君嶋彼方のレビュー一覧
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ネタバレ君嶋彼方の『夜がうたた寝してる間に』は、超能力という非日常の設定を用いながら、実のところ極めて繊細で普遍的な「青春の孤独」を描き出した作品である。時間を止める能力を持つ高校生・旭の視点から語られる物語は、派手な奇跡や劇的な事件よりも、人が他者と共に生きることの難しさ、そしてそれでもなお他者を求めてしまう人間の心の動きを静かに浮かび上がらせていく。
本作が印象的なのは、「普通であること」という曖昧な概念を丁寧に掘り下げている点だ。誰もが当たり前のように口にする“普通”という言葉。しかしそれは、往々にして見えない規範となり、人を縛り、時に孤立させる。時間を止める能力という特異な力を持つ旭は、その象徴のような存在である。彼は特別でありながら、同時に誰よりも普通であることを望んでいる。その矛盾した願いが、読者の胸に静かな共感を呼び起こす。
物語は、能力をめぐる事件や疑念を背景に進みながらも、中心にあるのは常に人の心である。疑い、距離を取り、時に傷つけ合いながらも、互いを理解しようとする人間の姿が、淡くも確かな筆致で描かれている。君嶋彼方の文章は決して声高ではない。むしろ静謐で、余白を大切にした語り口である。しかしその静けさこそが、登場人物の感情をいっそう深く読者の心に染み込ませていく。
また、本作の魅力はタイトルにも象徴されている。「夜がうたた寝してる間に」という言葉には、世界がほんの少しだけ静まり返った瞬間に、人の心がそっと動き出すような詩的な響きがある。まるで、誰にも気づかれない時間の隙間で、人の成長や変化が静かに進んでいくことを示しているかのようだ。そのイメージは物語全体を優しく包み込み、読後には淡い余韻を残す。
この作品は、決して派手な物語ではない。しかしだからこそ、読者は登場人物の迷いと向き合い、自分自身の記憶や感情と重ね合わせながら読み進めることになる。誰かと分かり合いたいという願いと、分かり合えないかもしれないという不安。その間で揺れる青春の姿は、読む者に静かな感動をもたらす。
『夜がうたた寝してる間に』は、特別な力を持つ少年の物語でありながら、同時に「普通とは何か」を問い続ける人間の物語でもある。読み終えた後、胸の奥に残るのは、激しい衝撃ではなく、深く澄んだ余韻だ。静かな夜の空気のように、ゆっくりと心に広がっていくその感触こそが、本作の持つ豊かな魅力なのだろう。 -
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後半、ぼろぼろ泣きながら読んだ。
男女入れ替わりもの、というといくつか作品が思い浮かぶが、ここまで繊細で複雑な心情をじっくりと描いた作品は初めてだった。
もしかして、私たち…入れ替わってるー?!という台詞からコマ送りでてんやわんやな日々が過ぎていく…というあの映画もとても好きだが、実際は何度も苛立ちと悲しみに打ちひしがれ、性差に戸惑いながら、不安と重責に押しつぶされそうな日々をなんとか生きていく、本作の陸とまなみの姿のほうがリアルだろう。
他人と入れ替わった場合に辛いことを挙げればキリがないが、私は本当の家族に他人のように振る舞われることが特に辛いと感じた。
気の置けない大切な人たちに、よそ行きの態度を取られる。一緒に過ごした思い出を語り合うこともできない。ましてや敵意のようなものを向けられたら、信じてもらえないと分かっていても全てを打ち明けたくなるだろう。
そして15年間元に戻れないとなると、入れ替わったまま大切な人が亡くなったり、新たな命が生まれたり。そこにどう向き合ったらいいのか、私も同じように悩むだろう。
さらに自分の体で過ごした時間よりも他人の体で過ごす時間のほうが長くなると、本当の自分はどっちなんだろう…と考えてしまいそう。
中盤、まなみの体で過ごす陸が男性に対して母性のような感情を持っていて、まなみの体の女性ホルモンが陸の心情にまで影響しているのかなと感じた。
最後は感情がぐちゃぐちゃにかき乱されたが、前向きな終わり方でとても良かった。映画もまた観てみたい。 -
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ネタバレ『もし、特殊能力者になったら…?』
特殊能力×学園×ミステリー
この設定、最高だわ!
能力者だからこそ、悩むこともあり、差別されることが多いそんな世界。
世界には、およそ1万人に1人の割合で、特殊能力者がいる。
特別支援地区 通称:特地区。
ここは、本当に、特殊能力所持者にとってのユートピアなのだろうか。
でも、特殊能力者ということを知っていても、離れない友人がいるのは、恵まれてるなぁと思った。
私が、特殊能力者になったら、我妻のように、周りとの距離を置いてしまうかもしれないと感じた。
途中から、旭が本当にヒーローに見えてきた。
私も、旭のように、周りを救えるヒーローになれるのだろうか。
今回の、好きなセリフは、篠宮が言った一言。
●「ま、でもそんな恥ずかしがることないんじゃない? みんな結構、必死でみっともなく生きてるよ」
この言葉は、日々、日常を一生懸命生きていて、周りと比較することも多い。
そんな私を救ってくれるセリフだなと感じた。 -
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ネタバレ同性愛者と元異性愛者の恋愛、周囲の人々、現在と未来。
自分の恋心が相手の在りえた未来を奪う密やかな恐れ。自分の性をなんとか受け入れて生きている人たちの人生の岐路が描かれている。
元カノ、連れ、両親、ゲイバーのママ、と様々な周囲の人が「同性と付き合っている」ことをどう感じるのか。昔ほど毛嫌いすることはなくなったけど、じゃあ彼らに対してこれからどう接したらいいの?という周囲の困惑。
生理的嫌悪はあっても困惑はするけれど全否定はしない両親もいる、世界は少しは私、私たち、彼、彼女らに優しくなっていっているのだろう(か?)
「醜いあひるが真夜中に」のアラフォーのゲイのママの話が私の心には一番馴染みやすかった。彼はどうしようもない袋小路を抜け出せたかな。
個人的に祥太が年齢の割にピュアピュアしててちょっとどうかとは思いました(汗)20代前半ならアリなんですが。 -
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正解はないとわかりながら、「この話のテーマは何だったのだろう?」と考えてみる。
p244
「いいか。幸せの形はひとそれぞれだなんて、ふざけたこと言うなよ。周りから幸せに見えることが幸せなんだ。結局普遍的なことが幸せなんだよ。俺が、お前が幸せになるために、どれだけ心血をそそいできてやったと思ってるんだ。恩を仇で返すつもりか?」
ここは、もはや作品のテーマの1つとして考えても良いだろう。家族のような近しい存在でも、同じ人生を歩んできたわけではない。分かり合えない存在・思想がある。大切なのは、他人に注がれる心血ではない。自身の人生観だ。それは誰にも侵すことは許されない。許してはいけない。それが自分の中での普通で居続けるのだ。他人に強要するものでもない。 -
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ネタバレこれだけ多様性、多様性と言われる世の中になり、様々な人がいるということは理解しているし、受容、尊重したいと思うけど、当事者になったら果たして自分は本当にそうかを考えさせる作品。
特に極端なのは一番の父親で、古臭いジジイだなって思ってた。でもこの人なりの息子への愛なんだよなって最後には思うようになった。自分が男性らしく振る舞えなくて苦しんだからこそ、息子には同じような思いをしてほしくなかったんだろうね。最後まで全然わかってくれないし、間違ってるけど。
一緒にいたい人と埋められない何かがあるとき、綺麗事を抜けば、譲ったり我慢したりすることになる。私は意地悪なのかなー、そうしようと思ってもそれが長く続くのか、一生続けられるのか、一番と千凪の行方を知りたいと思ってしまう。(特に一番。本当に我慢できる?って思っちゃう。)そこまで描かずに、二人で歩み始めたところで終えるのがこの小説の味噌なんだろうね。
二人の幸せを純粋に願える自分になりたいなあ。 -
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料理と恋愛にまつわる短編集。
料理が絡むからか、どれも一定大人の恋愛ストーリー。
一穂ミチのエピは不思議な色気を感じる作品。地味女かと思わせといてなかなかやりおる男女だわ。
古内一絵作品はこの人の根底にあるものが伝わるので嫌いじゃない。
君島彼方の作品は性的マイノリティの葛藤がいい具合に滲み出ていてこれも好き。
奥田亜希子のズルい男とそれをわかってて演じた女の話も結構好き。転がされてるようで転がす女は勝ち組だな、って思う。
ということでどれもなかなか思いを馳せることの出来る味わい深い短編集でした。
カレー食べたくなるよ
2025.11.11
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