高瀬隼子のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
夫が突然お風呂に入らなくなることから物語が始まる。私は割と最後の方まで、なぜお風呂に入らなくなったのか、何がそんなに嫌なのか、どこかで明らかにされると思っていた、がそんなことはなくて。
衣津実も、お風呂今日も入らないの?と促したり、病院を探しはするもののそれ以上はしなかった。でも、私が衣津実の立場だったら、お風呂今日も入らないの?と何度か促しても断られたり、本人の強い意志を感じればそれ以上は多分言わない。彼がそうしたいならそれでもいいか、と思ったり、彼に嫌われたくないと思ってしまうから。
お風呂に入らないなんてたしかに普通では無いけど、精神系の病院に連れていくことが正しいのか、は分からない。でも私だったら病院に行って、と言うのではなく、一度自らそういう病院に行って相談はする気がする。自分が過去に恐らく鬱病になった時仕事を辞め、しばらくネットの人以外の人と関わらなくなった。自分の状態がおかしいと分かっていても、精神的な病院に行くべきなのかもしれないと思っていながら行くのが嫌だった。私は精神系の病気だと思いたくなかった。夫は分からないけど、些細な衣津実の反応に傷ついた顔を見せていたから、私は病院も勧めれない気もするな。
衣津実は夫を愛していたんだとは思う。でも、夫を心配する反面いつも自分を何とか安心させようとしていたというか。結婚しなきゃと思って結婚して、子供を作らなきゃと思って作ろうとしたものの作れずに諦める。心の底からしたいと思ってしたことが今まであったのかな、と思った。夫を心配しなきゃ、が衣津実の中で度々見えた。
雨に濡れた夫を見て、小さい頃に拾った台風ちゃんを思い出す。飼い始めたものの世話をろくにすることなく、上京する際に捨ててしまう。それも川に戻すでもなく、海に放すでもなく、川のそばにボウルごと置いていく。その後雨が降り、心配で台風ちゃんを見に行くもボウルの中には台風ちゃんどころか水も入っていない。でも悲しむでもなく、「うまく捨てられたような、捨てるのさえ大事にできなかったような」
人の関心ってそんなもんなんだ、東京の人のように無というか、悲しくなった。
衣津実は結局いつも周りの目を気にして、妻だから、と心配したりするものの親身に寄り添ったりはしない。それが最後の最後、夫がいつも川に浸かりお風呂をする場所で「ここにおったら、死んでしまうね」で、その後帰ったらお風呂に入ろう、と思う。衣津実の母のままで、感情に浸るどころか感情もあまり見えない。人間の残酷さが見えた気がした。
生きるってしんどいよな、つらいよな、てか普通ってなんなんだろう、といろいろと考えさせられた。 -
Posted by ブクログ
高瀬隼子さんの本を読むのは2冊目。こちらがデビュー作ということだけど、デビュー当時から独特の小説全体に漂うモヤモヤとした雰囲気は健在だったのですね。
すっきりとした文章の行間に彼女の持ち味でもある「行き場のないフラストレーション」や「常識から逸脱した考えを持つ難しさ」みたいなものが染み出してきて、読み手を得体の知れない不安感で包む。
夫の浮気相手に「子供もらってください」と言われた主人公の薫が、そんな突飛な願い(そして浮気した夫)にどう向き合うか、というお話。子どもを特別欲しいと思わないという自分の気持ちと、そんなこと言わなかったのに密かに欲しいと思っていた夫の願いを尊重したいという気持ちの間で揺れる。
装飾の少ない文章なのに、説明的にならず、なんだかその場面を目の前で見ているような気にさせてくれる描写の巧さもさすがです。 -
Posted by ブクログ
私は紙の本も電子書籍も読む。
媒体にあんまりこだわりはない。
でもこの文芸誌を作る過程の様子をYouTubeで見て、いまだに紙の本好きが一定数いる理由がわかった。
私にとって読書は文字を情報として捉えるだけだった。でも本当に本が好きな人は、ページをめくるという行為そのものも読書体験の中に含んでいる。
作り手はそこをいちばんわかっていて、こだわり抜いてできたのがこの文芸誌。
本屋で見つけて手に取ったらすぐに理解できた。
内容も、普段本をあまり読まない層にも届かせようと完結型の短編にしている。
派手な展開はなくとも日常の中でじわじわ人の心理に訴えかける話が多くて楽しめた。
ミステリー好きとしては『ヴィンテージ』がいちばんお気に入りかな。
“美”という本誌の共通のテーマから、“プライド”という人間の中でかなり人間らしい要素がどの作品にも見え隠れしてたのも好みに刺さったと思う。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ年々積み重なっていく、うっすら抱いている違和感や不快感を全部言い表してくれていて驚いた。
色んな方の感想を見ていると、共感の程度はあれど、これもしかすると同世代のそこそこ多くの女性が感じていることなのかなと思う。
それにしても私は、そんなやつさっさと別れてその人たちと関わるのやめたほうがいいよ…と思ってしまう。
きっと女性の読者が多そうだけど、男性が読んだら何を感じるのかなと気になった。
女性が選択を迫られるたくさんのこと、身体にかかる負担のこと、それによって諦めたり、諦めることで他人と比べてしまうこと、それらについて少しでも考えを深めてもらえたらと思った。 -
Posted by ブクログ
風変わりなタイトルに惹かれ、読み始めましたが…。
初めから25ページくらいまでの感想は、なんなん?意味わからん!
前情報も帯すら見ずに読んだので、「芥川賞作家が書く芥川賞作家のデビューの裏側的な作品」と言うことに気づくまでそれくらいかかりました。
主人公の生真面目さと自信のなさと相反する万能感全てがないまぜになり、他人に迎合するのを厭うのにしてしまう自分を嫌悪しつつも許容する。
人間って複雑な生き物ですね。
共感する部分があったり、それは違うなと思ったり。主人公の内面を100%ではないにしろ、詳らかに書いてある作品だなと、思いました。
ほとんどの人間が、自分が傷つくことにはものすごく過敏だけど、傷つけていることには鈍感なのだ。 -
Posted by ブクログ
何よりタイトルが好きです。
口に出して言いたくなるテンポの題名。
別に実際に出しはしないけど。
と、ちょっとだけこの本の主人公の思考に寄っています。
果たしてうるさいのは、周囲の人々の声か、それらを含んだ職場の雑音か、主人公が想像しているだけの相手の声か、頭の中で乱反射する思考による自分の声なのか。
きっと全部なんでしょう。
この文章の中の全てでなくとも一部分は、作者に起こった実際の出来事なのかなとか、心の叫びなのかなと思う時点で、私も主人公の周りにいる雑音を発する人間と同類なんだなと。
この作者の、性悪説に基づいたような人の見方だったり、どこへ踏み出す訳でもないような行き場のない思考が心地よいです。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ「おいしいご飯が食べられますように」「いい子のあくび」の作家さんの小説で他に何かないかなぁと思ってこれを読むことにしました。タイトルだけで印象に残ります。2話の短編が入った短編集なのですが、2話目は1話目の続きのような感じで実質1話のみの長編小説でした。
・うるさいこの音の全部
自分は、朝陽がゲームセンターの従業員のアルバイトをしながら小説家デビューする話が面白かったです。
・明日、ここは静か
1話目の続きで、小説家デビューした朝陽が芥川賞を取る話でした。
印象に残っているシーンがあります。朝陽が友達の帆奈美と会う所があるのですが、そのなかで帆奈美が「推し」の気持ちが分からないって言うのですが、それには自分も共感しちゃいました。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ編集者さんが自分の親指でもう片方の親指の爪をさすっていた。という文章で終わるのが印象的だった。
この行為にどんな意味が込められているのか考えたくなって調べてみたら
1.不安や緊張の暖和
2.退屈しのぎ
3.神経質・完璧主義
4.無意識のリラックス
この4つの意味合いがでてきた。
主人公自身はどう捉えたのだろう
この主人公というより、高瀬さんが書く人物って
相手の様子を伺いすぎて生きるのがしんどそうだなと感じる人物が多い気がする。
そして、自分の思考を人に伝える事が苦手で求められた言動を常に意識してしまう人という印象。
求められた自分でいようとする事で本当の自分ってなんなんだろう。
自分の本当の考えはどうなんだろう。と私自身も考える事がある。
SNSでこういう意見をみた!共感!=自分の思考
と、今はなってしまっている気がする。
自分自身で作り出せる人間になりたいなと思った...。
結果、最初に戻るが
今回は瓜原さんは、凄く大人で人の感情を読み取るのが上手で人を傷つけない選択を取る方なんだろうな。
それを意識的にというより当たり前にできる方なんだろうなという印象を持った。
なので、本当の貴方を知りたいと伝えている事への不安や緊張の暖和なのだろうが
主人公は1番最悪なパターンを考え
自分で一度飲み込む事により自分を守っていないと心が保てない感じがするので本当の自分をみせるという選択をしなかった(期待外れな行動)=相手は退屈になった。と捉えているんだろうな。
やっぱり生きづらいな。
と読んでいて思いました。 -
Posted by ブクログ
ネタバレyoutubeで紹介されてて気になってたので初めて文芸誌なるものを買ってみた。
思った以上にボリュームあってこれで510円!?大丈夫か?と思ってしまった。
これで好きな作家見つけて長編を読むのが良さそう。
文芸誌って連載ものがほとんどでいきなり読み始めてもついていけないことが多そうなイメージだったけど、ほぼ全部読み切りで楽しめた。
読んだ順でメモ。記号の意味は以下の通り。
◎=めっちゃよかった
〇=結構面白かった
×=途中で読むのやめた
◎永井紗耶子/そとばこまちの夜
一応近代よりだけど時代小説。横浜にいるジャズシンガーの話。
木挽町のあだ討ちのイメージがあったからカタカナがたくさん並んでて新鮮。
そしてちょっと幻想的なオチもありめちゃくちゃ新鮮だった。
こういうのも書けるのね…。
◎高瀬隼子/ふたえ
単身赴任している父親が整形しちゃってた話。
ただそれだけなのに読ませる筆力。
孤独とか無関心とかがちょいちょい顔を出すのがいい。
◯九段理江/Beauticide
バレエダンスに通う女の子と先生の話。
まさに美についてのストーリー。
女性ならではの描写が光る。
めちゃくちゃ舞台が現代だから新鮮な気持ちで読めた。
◎山口未桜/美しい家族
短いのに起承転結がはっきりあって読み応えがある。
警察2人が主人公なのに全然自力で真相にたどり着けてないのもなんか新鮮。
キツネにつままれたようなオチでハッとした。
〇井上先斗/ヴィンテージ
古着屋の飛んだバイトを探すという珍しいプロット。
簡単に見つかるもののその裏に隠れたストーリーがホロ苦い。
自尊心を守るためにいろいろやってしまうところは山月記に似たようなものを感じた。
◎芦沢央/父の輪郭
物が多い家に住んでいるから直美の父の言葉がめちゃくちゃ刺さる。
自分の把握できないものをもつと自分の輪郭が分からなくなるっていうのは分かる気がするなあ。
でも捨てるために物を増やす人と結婚したのかもと思うとなかなかなアレな人だな。
補い合っているといえば聞こえはいいけど。
両親が死んでいるから確かめようかないけどその宙ぶらりん感のある結末もよかった。
◯大前粟生/いつになったら大人になれる?
見た目を気にしてうじうじしていたが着ぐるみに入って違うペルソナをまとうことでなんとなく前向きになれるストーリー。
金指さんを疎ましく思う一方でこんなに気にしなくてもいいのは羨ましいだけどこうなりたくはないみたいな葛藤がよかった。
あと擬音が独特のセンスを感じる。
〇柏井 壽 / 檜扇
続き物ぽいけどまあ入り込めた。
母親の月命日に母親のリクエストがあったものを作って食べる話。
何回も思い出話やめてねといいつつモウ違う話はできないからという返しがなかなかくるものがある。
でも料理はめちゃくちゃおいしそうだったなあ。
◎夏夜米子 / 旬
ピアニストの女の人と芸術家を目指してなれなかった男の話。
いきなり右手が送られてきてホラーなのかと思ったけどそんなことはなこった。
終わってしまったあの頃とその残滓でなんとかやっている切なさが染みる。
時間を取り戻そうとしてももう遅い。
もう二度と交わることのない二人の未来にほろ苦さを感じる。
〇村崎キコ / simeoウイルス
顔がシメオというおじさん俳優になってしまうウイルスが蔓延した世界。
すごい設定だけど顔ってみんなと同じになってしまえばそれはそれで慣れてしまうのかな。
あと声とかは変わらないのかなとか色々考えてしまった。
目に見える美しさとは一体なんだろうと考えさせられた。
〇金子玲介/ ハッピーエンドの小説
ハッピーなのかと気になりながら読んだ。
いい意味ですっきりするオチがなくて裏切られた。
主人公の心理描写がよくて、でもなんかイカれたような感じもして不思議な読後感。
◯貴志祐介 / 天国への13階段
こんなバカミスみたいなのも書けるのかという驚き。バカミスを書かされる作家の話なんだけど登場人物の名前のふざけ方とかフランスかぶれの刑事が出てくるからそれに引っ張られる形で地の文もカメラのド・アップ、ド・タマをかち割るとか変なところにド・が入っててワロタ。
◯八木詠美 / 家になった男
若い建築家Hに嫉妬する老年の建築家Jの話。
なんやかんやあってHの家に侵入するところから予想外の展開に舌を巻いた。
途中からもしや、という予感はあったけどこんな形で伏線回収されるとは。
◎佐原ひかり / 魔法の咲く丘
教科書に載ってそうな柔らかな文体でスラスラ読める。でもシホの心理描写とかシホから見た大人がどう見えるのか繊細に描かれててめちゃ良かった。
◎遠田潤子 / 少女は椅子に座っている
また叙述トリックに引っかかってしまった。
母に逆らえず義妹を救えなかった罪悪感と結ばれぬことは決してない同性の想い人を抱えている主人公の話。ホラー風味もあってワクワクした。
✕井上真偽、間宮改衣、児玉雨子、蝉谷めぐ実