと復讐、そして、そのことに乗じて、自身の躍進を狙う政治ばかりが、延々と繰り返されている。
そのカラクリを知る男たちは、復讐の種となる子を残してはならないと、非常な決断もする。
そんな武士の論理に反発し、人を想うことによって、感情的に咄嗟に動いてしまう政子は、確かに危なっかしい。
そして、想うほどには想われない立場も、妻や母の切なさを感じさせるのだ。
大姫にも頼家にも拒絶された上に亡くしてしまう、その時の気持ちは、恐らく私には寄り添えない。
だからこそ、それらをエネルギーとして溜めに溜めた政子が、尼将軍として向かっていく様が作品に描かれず、作品の後の最大の「空所」としている所が非常に面白いように思う。
ふと。それまでの都の女性は、ほとんど名を遺さなかったのではないか。
その中にあって、北条政子として描かれることに、なんだか、やっぱり親しみを感じるのだった。 -
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そろそろ来年(2022年)の大河ドラマに向けた読書を、ということで、まず本書を読んでみました。
小説ではなく論考です。『吾妻鏡』を中心に、『源平盛衰記』や九条兼実の日記『玉葉』など、さまざまな史書を読み込んで、歴史小説家ならではの想像力を駆使して導かれた、この時代の歴史の見方、捉え方にはとても説得力があります。
圧倒的な平家の世で、なぜ東国武士団は、流人だった源頼朝に臣従することにしたのか、また、北条氏がいつごろから力を持つようになるのか。そして、「御恩と奉公」をもとに維持される、頼朝を頂点とした東国ピラミッド。またその東国(武士団)と西国(朝廷)と、奥州(藤原氏)との関係。加えて、複雑な源氏の血縁関係に深く入り込んでくる、複数の乳母(めのと)一族らとの関係性など、当時の日本の状況と、入り組んだ人間関係をとことん把握したうえでの考察は、すばらしいのひとことです。
論考というと難しそうに感じられるかもしれませんが、そこは歴史小説家の永井路子さん。本書はまず、1180(治承4)年、伊豆で旗揚げした源頼朝のもとに駆けつけようと、嵐の中を三浦一族が出発する場面から始まります。小説を読むようにスッとこの本の中にいざなわれてからも、武士たちの会話がちょこちょこ挟まれたりして、楽しく読めました。
人物たちが、みんないいキャラしてるんです。〈有能な軍師〉三善康信や〈有能な政治顧問〉大江広元などはカッコよくて震えたし、人情にあつくヤンチャすぎる「一所懸命」の熊谷直実はめっちゃ好きになったし、戦術の天才なのに自分がしたことの政治的意味に気づかず頼朝の考えと最後までズレっぱなしの義経は哀れでさえあるし、「今様」を愛する風流な四男で本来なら即位するはずじゃないのに即位することになったあげく父の鳥羽法皇に「天皇になる器ではない」なんて言われちゃう後白河法皇はかわいそうだし。
他にも、三浦義明、義澄、義村の親子三代、梶原景時、工藤祐経と曾我兄弟、北条時政、義時親子などなど、魅力的な人物たちのオンパレード、ここでは書ききれません。しかも、北条政子をはじめ、比企尼、若狭局、阿波局、牧の方など、多くの女性たちも暗躍しておりますのよ。自分が巻き込まれるのは真っ平ごめんですが、ハタから見ている分には本っ当におもしろい時代ですね。
この本で得た知識があれば、これから小説やドラマを何倍も楽しめそうで、ワクワクしてきます。
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学生の頃から存在は知っていたんですが、「女性が書く戦国物(鎌倉ですが)は女性寄りの恋愛絡みのものになるから読みたくない」という偏見のもと、読まないままでした。炎環を先に読んでたら、絶対に読んでた、とは思う。
とはいえ、偏見はそんなに外れてなかったかな、と。
今、自分が歳をとったから、夫との関係、子供との関係も共感しながら読めるけど、学生の時に読んでたら、理解出来なかったと思う。
女の立場から見た、家族の安全のみのことしか考えてない主婦的なものではなく、自身をとりまく政治関係までちゃんと理解した御台様としての視点も描かれていたの良かった。
「女性的な見方」というのは、今までの社会の「妻はこうあるべき」という偏見から生まれたものであって、悪女というのもその視点から生まれた物なんだろうな、と反省もしました。政治に口を出して社会を惑わす悪女、というのは男の世界に口を出すな、の現れだけど、それが社会を維持するための口出しなら、それは男も女も関係ない。ただ、男がプライドのために「口出しするな」と言っているに過ぎない。
政子が深層の姫君ではなく、黎明期から共にしたからこそ、家々の立場を理解して立ち回ってるの、凄いと思う。女性であることも捨てず、社会の役割を果たす。戦後書かれた小説なのに、今の女性進出の世相をよく現しているように思う。
そしてどこの鎌倉を読んでも、「三郎兄さん…好き…♡」てなるので、ほんとに良い人は早く死んでしまうのね…とつくづく思う。
来年の大河、楽しみです! -
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推古天皇から始まる女帝の歴史。
男性天皇の中継ぎではなくゴッドマザーとして君臨した女帝たちの姿が描かれる。
中でも持統天皇と藤原不比等の攻防はすごく面白かった。
血で血を争う覇権取りの中、不比等だけは血を流さなかったというのも興味深い。
著者の作品はいくつか読んだことがある。
生き生きとし逞しい女性から見た歴史が面白かった。
その持ち味が存分に生かされたこの本は、カルチャーセンターの講座を元にしたものらしい。その講座受けてみたかった。
歴史の定石を反対側から見てみるというのは、多感な時期に戦中・戦後を過ごし価値観を変えられた著者ならではなのかもしれない。 -
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全くの理系人間だった私は古文だの日本史だのに苦しんだ思い出しかない。だけど、本文を現代語に訳しては状況が伝わりにくいんだという永井路子さんの言葉を読んでから、古文解読や時代背景を知識として持ってこの本を読めてたら、もっと楽しめたかもしれないと思った。
それでも、夫と離れて悲しいと涙する妻や、尊厳を守る為に命を断つ覚悟とか、楽ではない出家を自ら選んだり、それを耐えたり。女性の登場人数、場面が少ないとはいえ、同じ女としてお腹にドーンと響く所が多かった。
そういえば、子どもの頃読んだ永井さんの細川ガラシャ夫人、あの感動は今も忘れられない。あの感じ、子どもだったからなのかな?
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元明・元正両天皇は日本史上初めて母から娘に皇位が譲られた稀有な例の証人であり、かつ元祖スーパーキャリアウーマン親子である。
飛鳥・奈良時代に異常に女帝が多い理由を、「母系の通じて天皇家における蘇我氏の血を死守したかったから」という点から繙いた永井氏の観察眼には驚かされた。そうか、そういう見方があったか、という感じ。しかし黒岩重吾の『斑鳩王の慟哭』といい、本作といい、女帝たちは信じられないほど血統に固執する。それがいいことなのかどうかは別として、やはり自ら子を産む女性の性質がそういう風にさせる部分はあるのかもしれない。さらに、この時代に顕著な天皇家内部の複雑極まる婚姻関係が、血にしがみつくもう一つの理由なのかもしれない。つまり自分の親が夫を、あるいはイトコがキョウダイを、殺したり殺されたりしている中で、「許せない」「なんとしてもあの家に帝位は渡せない」とのっぴきならぬ感情が生まれてしまうのかもしれない。
母から娘への「結婚してはならない」という呪い、その呪いは受けなかったけれど悲劇的な死を迎えたもう一人の娘…しかし本作の恩恵(?)に一番与ったのは長屋王ではないだろうか。長い長い間の汚名を雪ぎ、日の目を見たのはこの作品において、が初めてだったのではないかと思う。 -
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北条政子、淀君、天璋院・・・歴史上にいる魅力あふれる日本の女性たちに関する人物評伝。
永井路子さんの軽妙で痛快な語り口が、「歴史」という言葉の重みをすっかり和らげています。多様性が認められにくい当時において、慣習に囚われない33通りの多彩な生き方が紹介されています。
激しい嫉妬と怒りを執筆のエネルギーに変え私生活を暴露した道綱の母、次々と降りかかる火の粉をはらりと躱しながら涼やかに賢く長寿を全うした北政所、数多の非難を浴びながらも道楽者の夫のせいで逞しくならざるを得なかった日野富子など。血筋や財力や肩書では彼女たちは測れません。一人一人は普通の女性です。
最後まで読んだとき、時代も生き方も異なる彼女たちの共通点に気付きます。それは自身のなかにぶれない芯が一本通っていること。目まぐるしく変化する環境のなか、歩む道を自ら考え、選び、進もうと見据える女性たちに、気付けば背中を押されます。
数十年数百年の時を経て、現代を生きる私たちに「各々が心のままに」生きる勇気を与えてくれるような一冊でした。