あらすじ
2022年大河ドラマ「鎌倉殿の13人」の時代、
鎌倉武士たちのリアルな姿を描き出した面白さ抜群の傑作歴史評伝。
「ここで私は、大小いくつかの作品で扱ってきた鎌倉時代に対する一つの決算書を書いた。」(あとがきより)
『炎環』『北条政子』で鎌倉幕府成立の時代を小説として描いた後も、
『吾妻鏡』を何度も読み返し、この時代を【大きな変革の時代】として位置付けてきた永井路子氏。
その盛り上がりの中核にあるのは、外からの力でも、源頼朝個人の挙兵ではなく、
東国武士団の行動として捉えた時、歴史的な意義が明確に見えてくる。
本書は、永井氏が鎌倉時代を扱った一連の小説の原点であり、帰結でもある。
序章 嵐の中への出発 治承四年八月
第一章 中世宣言 三浦義明の場合
第二章 空白の意味するもの 上総広常の場合
第三章 功名手柄 熊谷直実の場合
第四章 東国ピラミッド 源平合戦の意味
第五章 「忠誠」の組織者 梶原景時の場合
第六章 大天狗論 東国対西国
第七章 奥州国家の落日 征夷大将軍とは何か
第八章 裾野で何が起ったか 曽我の仇討ちにひそむもの
第九章 血ぬられた鎌倉 比企の乱をめぐって
第十章 雪の日の惨劇 三浦義村の場合
第十一章 承久の嵐 北条義時の場合
あとがき
※この電子書籍は一九八三年七月に文藝春秋より刊行された文庫版を底本としています。
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Posted by ブクログ
炎環、北条政子と読み、すっかり永井路子さんの書く東国武士の世界に引き込まれている。
本書は小説ではない。頼朝の挙兵に始まり、周囲の東国武士達についての彼女なりの考察書のようなもの。
彼女も中で何度も言っているが、吾妻鏡やその他の資料を何度も読み返し、歴史学者とは違う小説家として、その時代の背景や心情を考えながら謎を紐解いていく。そのアプローチがとてもわかりやすく面白く読める。40年以上前に書かれた文章とは思えないくらい、色鮮やかに頭の中に情景が広がる。
すっかり永井路子さんの世界に入り込んでしまった。
昨今の大河ドラマを見るにあたって、自分の予備知識も広がる。
Posted by ブクログ
鎌倉草創期、頼朝から義時までの、東国の独立と基盤づくりに伴う駆け引きや血の応酬、読んでいると古今東西、時代の変わり目に繰り返される一つの雛型のように思えました。文中で著者みずから何度も言及されているとおり、(細かな史書の読み込みを踏まえてはいるものの、)学者としてではなく小説家としての想像的視点で書かれていることや、40年以上前の著作であることは踏まえておかなければならないかもしれません。それでも、とにかく面白い。事実がどうだったかなんて所詮後世の人間には推測することしかできないとすれば、永井路子さん流の鎌倉はすごく面白いです。小説よりも面白いかも。
Posted by ブクログ
そろそろ来年(2022年)の大河ドラマに向けた読書を、ということで、まず本書を読んでみました。
小説ではなく論考です。『吾妻鏡』を中心に、『源平盛衰記』や九条兼実の日記『玉葉』など、さまざまな史書を読み込んで、歴史小説家ならではの想像力を駆使して導かれた、この時代の歴史の見方、捉え方にはとても説得力があります。
圧倒的な平家の世で、なぜ東国武士団は、流人だった源頼朝に臣従することにしたのか、また、北条氏がいつごろから力を持つようになるのか。そして、「御恩と奉公」をもとに維持される、頼朝を頂点とした東国ピラミッド。またその東国(武士団)と西国(朝廷)と、奥州(藤原氏)との関係。加えて、複雑な源氏の血縁関係に深く入り込んでくる、複数の乳母(めのと)一族らとの関係性など、当時の日本の状況と、入り組んだ人間関係をとことん把握したうえでの考察は、すばらしいのひとことです。
論考というと難しそうに感じられるかもしれませんが、そこは歴史小説家の永井路子さん。本書はまず、1180(治承4)年、伊豆で旗揚げした源頼朝のもとに駆けつけようと、嵐の中を三浦一族が出発する場面から始まります。小説を読むようにスッとこの本の中にいざなわれてからも、武士たちの会話がちょこちょこ挟まれたりして、楽しく読めました。
人物たちが、みんないいキャラしてるんです。〈有能な軍師〉三善康信や〈有能な政治顧問〉大江広元などはカッコよくて震えたし、人情にあつくヤンチャすぎる「一所懸命」の熊谷直実はめっちゃ好きになったし、戦術の天才なのに自分がしたことの政治的意味に気づかず頼朝の考えと最後までズレっぱなしの義経は哀れでさえあるし、「今様」を愛する風流な四男で本来なら即位するはずじゃないのに即位することになったあげく父の鳥羽法皇に「天皇になる器ではない」なんて言われちゃう後白河法皇はかわいそうだし。
他にも、三浦義明、義澄、義村の親子三代、梶原景時、工藤祐経と曾我兄弟、北条時政、義時親子などなど、魅力的な人物たちのオンパレード、ここでは書ききれません。しかも、北条政子をはじめ、比企尼、若狭局、阿波局、牧の方など、多くの女性たちも暗躍しておりますのよ。自分が巻き込まれるのは真っ平ごめんですが、ハタから見ている分には本っ当におもしろい時代ですね。
この本で得た知識があれば、これから小説やドラマを何倍も楽しめそうで、ワクワクしてきます。