福井晴敏のレビュー一覧
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戦争従事者の孫同士の往復書簡からこの話は始まるので、
この物語自体、悲惨な結末を迎えずに済みそうだと安心しながら
読み進めることができた。
逆に言えば戦争の悲惨さを伝えるというよりも、
潜水艦を愛するもの同士の友情と、隣り合わせにある死、
というものがテーマになっている。
だからといって戦争バンザイ!とテンションを揚げるオーラが漂うわけでもなく、
意外と淡々と物語は進行していく。
読後感としては…
ディスコミュニケーション下でのコミュニケーションという設定が他に見つかれば、
別にこのシチュエーションじゃなくても良かったのかな。
あの時代を生きる「男」ってのを
描きたかったのかもしれないけれ -
Posted by ブクログ
人類史に未曾有の歴史を刻んだ「平和国家」の住人たちが、国や民族、宗教といった言葉で括られる論理レベルを超え、新しい言葉を生み出す可能性。撃たれるまで撃てない無策を嘆くより、撃たれるまで撃たないと自らを規定し、反対ではなく、抑止という観点から戦争と対峙できる可能性。(p.112)
「全体の利益」を見失った国家の不実が変わることはなく、一億分の一に細分化された混乱が受容されていゆくのかもしれなかったが、その瞬間、日本中の時間が止まり、すべての人がちょっとだけ心を震わせた、それだけは、間違いのない事実だった。そのささやかな共振が「全体」の感情を育み、次の瞬間を生み出すのだろうことも。(p.434) -
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「アメリカは、もちろん打って出るさ。テロリストの組み立てた論理なんぞ、おかまいなしに。そうするしかないんだ、連中は。ここで弱腰を見せたら、これから寄ってたかって袋叩きにされるってことは目に見えてる。これまでみたいに、見えないところで首謀者の寝首をかくってだけじゃ示しがつかない。全面戦争覚悟で突っ走ってみせるのが、唯一のアメリカン・ウェイってやつだ。」(p.97)
「わかってないな。それがこっち側の理屈だって言うんだ。いまの世界に居場所のある人間。不満はあっても、とりあえずここで生きていきましょうって思える人間たちの側だ。おれやおまえ、ここにいる全員みたいにな。疎外されて、痛めつけられて、いま -
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人間ほど、実体のないものにすがる生き物もいないという。
光、希望がなくては人は生きていけない。世界で絶望や不条理、不幸に遭遇すればするほど、人はそれでもまだ改善の余地があると信じさせてくれる光を必要とする。その改善の余地、理想が具現化したものが神であり、人間がすがるものなのだろう。
そんな神だからこそ、人は自らの神の唱える正義や価値観を唯一として硬直させ、
分かり合う可能性を殺し、狭い固定観念に陥っていく。自らの望む可能性が他人の可能性を殺す・・・これが誤解であり、争い、歪みの源だ。皮肉にも、理想を描く力が結果的に全体の歪み、不条理、誤解を生んでいるのだ。このようにねじれた世界から人は脱するこ -
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設定い違和感あり
・宇宙世紀の作品としては、初代官邸が宇宙に作られたという記述により過去の宇宙世紀作品と大きな齟齬を生んでいる点が、その後読み進める上でも、なんとなく納得できない引っかかりになるように感じてしまいました。
閃光のハサウェイの物語が、この後にあるとすると、これも違和感があります。
・作品自体は、引き込む力があり、心沸き立つシーンの描写も多々あります。
また、福井さんの作品のわりには、必要以上に武器の詳細の表現にページをさくことがなく読みやすいと感じました。
・読み物としてのレベルは高いと思うのですが、ガンダムの宇宙世紀の根幹にかかわるような設定に、不用意に触れて -
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自衛隊情報局のエージェントたちの短編作。一番すきなのは「媽媽」。子育てをしながら情報局の正局員に復帰した由美子。子どもと満足に向き合えない葛藤を持ちながら仕事に打ち込む。ある事件の関係者である在日中国人の男を捕らえる。背後にある大組織に迫る間もなく、CIAと防衛庁情報局の間に政治的取引があり、男はCIAの手に。由美子は情報局の非人間的な指示に落胆。家庭まで犠牲にしてすべき仕事なのかという疑問を持つ。由美子が出した答えは・・・。「媽媽」の後の「断ち切る」も良かったです。断ち切りの技を持つ元スリのおじいちゃんが巻き込まれた事件。その背後にはなんと・・・。スパイ物ならではの状況のどんでん返しがどの作