染井為人のレビュー一覧
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この作品はオーディブルで拝聴したが、オーディブル側では評価が4.8なのにもかかわらずこちらでは4を切っているということは、気軽に耳で聞いた方が楽しめる作品なのかもしれない。
なんにしても、私にとっては久々に一度も飽きずに最後まで楽しめた作品だった。オーディブルを聞くときはじっと座って聞くのもどうかと思うので、歩いたり作業をすることになるのだが、この本のおかげで歩数も作業も進んだ。そういうことか、と気が付いたのは本当に最後の方。気が付くまでも、気が付いてからも先が気になった。3人のお話をスピーディーに回していく形式も、登場人物の分かりやすさも、お手軽エンタメの要素なのだろう。
気軽に聞けるのに心地よい没入感。頭が疲れているのに本を読みたいときは、こういう作品がピッタリだと思った。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ小説「正体」の鏑木慶一が各地で使った偽名は、冤罪で犯人として捕まった人、冤罪ではないかと遺族が再審請求している事件の犯人の名前をもじった名前になっています。
・桜井翔司 介護施設(グループホーム「アオバ」
布川事件(桜井 昌司 氏)
事件発生: 1967年(昭和42年)、茨城県利根町布川で男性が殺害された強盗殺人事件
・遠藤雄一 工事現場(牛久の工事現場)
遠藤事件(遠藤 祐一 氏)
事件発生:1975年(昭和50年)
新潟ひき逃げ事件
・那須 隆士 WEBライター
弘前事件(那須 隆 氏)
事件発生: 1949年(昭和24年) 弘前大教授夫人殺し事件
・袴田勲 スキー場の旅館(山喜荘)
袴田事件(袴田 巖 氏)
1966年(昭和41年)、静岡県清水市(現在の静岡市清水区)で味噌製造会社の専務一家4人が殺害・放火された事件
・久間道慧 パン工場(カスガパン)/ 新興宗教施設
飯塚事件 (久間 三千年 氏)
関連事件: (1992年発生) 概要: 福岡県飯塚市で女児2名が殺害された事件 -
Posted by ブクログ
ネタバレ面白かったし、文章が頭に入ってきやすくて、するすると読めてしまった。
死刑囚鏑木と、工事現場の日雇い労働者、都会の編集者、スキー場の住み込みバイト、パン工場のパート、そして介護施設の職員。それぞれが鏑木との時間を共有するなかで彼への信頼や尊敬を抱き、皆がまさか彼に限って、と疑う。自分が関わった人間が殺人犯だなんて信じたくないだけかもしれないが、鏑木の人柄あってこそだったのだと私は思う。
きっと彼は本当に全良な人間で、ただあまりにも不幸な人間だったのだと思う。殺人犯だと間違えられたことも、唯一の目撃者がアルツハイマーだったことも、司法と政治の闇によって殺されてしまったことも。一応報われたとはいえ、悲しい結末だった。しかし、この作品はフィクションとはいえ、現実にもこのようなことはゼロではないのだろう。あまり詳しくはないし自分から調べたこともないが、これまでも冤罪で命を落とした人がいるというのは何度も聞いたことがある。
この本のどこかで「人間が判断するから間違いもある」とあったが、間違いなどあってよいのだろうか。人の命や尊厳がかかわるのに、ヒューマンエラーとして処理してしまっていいのだろうか。日本の司法は昔に比べたらきっと良くなってはいるものの、まだ完全なものだとは言えない。今もどこか遠くで冤罪に苦しむ人がいて、もしかしたら明日は我が身かもしれない。冤罪というものがなくなりますように、と思うことしかできないが、思い続けていたい。 -
Posted by ブクログ
世間を騒がせている半グレ集団「凶徒聯合」のメンバーが次々と殺害されていく。
警察が組織間の抗争と見て捜査を進める中、それを嘲笑うかのように仲間たちが疑心暗鬼に陥っていく様子から最後まで目が離せない。
従来のヤクザ組織とは違い、SNSや個別の利害関係による「横の繋がり」で成り立っている半グレ集団。その「正体がハッキリしない」不気味さや、統率がないからこそ一度狂った歯車が止められない恐怖が実にリアルだ。
「奴らを潰すなんて本当にできるのか」というもどかしさの中、追いつめられていくメンバーたちが、外では冷酷な連中でありながら、家に戻れば「家庭人としての素顔」を覗かせるのが何とも残酷で胸を締め付ける。人を傷つけておいて自分は安寧な家庭生活を送ろうなんて虫が良すぎる。そう頭では分かっていながらも、崩壊していく彼らの姿には複雑な人間ドラマの深みがある。
また、本作は現代のネット社会の歪みをも鋭くえぐり出す。悪の世界に足を踏み入れるのも、YouTubeで視聴者を増やしたい、イイねを欲しがるといった、承認欲求なのだと思い知らされ、背筋が凍る。
さらに胸に突き刺さるのは、警察の描写だ。全般的にどんな事件でも犯人を捕まえることばかりに重点を置き、かつての被害者たちの方を向いていない組織の疲弊と限界が見えてくる。
「復讐は鎮魂の儀式か」その問いの果てに待っていた結末を静かに読み終えたとき、悪の根は結局断ち切れないのではないかという絶望感とともに、「鎮魂」というタイトルがどこまでも空しく響き渡る。
読後も重厚な余韻がいつまでも消えない、今の時代を切り取った傑作サスペンスだろう。