小川一水のレビュー一覧
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ネタバレついに終わった…!
長い長い旅路で、想像できる範囲をとうに越え読むのに時間がかかってしまったけど、終わりました…
ヒトもヒトでないものも、また生をつなぐことできたんだね…
このⅩ巻PART1~3は、月へと新天地を求める晩年の千茅から始まり、千茅へ励ましの手紙を送ろうとする青年の青葉で終わるというのが、なんて粋なことしてくれるんだ!と拍手喝采を送りたい。
そして全巻通して、人類の可能性と、宇宙という未知の世界と、そこに住む地球外生命体の営みとが目の前に提示されて、今まで自分の持っていた価値観がふっとんだ。大人になって行動範囲も物事の捉え方も随分広がったと思っていたけど、この物語の前では井の中の蛙でしかなかった。
また、最近は物語に触れることに慣れてしまい、小説を読んだりドラマを見たりしても気持ちが昂ることがあまりなくなって寂しかったけど、まだこんな動悸がするほどわくわくして夢中になれる世界があるんだ!と嬉しかった。
新たな価値を与えてくれたという点で間違いなく人生ベスト3に入る作品。私が死んだときは17冊全部棺桶に入れてほしい。 -
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災害の描写がすごくて人死にまくっておまけに人種差別の問題まで…途中しんどかったけど、キャラの立たせ方とか、惑星レベルの規模の大きい話と人間一人一人の泥臭さにフォーカスした小さい話との絶妙なバランスの取り方が素晴らしかった。話の終わりに近づくにつれてどんどん引き込まれて行く感じがたまらなかった。
正直言ってスミルとセイオがまさかくっつくとは思ってなかったな。ただ、過度な描写もなく本編を邪魔しない絶妙なラインでストーリーが作り上げられていたので安心した。
ソレンスとサユカはずっとやきもきしていたけれど、災害が落ち着いた最後の最後で解消されたのタイミングばっちりだった。このお話では彼らはあくまでもスミルとセイオの引き立て役だった。立たせ方が上手だ、好きになってしまった。スピンオフ希望。
サルカンドの恋が叶わなかったのは逆にしっくりきた。叶わなかったけど鼻歌歌ってご機嫌なあたりサルカンドらしい。ごめんね。
特に好きなキャラはヘリトとグインデル〜こういうモブっぽいキャラこそストーリーには欠かせない。
小川一水はキャラ作りの天才かも。間違いなくみんな生きてたし、まだまだ彼らの活躍がみたい。読み終わるのが寂しくて。 -
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ネタバレ銀英伝のトリビュート短編集。ラインハルトがルアーフィッシングをするなら、ヤンは2人劇で女装で役者をする。キャゼルヌ婦人の名探偵っぷりは堂に入ってるし、フェザーンと地球教はなるほどなるほど…
田中芳樹のすごいところは、あれだけ売れてあれだけ続編を書きやすそうな「銀英伝」を正伝10巻、外伝5巻できちっとけじめをつけたところだと思う。これは真逆の方向性だが、死ぬ間際までグインサーガを描き続けた栗本薫と同じくらいスゲーことだと、俺は思っている。
だからこそ、銀英伝の2次創作は枚挙にいとまがない。世の中にあふれたくっているのだが…、深い愛とそれを表現できる技術をもった一流の小説家たちが創る二次創作作品は、レベルが違う。
何事につけても、深い愛情と卓越した技術によって生まれ出たものは、それだけで傑出しているということやね。
次回作はあるのだろうか?ポプラン、シェーンコップ、メルカッツ、ムライ…同盟側の愛すべき連中の物語と、愛せないトリューニヒトの銀河の1ページをぜひとも読んでみたいぞ! -
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天冥の標の第2巻で、年代的には1番早い時代が描かれる。2015年に、後に「冥王斑」と呼ばれる謎の疫病がパラオから発生する。そして世界に拡散していく。これは10年以上前に書かれた作品だが、新型コロナウイルスが大流行する現在の状況をそのまま写し出している。パンデックミック、手遅れになる患者たち、そして患者への偏見、差別など、これまでに見たような事態が描かれており、読むのがしんどくなる。
人類はなんとか押さえ込みに「成功」するのだが、それは冥王斑からの回復者に犠牲を強いるものだった。そして彼等の中からカリスマが誕生する。そして彼らは、自らを<救世群>と呼ぶことになる。彼らとの仲介者である<リエゾン・ドクター>も生まれる。第1巻に登場したフェオドールやダダーの由来も描かれる。あと羊もだ。 -
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ネタバレリアリティすごない???
これまでも圧倒的な世界観の作りこみ具合を見せられてきた読者でも更に驚くレベルのリアリティですよ。
この圧倒的世界観に、極限までに追い詰められた人々の心の機微が組み合わさって、これは現実の我々の未来を見ているのか?と思わざるを得ないような展開の連続だった。
親兄弟と引き離されて明日も生きられるのか分からない環境に閉じ込められた想像を絶するような辛さとか、全てが手探りで何が正解なのか誰もが分からない中で一からルールを作って統治しなければならない苦しみとか、生き残るためにその時の統治者に気に入られようと擦り寄るずるさとか、病気や事故や…そして人為的に亡くしてしまった人々への悼みと反省、誰かを愛し人肌を求めあう悦び、そして苦しみを乗り越えついに平穏無事な暮らしを手に入れられた安心感…こういう、人間の持ち合わせる普遍的な感情全てがここに語られていた。すごかった。
人類…無事に命を繋ぐことができた…んだけど、統治のカラクリを知るとこれは仮初めの平和でしかなくない…?
まだ救世群は太陽系をうろうろしているようだし、国民は偽史を信じさせられているままだ。ここからⅠに繋がっていくし、まだまだ争いは続くんだろうな… -
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これは10年かけても読むべき作品かもしれない。 #日本SF作家クラブ
2803年の植民星メニー・メニー・シープは植民「臨時」総督が代々統治するする世界。化石燃料はなく、移民船からの電力を主なエネルギー源としている。そして、現臨時総督は市中への電力供給の削減を推し進めている。
そんな中、謎の疫病が蔓延するのだが。疫病と聞くと、どうしても新型コロナウイルスを思い浮かべてしまう。だから読み始めたという面もあるが、本書での主題はこちらではないようだ(続巻ではいろいろあるようですが)。
臨時総督の「圧制」に対する革命運動が描かれることになるのだが、実は…という展開になり、最後は主だった登場人物が死んでしまい、生き残った者たちも…
これは2巻以降を読まずにはいられないだろう。 -
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6人の作家による銀河英雄伝説公式トリビュート・アンソロジー。
原作が完結してから何年?1989年の完結?30年近く経て、トリビュートされるのは衰えない人気の証明。
嬉しい。
タイトルに列伝1とあるからには、今後も刊行の予定があるという含みと思います。銀英伝の世界が、銀河の歴史が1ページ、また1ページと増えてゆくわけです。これは嬉しい。
「竜神滝の皇帝陛下」
エミールのラインハルトへの心酔っぷりを評して、釣りをしている時も宇宙を釣り上げているようでした、という一文があったことを思い出す。そこからふくまらせた作品。日常生活というか余暇を楽しむことができないラインハルト。彼の数少ない日常の光景を垣間見える、と言いたいところだが、そう上手くはいかない。違う作家の文言ではあるが、彼に『目指せ一般市民』はできないのである。
エミールがラインハルトとの約束を果たしている将来も伺えてニヤリとする。帝国一の信頼と忠節を持ち合わせる医師であったのでしょう。
「士官学校生の恋」
魔法使いは、いつでも魔法使いだった。ヤン艦隊に欠かすことのできない重要人物アレックス・キャゼルヌ。彼が風邪をひいたらイゼルローンが風邪をひく、そう言わしめたキャゼルヌ。その彼が頭が上がらない人物であるオルタンス夫人。彼女なくしては、ヤン艦隊は成り立たない。
女は何でも知っているのよ、とウインクされたら、ホールドアップ。探偵オルタンスの続編希望。
「ティエリー・ボナール最後の戦い」
題名のボナール少将の活躍と引き際の良さもいいのだが、在りし日のウランフと、未だ何者でもないルビンスキーの存在に、目を引かれてしまう。
ボナール少将の軍人としての終わり方は、ひょっとするとヤンが描いていた理想系なのでは。過不足なく職務を勤め、悠々自適な年金生活を送るという。二人の天才を筆頭に紡がれた、激動の時代が始まる寸前にリタイアするという、この時代で最も幸福な人生を送った人物の一人か、ティエリー・ボナール。
「レナーテは語る」
あのオーベルシュタインが犬を飼っているだと!あのオーベルシュタインがか。
その遠因になったであろう事件の物語。登場した最初から退場の最後まで憎まれ役を担い続けたオーベルシュタイン。人間臭さというものを感じるエピソードがほとんどなかった彼に、唯一あるのがあの犬。
また、彼を偲んで語り合うという構成がいい。これをロイエンタールあたりが見かけたら、なんと思ったことか。皮肉の一つでもいうのだろうけど、きっと無表情で受け流されてしまうのだろう。ヴァルハラでも、相変わらずの相容れない関係。
「星たちの舞台」
ちょっと入り込めなかった作品。個人的には、悪巧みに奔走するアッテンボローを見たかった。ヤンとヒュパティアの掛け合いに、何を見出すか読み取るか、が自分の中にあれば違った感想になっていたはず。
小さなものでも、誰かにとって大事な存在であれば蔑ろにしない、というヤンの主義、というほど大上段ではないが、はこの頃から変わらないのだと嬉しくなる。それを表現できるから、同盟と共にあったのだから。
「晴れあがる銀河」
ルドルフ登極直後の銀河帝国。晴れあがるというタイトルとは裏腹に、作品通じて感じるのは不透明な空気。新しい時代が始まったはずなのに、新たな時代の夜明けに立ち会っているはずなのに、闇が押し寄せてくるような不安。
その違和感を感じている少数の人間が、避難するべく選んだのが後の、という作品。
晴れあがってゆく世界に残った微かな影。その存在は、どぎつい光で宇宙を照らそうとしたルドルフの帝国に何をもたらすのか。その影の中には、深い闇が潜んでいるとは、知るはずもないこと。おもしろい。
ポプランを主人公にした作品がなかったのは意外。本伝後のポプランだと、宇宙海賊サーガになってしまいそうではある。
早く2巻を読みたい。さらなる銀河の歴史のページをめくりたい。 -
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普段アンソロジーは手にとらないのですが、銀英伝トリビュートとくれば話は別です。
ファン必読の書と言えるでしょう。
列伝1とあるので、今後2、3と続いてほしいです。
では、簡単なエピソード紹介を。
①竜神滝の皇帝陛下(小川一水さん)
ラインハルトの新婚旅行中の数日が描かれます。
僕は最後の作者自身による注釈を見るまで気づきませんでしたが、原案はあの超有名な漫画の1エピソードらしいです。
冒頭のエピグラフに続いて、史書あるいは史家の論文と思しき記述があってから本編に入るという銀英伝らしさ溢れる構成に、一話目から胸が熱くなります。ラストに年表形式で語られるエピローグもいい。
②士官学校生の恋(石持浅海さん)
正伝でのお気に入りキャラの一人であるアレックス・キャゼルヌが主人公の、なんと安楽椅子探偵もの。
といっても、キャゼルヌの役回りはワトソンで、安楽椅子探偵は彼に縁のある一人の女性キャラなんですけどね。
ヤン・ウェンリーはまだ士官学校生で、ロベール・ラップやジェシカ・エドワーズも登場します。
③ティエリー・ボナール最後の戦い(小前亮さん)
宇宙歴791年、帝国歴482年。銀河史に燦然と輝く二人の英雄が姿を現す少し前の、とある艦隊戦が描かれます。
ルビンスキーも、まだフェザーンの自治領主補佐官として登場し、彼らしい暗躍ぶりを示します。
④レナーテは語る(太田忠司さん)
ほんの短い間、オーベルシュタインの部下だった女性レナーテの回想によって語られる、彼女の同僚の死をめぐるミステリー。
鋭すぎる切れ物オーベルシュタインの意外な一面も窺える良編です。
⑤星たちの舞台(高島雄哉さん)
士官学校卒業の直前、音楽学校の女子学生との二人芝居の舞台に立つヤンが描かれます。
とっても青春してるエピソードです。
⑥晴れあがる銀河(藤井太洋さん)
皇帝ルドルフの治政下、正伝には名前も出てこない数名の人々が、ルドルフの命令によって航路図を作る様が描かれます。
合わせて帝国の優生思想政策の萌芽も描かれており、帝国内の一般人にとっての暗い未来を容易に予想させる一編でもあります。
ラスト一行はニヤリですね。 -
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コロナ禍でカミュやデフォーの『ペスト』や、小松左京の『復活の日』が大きく注目されたけど、この『天冥の標』の2巻もパンデミックを扱った作品ということで、注目されていた覚えがあります。
出版はおよそ10年前の2010年ですが、読んでみるとコロナ禍を予見したような場面の多さに驚きました。それでいて物語としても抜群に読み応えがある。
201X年、ミクロネシアの島国パラオで発生した謎の伝染病。その症状は凄まじく罹患者のほとんどが死に絶えてしまう。そして謎の病は世界中に波及していき……
シリーズ2作目となる作品ですが、舞台も時代も大きく変わります。前巻は2803年の植民星が舞台。この2巻目の舞台は2010年代の地球。物語のつながりもキーワードがわずかに共通している程度で、ほぼ単独作といっても差し支えない。コロナ禍だからこそ、この2巻から読んでみるのも、全然アリに思える。
1章で描かれるのは謎の伝染病の最前線で戦う医師たちの姿。その努力もむなしく患者は次々と命を落としていくものの、何とか生きようとする少女と懸命な医師たちの姿、そして病気の凶悪さによる緊張感や緊迫感がしっかりと描かれていて、最初から引き込まれます。
そして伝染病は世界に波及。また生存者は症状が治まっても、他者への感染のリスクがあることがわかり、パラオ島で病気を発症し、一人生き延びた千茅は隔離されることになる。
千茅を襲うのは孤独とネット上での誹謗中傷。両親を喪い、友人たちといた日常も帰ってこない。その切々とした感情は心に迫るし、コロナでの入院や自宅療養、そして感染者への差別も当たり前となってしまった現代では、より彼女の心情は想像しやすいのではないか、と思います。そんな彼女に訪れる唯一の救いは、読んでいるこちらも救われた気になる。
ウイルスの発生源を探す旅では、このシリーズの今後に関わってきそうなものが見えてくるものの、まだまだ謎の部分が多く、これは次巻以降に期待。そして感染が広がり生存者が増えてくる中で社会全体が、ウイルスへの恐怖と感染者・生存者への嫌悪を示すように……そして物語が向かう先は……
社会全体がパニック状態になっていく様子は、今のコロナ禍とつながっているところも非常に多い。感染者への差別もそうですが、ウイルス対策をした店や製品がアピールポイントになるといった記述が個人的に妙に印象的だった。
感染者差別や都市の封鎖、店の休業は想像しやすいけど、ウイルス対策がアピールポイントになる、という細かいところも取り上げて、しかもそれが今現実になっていると思うと、小説家の想像力の怖さすらも感じます。
ただ小川一水さんでも感染者どころか、医療従事者まで差別の対象になる未来まではこの小説の中では描けなかったみたいです。こんなところだけ、人間の行動や思考はフィクションを超えてしまう……
それはともかく、コロナ禍前に書かれたとは思えないリアリティと壮大なスケール感が物語全体にあるので、クライマックスで描かれる大量の感染者予備軍の人たちが検査の列に並んでいる姿であったり、生存者たちを待ち受ける過酷な運命も、一概に非現実的とは受け止められなかった。それがまた怖くもある。
「健康と安全を守るため」
その聞こえのいい言葉は、簡単に他者を切り捨てる理由に転嫁される。『天冥の標』2巻で描かれた物語は、ウイルスという目に見えない敵の前に、懸命に戦い生きる人たちの姿をとらえつつも、一方で人間はいかに浅はかで愚かで、そして無力で臆病なのかを改めて痛感させられました。二巻の副題である「救世群」の言葉の意味の皮肉さもまた胸に突き刺さる。
単独作としてはもちろん見事な出来でしたが、少しだけ示された“ダガー”のことや、病気の感染源の正体などシリーズ作としても、まだまだ謎の部分が多く今後の展開も楽しみ。1巻と2巻で物語の雰囲気がガラリと変わったので、続く3巻ではどんな世界観で、どんな物語が展開されるか大いに期待できそうです。