小田雅久仁のレビュー一覧
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ネタバレ今年一番の作品だった。
簡単に、一つずつ振り返りたい。
「食書」
全体を通して読んだ後だと、少しインパクトに欠ける。だからこそ最初に持ってきたのかな、と思った。この本の入口としては最適。これが合わないならこの小説は楽しめなそう。
「耳もぐり」
江戸川乱歩みたい!って思った。穏やかな生活をしている犬とかの耳に入りたい。
「喪色記」
ちゃんとファンタジーでキモい要素が少なめ。これはこれで爽やかでいい。完全に終わる世界を受け入れて、自分たちだけが達観して、その時を迎えようとしているのが素敵。
「柔らかなところへ帰る」
隣いいですよ。
産みましょう。
「農場」
ハナバエは何のために生まれてく -
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こんなに引き込まれたのは久しぶり、というくらい世界にのめり込めた。3作の中編集だが、どれも月をテーマにしており一貫性のある一冊。純文学ぽさがあるけれどもSF的に楽しめた。
個人的には3編目の表題作よりも、2編目のイシダキの話が面白かった。この世界観で長編書けるだろと思ったし、もっと読みたかった。
1編目は読み始めて普通の私小説というか家族小説的になるかと思いきやまさかの別人入れ替わりのホラー小説で虚をつかれ、イシダキの話は設定の奇抜さと大胆な場面転換にドキドキし、最後の残月記はディストピア小説としてもやり過ぎだろと感じてしまったが、十分に主人公に感情移入できた。
本当にオリジナリティのある良い -
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幻の書と書いて幻書。放って置くと羽ばたいて南に飛んでいってしまい、それを抑えるために、ボルネオの象牙で作った蔵書印を押さなければならぬ。また、雄の本と雌の本を隣り合わせに立ててしまうと、アイノコの本が生まれてしまい、大騒ぎになる。土井博の母方の、大正生まれの祖父、深井與次郎はそんな幻書収集家であった。数万冊を蔵に蓄え、本当か嘘かわからない話ばかりする與次郎が、昭和61年に亡くなるまで、死んでからの不思議なあれこれを、自伝という形で紹介する。
とにかく、タイトルで買わざるを得ないと感じさせられた1冊。本を読んできた人ならこのタイトルに目が止まらないということはないだろう。そして「ああ、そういう -
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ネタバレ
ごく普通の人たちが狂気じみた環境に迷い込んで自我をなくしていく短編集。
ジャンル分けするなら幻想怪奇ホラー?
世にも奇妙な物語とか江戸川乱歩のような世界観に、色でいうと灰色、質感でいうとねっとりとしたモノを加えた感じ。
他人には薦めづらいクセ強な物語ばかりですが、とても気に入りました。
■食書
貪るように本を読む、という表現があるが、本を本当に食べたらどうなるのかっていう話
■耳もぐり
他人の耳に潜り込んで他人と一体化できる男の話
■喪色記
徐々に色彩がなくなっていく世界の男女の話
■柔らかなところへ帰る
路線バスで隣の席に座った太った女に欲情してしまった男の話
■農場
大量の削が -
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珠玉の逸冊。
「何がいいかわからない」という方は、この作者の想像力があまりに陳腐化しすぎた近年のSFとホラーに対するディスラプションであることが感じられない、つまりこのジャンルに普段触れ慣れてないのだろうから仕方ないのかな、と思う。
編によって毛色が大分異なるのと、前評判で言われている「怖い」とか「グロい」とかそういう類ではないことを前提としたい。共通して言えるのは、妙にリアルだけど絶対に有り得ない、血糖値スパイクで昏睡した休日の午後の悪夢のような景色を記憶に刻んでくれる作品であるということ。悪夢とくくるには、あまりに美しい編もあるということ。
ということで、ネタバレにならない程度の感想を短 -
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【残月記はぜひ最後まで粘って読んでほしい】
読み応えがすごい。同じ1ページでもそこらの小説の3ページ分くらいの手応えがある。それは文が難解だとか文字量が多いとかそういうことではなく、読み逃してはいけない、美しい心情や情景描写がそう感じさせるものです。
共通して、「いつか見た、一生忘れられない異世界の夢」と表現したい世界観。
一度読んだらその異質で幻想的な情景が記憶に残り続けると思います。
最初の2作はさくっと読めます。面白い。
3作目の残月記、、これは、最後まで読めたらこの3作の中で最も美しく、そして泣ける作品だとわかるのですが。
いかんせん説明パートが長すぎて、何度も寝落ちしました。そこだ -
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〈そのいかにも明月記らしい根拠のない楽観は、冬芽にも手に取るように理解できた。それがなければ闘士はとうていアリーナには出てゆけないし、勲婦も飢え昂ぶる闘士のもとに赴くことはできないだろう。第二養成所に皮肉な言葉が伝わっている。人びとが無謀と呼ぶものを、月昂者は希望と呼ぶ、と。〉
一党独裁政権が敷かれ、警察国家化が進む日本。感染症〈月昂〉が猛威をふるう中で、総理大臣の下条拓は、月昂感染者を隔離する法律を制定する。表題作はそんなディストピアな世界で、月昂者の宇野冬芽は下条が歪んだ欲望を満たすために建てた救国党が内々に開催する闘技会の剣闘士として、望まぬ闘いに身を投じていく。そんな中で冬芽はひと -
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ずるいよと言いたいくらいのカバーの惹きの強さに負けて、つい購入してしまったのですが、これ、今年一番かも。
あんまり知られてはおらんが、書物にも雄と雌がある。であるからには理の当然、人目を忍んで逢瀬を重ね、ときには書物の身空でページをからめて房事にも励もうし、果ては後継をもこしらえる(本文より引用)
この冒頭でまずはひと笑い。ところが、その後しばらくは圧倒的な文字の多さ、独特の言葉づかいや冗長さ、登場人物の多さにう〜んとなってしまいました。でも、放り出さないでよかった!そこを過ぎると一気に読みやすくなります。
この小説は作中の登場人物、博が将来息子に読ませる手記という形で書かれています。 -
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ネタバレ2024年版このホラーがすごい! で近畿地方と同票で一位だったので読んだ。
身体をテーマにした短編集。ホラーもあるが怖くない幻想小説めいたのも入っている。ホラーでもエグい描写はないので読みやすい。文章がいい。表現、リズム、ともに素晴らしい。
「食書」
現実と小説がごちゃ混ぜになる展開の妙味がいい。
「耳もぐり」
面白いけどきれいにまとまりすぎな感も。
「喪色記」
いちばんよかった。鬱で退職したリーマンの話がこんな展開を見せるとは。静謐な幻想世界の崩壊後に残される少年少女。趣向は少し違うがシュオッブの大地炎上を連想した。
「柔らかなところへ帰る」
楽しく読んだがあまり印象に残ってない