【感想・ネタバレ】いい子のあくびのレビュー

あらすじ

芥川賞受賞第一作。
公私共にわたしは「いい子」。人よりもすこし先に気づくタイプ。わざとやってるんじゃなくて、いいことも、にこにこしちゃうのも、しちゃうから、しちゃうだけ。でも、歩きスマホをしてぶつかってくる人を除けてあげ続けるのは、なぜいつもわたしだけ?「割りに合わなさ」を訴える女性を描いた表題作(「いい子のあくび」)。
郷里の友人が結婚することになったので式に出て欲しいという。祝福したい気持ちは本当だけど、わたしは結婚式が嫌いだ。バージンロードを父親の腕に手を添えて歩き、その先に待つ新郎に引き渡される新婦の姿を見て「物」みたいだと思ったから。「じんしんばいばい」と感じたから。友人には欠席の真意を伝えられずにいて……結婚の形式、幸せとは何かを問う(「末永い幸せ」)ほか、
社会に適応しつつも、常に違和感を抱えて生きる人たちへ贈る全3話。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

◾️record memo

駅や街中で人にぶつかられることがあると話した時、大地は信じられないという顔をして、実際に疑っているような声色で「おれ、ぶつかられたことないよ」と言った。何言っているんだろうこの人、と思った。大地は中学から大学卒業までバレーボールをしていたという。百八十センチ以上ある身長、腕にも足にも筋肉がそれと見てわかるようについている体。そんなものに誰もぶつかりに行くわけがない。と、そこまで考えて、なんだわたしやっぱりこいつならいいやって選別されてぶつかられてたんだな、と今更のように気付いたのだった。分かっていたけど、分かっていないことにしていたような。それで、わたしもよけるのを止めにした。よけない人のぶんをよけないことにした。

そう決めた日、大地のマンションからの帰り道で、初めて人にぶつかった。それはやっぱり駅でのことだった。東京では、駅に近づけば近づくほど人が人に憎しみを持ち、怪我をさせても不快にさせてもいい、むしろそうしたい、と思うようになる不思議がある。同じ人混みでも、混雑した店の中や祭り会場とは違う。駅の人混みだけが、人の悪意を表出させる。強制させられているからかもしれない。みんな、どこにも行きたくないのに、どこかに行かされている。

「おれ、ぶつかられたことないよ」という大地のことばを思い出した。ここに立っているのが大地だったら、あの男の人は視線をあげて歩くだろうと思った。壁みたいに大きな体の男が前にいたら、すれ違うまでは前を見るんだろうと。
ぶつかったる。
頭に浮かんだことばに、意識も体も引っ張られるように前を向いたまま、ただまっすぐ歩いた。スマートフォンを見ながら歩いている人は、存在しないっていうことにした。わたしの前には誰も人がいない。道に自分しかいない時に歩くスピードと歩幅で、まっすぐ歩いた。そうしたらぶつかった。男は驚いたみたいだった。えっ、とも、ちっ、とも聞こえる小さな声をあげて、でも何も言わずそのまま進んでいった。立ち止まって振り返ってみたけど、男の方は振り返らなかった。階段を下りて行く。姿が見えなくなる。

ぶつかった時に当たった左の二の腕が痛かったけど、五分もすれば消える程度のほのかな痛みだった。痕も残らない。残るのは、ああこれだったんだ、っていう納得。間違わなかった、正しいことをした、社会がどうとかではなく、わたしがわたしのために正しいことをした、と思った。

よけてあげなかったから、結果としてぶつかった。よけてあげる。スマートフォンに顔面から吸い込まれていたあの中学生に、わたしが何かしてあげるのは、なんか、おかしい。だからよけなくて良かった。怪我をしてでも、あの子のためにわたしが何かしてあげたりしなくて良かった。

さっと振り返るとレジのそばに男の人が立って、おばさんに何かを注意していた。名札は見えないけど「次は気を付けてくださいね」の言い方に店長か何かかな、と思う。十歳は若いであろう男の人に、はい、すみません、と答えるおばさんの声が本当に申し訳なさそうな響きを持っていて、うわべだけじゃなく感情を滲ませた声の使い方に、この人の立場の弱さを感じた。

どうしてこんなことをするのか理解できないのに、結婚してもいいんだろうか。祖母にぶたれて赤くなった母の腕を忘れない。同時に、ここで思い出すべきは祖母の暴力ではなく、腕を振り上げた祖母を目の前にして微動だにしなかった父だろう、と思う。思ってから、ぱっと浮かんだ母の腕の映像の隅に、取って付けたように父を登場させる。無理やり浮かばせた父の形はぼやけている。結婚したいなと大地は言ったけど、実はそれだって理解できてない。よくわたしと結婚しようなんて考えるな、と冷めてしまう。

大地といると、損得勘定ばかりしてしまう自分が卑しく感じる時があるけど、一方でこの人はこんなに与え続けても涸れないくらい、持っているし、人から与えられもするんだな、と白けた気持ちにもなる。お金がないと生活していけないのと同じように、優しくしたくたって与えられるエネルギーを持っていないと施せない。優しさが、そんなにたくさんあるなら、すこしくらいもらってもいいよね。世の中の大変なことはお互いさま、と言うなら、わたしがつらい目にあったぶん、大地に優しくされてとんとんだ。割に合わせるにはそうするしかない。

マスクの中で自分の吐いた息を吸う。他人がこんなに近い空間に押し込められて、マスクもしないでいられる人がいるなんて信じられない。

何かが肩に当たり、そのまま置かれる。目だけで振り返る。後ろに立つ若い男のスマートフォンがこつんと肩に載せられている。肩をゆすると、一瞬離れて、また置かれる。咳払いをしても無駄。ねえそれ、そんなに重たい?

人と人とがすれ違う時に、前を向いて歩いていたらお互いにちょっとずつ左右によける。自分のぶんと相手のぶんのスペースが平等になるようにする。駅だけでなく街中にながら歩きをしている人はいる。みんな、自分のぶんを誰かが代わってくれるから大丈夫だと思っている。わたしも誰かのぶんを担ってきたなあと、さっきよけた二人の男のことを考える。おそらく二度と会うことのない人。その人たちのぶんをわたしが担ったこと。これは忘れてはいけないな、忘れてはいけない、と口の中でつぶやく。手帳を取り出したかったけど、職場に着いてからにしようと思う。息が苦しくなって、マスクを外す。

忘れない、と思う。わたしは絶対に忘れない。それがあったことも、その時に発生した怒りも不快も、時間が経ったからって許さない。

おもしろーい、みたいな感じで。人質でも取られているみたいにいい子にするよね、と自分で自分に言う。なんでそんななん、と生まれ育った土地のことばで突っ込む。しゃあないやんそうしてしまうんじゃけん。言い訳をする自分の声。桐谷さんが不幸になりますように、と息をするように思う。これは会社で話す東京のことばで。しばしば、思う。

直子ちゃんって、ほんとにいい子だよねー。そんなふうに。その声には、彼女たち自身がまだ捉え切れていなかった「なんかむかつく」が見え隠れしていた。

帰りの電車も、朝ほどでないにしても混んでいる。人と密着はしないけど、鞄が触れたり毛先が触れたりする距離に立っている。電車ががたごと揺れる度、すこし緊張する。全員が全員不快な気持ちで過ごす。誰かが何かにいら立ち舌打ちをする。それが次の舌打ちを呼ぶ。この中に優しい人間なんて一人だっていない。優しい人は、東京じゃ電車にだって乗れない。

結婚するんだろうか、と考える。考えるのと同時に、考えるって言ったってどうせするに決まっているのに、とも思う。大地に結婚したいなあと言われた時、うれしい気持ちを探した。心の中を検分して、これじゃないという気持ちやことばをよけて。そうしてようやく「うれしい」と口に出して言った。言いながら頭の中にはふつふつと、別のことばが浮かんできていた。見る目ないな、教師のくせに。とかそういうの。

「結婚式ってする意味分かんない。自分たち二人だけならともかく、親族とか友だちとか職場の人とかの、貴重な休日の時間とお金を奪ってまで、自分たちが主人公の時間を演出して、大切なみなさんに見守っていただきながら本日晴れて夫婦となりました!とか言うでしょ。いやいやもう意味わかんない。あんな、ドレスなんか着て、見てくださいわたし主人公です、ばーん!って。恥ずかしい」

大地の家族と会った日にかぶっていた猫は、着ぐるみどころじゃない。この世に存在するありとあらゆる愛らしい猫ちゃんの皮を全部はいできて継ぎ足して、それでも足りない部分はキティちゃんやおしゃれキャットマリーちゃんで補強して作った、最強猫ちゃんで、そこにはわたしの要素はひとつもなかった。ついでに言うと着ぐるみの方はいつもかぶってる。大地の前でもかぶってるし、会社でもかぶってるし、家族の前でもかぶってるし、なんなら一人の時でもかぶってる。元の顔なんて、着ぐるみの中で蒸れて擦れて潰れて変色もしちゃって、原形がない。

にこにこしようとか、興味を持ってるふりをしようとか、そんなことばかり考えて、わたし、本当に他人に興味を持って話を聞く方法が分からない。

三年目になって仕事を覚えて、仕事ができている実感を持ってくると、仕事をしてるのに愛想まで求められるのは割に合わないと、思い始めた。後から付いてきた感情だった。

通勤電車は相変わらずぎゅうぎゅうに人間が詰め込まれている。ねえ大地、わたしが電車に乗る時にマスクをするのは、感染症予防のためじゃなくって、人間を汚く感じて、その人たちの口や鼻から出たり入ったりした空気に、直接触れたくないからなんだよ。マスクも着けずにあんなぎゅうぎゅうの電車に乗っている人たちのこと、頭がおかしいなって思ってるの。前を見ないで道路を歩く人のことも、怪我をして痛い思いをしたうえで死ねばいいと思ってる。そんなこと思ってる人間と結婚を考えるなんておかしいと思ってたけど、本気で考えているわけじゃなかったんなら、おかしくなかったね。やっぱり大地は本物だ。まともで、正しい。

驚くもんなんだな、と自分の反応に冷める。喉がぎゅっとしまって声が出なくなるほど、びっくりしていて、心の表面をざっと手で触ると、ところどころにひっかかりがあるようだった。傷が付いてるんだ、とこれにも驚く。ずいぶんやわな出来の心だ。傷ついたところに爪をたてて、さかむけを剥くみたいにして引っ張る。中身が見える。ほら、心の中ではわたしのことを好きでいる大地をばかだなと思っていたくせに。ようやくばかじゃないことが判明した大地に、びっくりして傷つくなんて。ださい。しんどい。うざい。

電柱の下、植込みの間に嘔吐の跡がある。投げ捨てられてひしゃげたビール缶が転がっている。泥水を吸ってコンクリートにはりついているハンカチは誰にも拾われない。こんなところで、丁寧なことばだけで、どうやって生きていけというの。

みんな、いい子だって言ってるくせに。にこにこしていたら安心するくせに。自分が傷つけられたぶん、囚われたぶん、取られたぶん、削られたぶん、同じだけを他人にも、と思う。だっておかしい。割に合わない。

わたしは、わたしが悪い時でも、わたしは悪くないって主張する。だって割に合わせただけだから。いいとか悪いとかじゃないから。わたしはわたしのぶんだけしかやりたくないから。全部背負っていくのは嫌だから。嫌だけどでも、やっぱり悪いことをしたって思ってる部分はあって、だけど誰にもそれは言えない。わたしが悪かったって認めたら、それは、わたしが割に合わないことを受け入れて生きていかなきゃいけないってことになる。顔をあげて前を向いて歩いている人ばかりが、先に気付く人ばかりが、人のぶんまでよけてあげ続けなきゃいけないってことになる。

プライベートの知り合いと比べて遥かに低いラインを引いて、職場の人たちを嫌いだと思えてしまう。この確信はなんなんだろう。自分が選んだのは仕事であって人間ではない、自分が選んだ人間ではないから、嫌ってしまってもかまわないと、そういう心理だろうか。大嫌い、と自分から切り捨てるように思うことができるのだから、わたしはきっとどこに行っても、誰と働いても嫌いになってしまうのだろう、と分かる。今目の前にいるこの人たちが特別悪い人間というわけではないのだ。

子どもの頃に出席した親族の結婚式で覚えているのは、マッシュポテトの上にキャビアなるつぶつぶが載っていたことと、「花嫁さん綺麗ね」と母に言われて見上げたウエディングドレスの女性をたいして綺麗だと思えなかったことだ。純白のきらきらした美しいドレスに、人間色の緊張した魂が突き刺さっているように見えた。けれど幼心に「うん」と答えるしかないと分かっていたので、そうした。わたしは今でも分からない。母が「花嫁さん綺麗ね」と言ったのは、本心からのことだったのか、親族に囲まれて座る丸いテーブル席で幼い娘にかける言葉の正解があれだっただけなのか、どっちなんだろう。今更訊いても、そんなこと覚えてないしやっぱり性格悪いわね、と嫌な顔をされるだけだろうけれど気になる。

結論としては、バージンロードから嫌だったから、つまり、初めから嫌だったということになる。直訳して処女道であるそれを、父親の腕に手を添えて歩き、道の先で待つ新郎に引き渡される図。新婦、物みたいだなあ、と最初に思った。それから、下品だなあとも思った。思ってしまったら、ふんわり広がった純白のドレスの下で、何センチもあるヒールに足をぷるぷる震わせながら必死で歩いているのも、新婦を一人で歩かせないための罠にしか見えなくなった。

式場スタッフが三人がかりで運んできた大きなウエディングケーキを前に、ケーキ入刀とファーストバイトが行われ、「ファーストバイトには、一生おいしいごはんを作るからね、という新婦からの誓いと、食うのには困らせないからな、という新郎の誓いが込められています」と説明がなされる。なにそれまじで気持ち悪いっ、と慄きながら辺りを見渡すと、握りこぶしほどもある特大スプーンを新郎に差し出した新婦と、こぼれるっこぼれるってとおどけて大口を開ける新郎に、みんながあたたかい笑い声をふりかけていてまたぞっとした。じごく、と言葉が浮かびかけ、結婚式の日にその言葉だけは頭に思い浮かべてはいけないような気がして、慌てて意識から遠ざけ、スマホのカメラを新郎新婦に向け直してボタンを連打して写真を撮った。

大音量で流されるウエディングソングでは二人の愛の尊さが表現され、自宅で家族だけに伝えた方がいいように思われる両親への感謝の気持ちを、なぜか新婦だけが手紙にしたためて参列者全員の前で涙ながらに発表し、新郎は泣いている新婦を支えるように肩や腰に手を添えているのだけど、自分は感謝の手紙を取り出す気配もない。新婦の涙を見つめながらなんでだろうと考えてみると、女性は生家から出され、夫の家にもらわれるので、夫側から見ると「別に今親にありがとうとか言わなくてもいいでしょ、これからもおれはおれの家にいるんだし」となるのだ!と思い至って衝撃を受けた。じんしんばいばい、とこれもまた今日このおめでたい日に当てはめるべきではない言葉が頭に浮かんできてしまう。会場のあちこちからすんすんともらい泣きの音が響き、拍手とともに「末永くお幸せに」「末永く」「末永く」と呪文が繰り返される。

人は人、自分は自分、などと言いながら、思いながら、これを気持ち悪いと思わないなんておかしい、と心から思って見渡すと、気持ち悪がるどころかみんな幸福そうに微笑んで、うんうん頷いて、目に涙を浮かべて感動している人までいた。末永く、末永くだよほんと。また呪文が聞こえる。うそでしょわたしだけ?一人一人に訊いてまわりたい。おかしいでしょあんなの、気持ち悪いじゃん、どう見たって。「分かる」と言ってほしかった。分かるよ、そうだよね、おかしいよねって。

家族の期待に応えること、地元で家族に囲まれて過ごし、家族を増やすこと。学生時代から人前に立つのが得意ではなかったりっちゃんが、自分が主役になる結婚式をしたいと思う意味。そこから生まれる幸福を、わたしは心で感じることができない。分からないから、触れられないから、近づくと苦しくなるから、同じようには願えないけど、りっちゃんが求めている幸せの形は明確で、「それっておかしいと思う」などと言い出すわたしがいない方がいいのは分かり切ったことだった。

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2025年11月01日

Posted by ブクログ

「いいこのあくび」
ながらスマホで自転車に乗る中学生にわざとぶつかる主婦、転倒した自転車に車でぶつかってしまったレジのおばさん、その中学生の先生である夫。思わずあるあると思ってしまう深層心理の意地悪さがユーモラスに描かれています。
「お供え」
主人公の職場の後輩社員が机に会社の創業者フィギアを飾り、いつしか皆が願い事をするお祈りの対象に。
「末永い幸せ」
親友の結婚式参列を拒みながら、式場のホテルの窓から式の様子をそっと伺う主人公。

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2025年10月18日

Posted by ブクログ

本当はそんなこと思っちゃダメなんだろうと、心の奥底にしまってきた感情を表現してくれた。すごく心が楽になった。

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2025年10月05日

Posted by ブクログ

いい子のあくびを含む3作が収録されている本作、やっぱり私は高瀬隼子さんの作品が全部好きだろう。

人の悪意を書くのが本当に上手で、しかもその悪意はとびっきりの悪意ということではなく、本当に嫌な、犯罪者とかの悪意とかではなく、これ私のことって思う人が多数いるような。そして私もその1人である。

描いてる悪意を、持っている側の苦悩というか、そこまで書いてくれるので、これ私だ。と思った私も救われる。
次の高瀬隼子さん作品も早く読みたい…
自分の心を言語化してほしい。

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2025年10月04日

Posted by ブクログ

私は共感の嵐だった。
普段心の中にどろどろと溜まっていく“言えないこと”を言語化してもらったような気分。
表題作の彼女は私だ。
「ぶつかったる」って思うしこっちばかりがいつも避けて「割に合わない」と思う。
歩きスマホをすれば、前を見てなければ、みんなお前を避けてくれると思うな、甘えんな、期待すんなよって思う。
来世は絶対高身長で体格のいい強面の男に生まれ変わりたい。
女ってだけで舐められて、ぶつかられて、舌打ちされて、そんな思いばかり。
このどうしようもない感情を分かってもらえたような嬉しさと同時に、醜い自分を見せられたような感覚。
時々、芯の突いた言葉で刺してくる鋭さ。
彼女は私だ、また読み返したい本に出会えた。

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2025年09月29日

Posted by ブクログ

ネタバレ

*公私共にわたしは「いい子」。人よりもすこし先に気づくタイプ。わざとやってるんじゃなくて、いいことも、にこにこしちゃうのも、しちゃうから、しちゃうだけ。でも、歩きスマホをしてぶつかってくる人をよけてあげ続けるのは、なぜいつもわたしだけ?「割りに合わなさ」を訴える女性を描いた表題作*

とてもとても不思議な読後感。

「いい子」でいることの必要性や優位性は十分わかっているけど、「いい子」でいることの割に合わなさ、理不尽に摂取され、消費されることに対して疲れ果ててしまう気持ち…わかるなあ。
我慢の限界と静かな怒りがじわじわと沁みてくる様がリアル過ぎて痛い。

決してキレイなお話ではないけど、読んでいて苦しいのになぜか心地よい解放感もある読後感…
クセになりそうです。

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2025年09月18日

Posted by ブクログ

相変わらず容赦のない火力で…ええ、もう、ほんとに…。罪とは言わない、でも善良とは言えない感情。わたしにも絶対心当たりがある。おかげでぐさりと横腹を刺された気分。現代的で生々しい心理描写はもはやちょっとグロくて変な笑い声が出る。善良なまま生きていけるわけがない。

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2025年09月06日

Posted by ブクログ

「いい子のあくび」周りからいい子だと思われている主人公が心の中で感じている黒い気持ちがキレキレで面白かった。歩きスマホしてくる人を避けずにぶつかっていくスタイル尖ってるなーと思った。望海と会う時は口悪く、自分に起きた出来事を面白おかしくして話すのに、圭さんと会う時は圭さんの人柄に合わせて健気な心優しい女の子を演じているところ、彼氏の大地にも彼氏での前の自分があってというところが少し極端だけど分かるなと思った。誰といる時の自分が一番好きなのかが大事なのかもと思った。
「お供え」会社のデスクの上で個性が出るところとか、描写が想像でき過ぎて面白かった。会社の創業者のフィギュアをデスクの上に置いて配られたお土産をフィギュアの前に置くと、ちょっとした願い事が叶うという設定が既に面白い。舐めた態度をとってくるけどなんだかんだ一緒にいる後輩が、自分の異動をかぎやしょうぞうフィギュアに祈っていると直感で感じたところは、自分が後輩のことをそう思っているからそう思い込んでしまったのではないかと思った。
「末永い幸せ」結婚式に嫌悪感を抱いてないと書けない話だと思った。

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2025年08月17日

QM

購入済み

おもしろい

周りに所謂”いい人””物分かりがいい人”って思われてる人の心の底を覗いたようで、共感もしたしここまで言語化されてゾクっともした。外の顔を演じてるのはそうした方がいいと自分で思っているから。でも人間そんな常に優しい気持ちでいられない。ひどいことをしてみたくなったり心無い言葉をかけたくなったり、誰にでもあることだよなぁと。読んで所々清々しいとすら感じてしまった私は性格が悪いのかもしれない。

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2024年09月15日

Posted by ブクログ

人によっては、捻くれて意地悪で冷たい主人公たちに思えたかもしれないけれど、私の中にも同じような、人には曝け出せない暗い感情が芽生えることがあるので、この感覚分かる、知ってる、思い当たる、でもそんな気持ち話せないと思ってたから、安心したというかそう思って良いんだとほっとした。悪態たっぷりで思わずふ、と笑ってしまう時もあった。終わり方も好きだった。特に二つ目、Aがあれを見たら腰抜かして震えるに違いないと思うとゾッとしたし秀逸な仕返しだと思った。生きづらさや閉塞感、人に言えない感情を抱えてる方におすすめです。いい子のあくび/お供え/末永い幸せ

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2025年11月22日

Posted by ブクログ

〇〇したいからしている、のか〇〇してる自分でいなければならないからしている
なのか分からない自分への嫌悪感が呼び起こされて気分悪い笑でもこういう歪な部分を書き起こしている作品程刺さる、、、

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2025年11月16日

Posted by ブクログ

いろんな考え方をする人がいるんだな〜

主人公は考えすぎで、生きづらそうだと思った。
周りにいたらちょっとイヤかも


「いい子のあくび」の主人公が大地や圭さんや望海に見せる顔が違うように、私もその場に一緒にいる人の考えに寄せた事を言ってしまう癖があるから、とても共感できた。

どれも本心で、どれも嘘じゃない。

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2025年11月13日

Posted by ブクログ

読んでいて、「うんうん、分かる」と大共感するところがあった。言葉にしたら引かれそうなことが、容赦なく表現されていて気持ちがいい。

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2025年11月06日

Posted by ブクログ

高瀬さんの本を読むのはおいしいご飯が食べられますようにに続いて2冊目です。
人間の嫌なところ、不条理な世の中が心がゾワゾワする感じで描かれていて、自分は主人公のように実行には至らないし、いちいち苛つきを頭の中で言語化することもないけど、共感するポイントが多いです。

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2025年10月31日

Posted by ブクログ

駅などでぶつかってくる人を避けない人の話と、願いを叶えてくれる置物を持つ同僚がいる人の話と、結婚式などの女性が男性の家に入り家事をすると言う風潮が嫌で結婚式に行かない人の話。

1番最初の話が1番印象に残った。話の進み方が主人公が感じたことよりも考えていることで進んでいくから、普段似たような温度感でものを考えている私としては途中で一旦もういいやってなった。他の話では長い文章の中で一つか二つでてくる、そんな感じの気持ちあるよねというポイントが矢継ぎ早に出てきたりする。

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2025年10月26日

Posted by ブクログ

三作とも面白いけど、まったく共感はできない。したくない主人公たち!意地悪というか、繊細というか、考えすぎというか、生きづらそうというか...
たぶんこのタイプの人たちには、私みたいな何も考えていないデリカシーないタイプは嫌われる笑
なぜかトイレのシーンがしっかり描かれていて印象的だった。

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2025年10月26日

Posted by ブクログ

 表題作の「いい子のあくび」が面白かったです。普段日常生活をする中で何気なく目にしたり感じることを文章でうまく表現してて、その文章も難しくなく、スラスラ読めました。
 特にスマホ見ながら歩いてて人にぶつかった時の心情が上手く表現されててまして、印象に残りました。
 「ながら歩きは危険なのでやめましょう」というアナウンスをよく聞きます。自分もこの小説を読んで「ながら行動」はやめよう、と改めて思いました。

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2025年10月16日

Posted by ブクログ

ゾワゾワするし、主人公の行動力、というか普通の人なら常識的にやらないことをやっちゃうところ?が怖かった。
でもすごく気持ちはわかる。結婚式が正直好きじゃないとか、人が前から歩いてきた時、自分が避ける側であることへのモヤモヤとか。
この気持ちが一定ラインを超えたら自分も主人公みたいになれてしまうかも、と思うと、こ、怖い。。

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2025年10月15日

Posted by ブクログ

高瀬隼子っぽい、気持ちはわかるけど、なんかゾワゾワする感じの小説。
歩きスマホの人をよけずにぶつかっていく女性の話。

私もイライラしているとき、混んでいる駅で(歩きスマホの人に限らず)あっちが何も考えず歩いてきて、「なぜこっちが道を譲らなきゃいけないんだ!」と思って、なるべく 道を譲らないことがある。普段は無意識に譲っているのに。
この主人公は体の大きな彼氏といる時はバリアが張っているみたいにあっちが勝手に避けてくれるけど、1人の時は避けてもらえないと言っている。
私は意識したことないけど、そうなのかも。
意識しだしたら余計道を譲りたくなくなってしまうかもしれないな〜。

この小説では歩きスマホの人に道を譲らないことが 象徴的に書かれているけれど 、この女性のイライラはそれだけでなく、「なぜよく気のつく私が私が気を使わなきゃいけないんだ」ということだと思う。
気がつかなければ楽なのに。
こういうのってあるよね。
できる人ばかり仕事を頼まれてしまうような感じ。
割に合わない。

主人公は自分の可愛らしい部分が好きな彼氏、自分の悪い部分を出すことで盛り上がる友人、自分の控えめのところを出す友人とキャラを使い分けている。
誰しもあることだろうけどここまで違ってくると苦しいだろうなと同情してしまう。
主人公のありのまま、いろんな面を全て包み込んでくれる人がいるといいんだろうな〜。

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2025年10月07日

Posted by ブクログ

表題作が、今まで読んだ高瀬先生の作品で1番好き。
他人に見せている一面なんて、その人の本当に一部でしかない。

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2025年09月25日

Posted by ブクログ

きっとどこかで自分も思っているけど、自分の中でも気付かないふりをしているような黒い部分を言い当てられたようだった。『おいしいご飯が食べられますように』もそうだけど、好きだ~

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2025年09月18日

Posted by ブクログ

いい子はつかれる。
素っ裸にされて醜態を晒されて、
理不尽に打ちのめされて
楽に生きるのはなんて難しいんだと絶望してしまう。

物語が悪いんじゃなく、
キャラクターが悪いんじゃなく、
ただただ無駄で無意味な労力がこの世にはたくさんあって、割に合わない報われないもので溢れていて、それに気づいて。
ほんの少しでも報われて欲しいと思いつつ、私はその恩恵を享受した分、はたして誰かの報われる材料になり得ているのか。
誰かの「今日は得したな」になれるような生き方をしたいと思った。

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2025年09月03日

Posted by ブクログ

「あたりまえの日常」を過ごしながら、その「あたりまえ」に違和感を感じ、いらつき、傷ついている人たちの物語。繊細で考えすぎてしまう人たちにとって、いまの社会は生きにくい。

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2025年12月07日

Posted by ブクログ

自分の中にある本音の部分がよく表現されていて「わかる〜」と思いながら読みました。
「いい子のあくび」のぶつかったるっていう表現もぶつかると痛いけど、なんで自分が避けなくちゃいけないの?っていう自分のなかにあるちょっとした不満が共感できました。
ほかの2つの話も含めて、自分のなかのちょっとした悪の部分がよく表現されているなぁと思いました。

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2025年12月06日

Posted by ブクログ

自分の今の気分とマッチしなかっただけかもしれないけど、うんうんわかる〜がごく一部、あとは何それこわくない?なんで?の繰り返し。読む前より心が疲れてしまった。

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2025年12月04日

Posted by ブクログ

めっちゃ主人公性格悪かったけど私も心の中で暴言吐くことあるからちょっと安心した
東京とかの満員電車に巻き込まれるのが日常だったら性格淀みそうだなぁとおもった。

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2025年10月26日

Posted by ブクログ

表題作はいい意味でイライラさせられる話。
自分はこう言うタイプの人が嫌いなんだなと言うことがよくわかった。

どの主人公も考えすぎ、気にしすぎとも思えるし
多くの人が見逃しているおかしな当たり前に気づいていると捉えることもできる。

なんせ生きづらい人たちだろうなと思う。

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2025年10月11日

Posted by ブクログ

ぶつかったる。
そんな一言で始まる小説。
人間の心の汚いところを書かせるならこの人だなと思います。

歩きスマホをしていない側が避けないのは悪なのか、仕事が出来る人ばかり仕事をして、先に気付く人ばかり損をする。
まさに割に合わない。
日頃生きていたらつい思ってしまう、だけどそれはいけないことだからみんな心に蓋をしている言葉を、うまく言い表してくれています。
いい子の反対は、悪い子ではなく、やな子。
出る前に押し殺されたいい子のあくびはどこに行くのか。

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2025年10月07日

Posted by ブクログ

私もあくびを噛み殺す「いい子」だ。
自然体で優しい、のびのびとしている人に憧れるけど、決してなれない。「自然体でのびのび」しているフリはできる。相手に合わせて。あー!もう、これ、私やん!
主人公と自分が重なりすぎて、少し辛くなった。

3編とも、ちょっと変わった女性が主人公。しかも、全部私のことのよう。  
最近、鏡を見ていなかったけど、
どうだー!これが今のお前だ!と
現実をつきつけられたような気持ち。

相手に合わせて
世間に合わせて
本来の自分を隠しているうちに
本来の自分がわからなくなる。
ストレスがかかる。
吐き出し方がわからない。

「ぶつかってやる」という、
えいやっ!という行動でしか、
吐き出せなかった主人公。
私は「ぶつかる」勇気もないから、小さく小声で毒を吐いたり、海や山や川へ行き、
リフレッシュしたり、本を読んで本の世界にどっぷり浸かったりして、やり過ごしている。

あれ?もしや、こうして考えてみると、
誰しもが、そうやって、環境に合わせて生きていて、たまったストレスを趣味で発散してエネルギーチャージしてるのかな?
「いい子」は特別でないのか? 
だって主人公の恋人の大地くんだって、
「自然体で良い人」のはずが、浮気してたし!

誰が悪なのか、
誰が善良なのか、
誰が普通なのか、
誰が変わりもんなのか、

意外と線引きはできないのかも?
決して爽やかな読後感ではないけれど、
自分を振り返るには
良いきっかけを与えてくれた一冊。

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2025年09月30日

Posted by ブクログ

いい子のあくび、面白かった。共感できる部分もたくさんありつつ、けど現実には言えないし動けないし、、な微妙なライン、読んでて新鮮。

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2025年09月14日

Posted by ブクログ

ネタバレ

「いい子のあくび」
主人公の生き方をしていたら疲れそう。ずっといい子でいられるのは強みだと思うが、嫌われたくなくて友人相手にもビクビクしているのは単純に可哀想と思ってしまう。なんで歩きスマホをしている側がよけなくてよくて普通に歩いている人がよけないといけないのか、という気持ちは共感できるが、かと言って自分が怪我をするリスクを負ってまでぶつかりに行く気持ちはわからない。正直この主人公とは友達になりたくない。関わりたくない。この作者は人間の濁った感情を言語化するのが得意だなと思う。

「末永い幸せ」
結婚と結婚式に対する気持ちが主人公と全く同じだった。私は参列しないことはないだろうけど、家族への手紙を読む時間とか、キリスト教形式の挙式で父親の手から新郎に新婦が手渡される瞬間は気持ちが冷え切ってしまう。茶番だと思う。関係ないが、キリスト教徒でもない日本人がキリスト教の結婚式で神に誓ってるのが理解できない。

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2025年09月05日

cnm

購入済み

小説の読書体験として最も興奮する瞬間は、登場人物と融合したときだと思う。著者が主人公とする人物はいつもなにかしら「呪い」のようなものを持っていて、一見するとマイノリティ側に見える。けれど、主人公と融合した人間が著者以外に、少なくともここにもうひとりいる。それならば他にもいるのではないかと、そう思えるだけで少しほっとする。

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2024年06月28日

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