染井為人のレビュー一覧
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染井為人さんの『正体』は、ページをめくる手が止まらない極上のサスペンスでした。
逃亡犯を追う物語でありながら、本当に描かれているのは「人は肩書きや過去だけで判断できるのか」という問いです。主人公が出会う人々との交流を通して、ニュースや世間のイメージだけでは見えない人間の姿が少しずつ浮かび上がり、善悪の境界について何度も考えさせられました。
章ごとに異なる視点で物語が進む構成も秀逸で、真実が少しずつ明らかになるたびに緊張感が高まります。ただの逃亡劇では終わらず、社会の偏見や司法のあり方、人を信じることの難しさまで描き切った読み応えのある一冊でした。
ラストは切なさと希望が入り混じり、読後もしばらく余韻が残ります。エンターテインメントとして面白いだけでなく、「正義とは何か」「正体とは何か」を静かに問いかけてくる、心に深く残る作品でした。 -
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染井為人『芸能界』光文社文庫。
元芸能マネージャーだったと言う染井為人による芸能界を舞台にした7編の短編を収録した短編集。
昭和から平成までは芸能人のスキャンダルも話題作りや芸の肥やしとばかりに何時までも問題視されることはなかった。しかし、今や芸能人がスキャンダルを起こせば、一部の例外を除いて、再び檜舞台に立つことは難しいようだ。昔なら事務所が揉み消したような不倫や性スキャンダル、暴力などが発覚すれば芸能人としては死刑判決を受けたに等しい。ちょっとした偏った発言や軽はずみの行動もネットで大炎上し、仕事を干されることもあるのだ。
この短編集では、そんな怖い芸能界の生々しいスキャンダルや事件を題材に7編全てが全く違う味付けのストーリーが描かれており、非常に面白かった。
『クランクアップ』。ありがちな設定と先の読めるストーリーだなと思いながら読み進んでみれば、見事に騙された。なかなか面白い。
黒い交際が問題になり、落ち目になった43歳の俳優の相原恭二は事務所を退所し、五十嵐という映画監督の誘いで、『リアルフェイク』という映画に主演することを承諾した。事務所の女社長の河村洋子とマネージャーの鈴木達雄は恭二を引き留めようとするが、恭二は事務所を退所してしまう。映画の撮影が進み、クランクアップの日、いよいよ映画はクライマックスを迎える。★★★★
『ファン』。まさかの真相に戦慄を覚えた。全てを語らず、ギリギリを攻めて、真相を悟らせるところが非常に巧い。
長い間、俳優の蒼生ちづるのマネージャーを務めていた坂田純一は若手の二葉にちづるのマネージャーを任せ、自らはピン芸人の古島和哉とアイドルグループの夢色キャンバスを務めることになった。しかし、古島が不倫スキャンダルを起こし、仕事を干されてしまう。そんな中、夢色キャンバスが念願の単独ライブを成功させるが、リーダーのアイノがファンから贈られた大きなぬいぐるみに仕掛けられた盗聴器によりスキャンダルが発覚し、僅か1週間で解散に追い込まれる。★★★★★
『いいね』。芸能人のSNSが炎上することは頻繁にあるようだ。また、一般人も含めて、SNS依存症に陥ることも多いようだ。たまに東京などで電車に乗れば、皆がスマホを凝視している姿を目にして、背筋が寒くなる。何時の間にか人間がスマホに支配されているのだ。将来、人間はAIに支配されるとか騒いでいる以前の話だ。この短編では、といった世相を背景にSNS依存症になったベテラン女優の運命を描いており、面白い。
若者たちから認知されていないことに気付き、危機感を覚えて、インスタグラムを始めたベテラン女優の石川恵子。コロナ禍の中、恵子が友人とレストランで食事する様子をインスタグラムに投稿するとたちまち炎上してしまう。それを知った芸能界のゴッドファーザーとの異名を持つ事務所の会長の桑原一騎は、恵子にSNSの使用を禁じるが、恵子は構わずにインスタグラムに投稿を続ける。★★★★★
『終幕』。中年女性が容姿端麗な若い男性を侍らせて、と言えば、あの某大手芸能事務所を思い出す。この短編のストーリーは大方予想がついていたのだが、その予想を覆す驚愕の結末が待ち受けていた。してやられたという感じが心地良い。
若い頃から苦労を重ね、多くの男性を騙して資金を集めて来た47歳の叶野花江は、7年前に容姿端麗な俳優の卵を集めたミュージカル『ボーイズランド』を立ち上げ、大成功させる。今では若手男性俳優の登竜門となった『ボーイズランド』のオーディションには多くの容姿端麗な若手俳優が殺到するまでになった。『ボーイズランド』に採用された俳優の中に少し背が低く線の細い22歳の中町壮太という俳優が居り、花江のことが好きだと言って、求婚する。突然の幸運に舞い上がった花江は壮太に『ボーイズランド』の主役の座を提供する。★★★★★
『相方』。ここに来ていきなりの人情噺に、思わず涙がこぼれた。コンプライアンスが叫ばれる昨今、お笑い芸人も容姿では笑いが取れず、苦しんでいるようだ。この短編にも書かれている通り、ネットが普及し、一般人が言いたいことを自由に発言出来るようになったこともあるのだろう。昭和から平成にかけての言いたい放題の毒舌漫才が懐かしい。
芸歴30年のミチオとノリオのベテラン漫才コンビ『ミチノリ』はコロナ対策で無観客の中、漫才を披露しながら虚しさを覚える。さらには、ハゲ、ブス、デブといった容姿で笑いを取るなとディレクターに注意される。以降、『ミチノリ』は漫才でもバラエティでもスベりまくる。特にネタを書き、『ミチノリ』を支えているのは自分だと自負しているミチオの落ち込み方は酷く、まるでそれを見ていたかのように30年間途絶えたことの無い励ましのファンレターが届く。★★★★★
『ほんの気の迷い』。まさか、そう来るとは思わなかった。アイドル俳優も第一線で活躍し続けるためには相当な無理をしているのだろう。
25歳の田中勇太は本来の自分を偽り、アイドル俳優の栗原翔真を演じていた。ある日、結婚を間近に控える姉から電話があり、新興宗教にのめり込んだ母親がいよいよおかしいと伝えられる。勇太には年子の弟がおり、兄の栗原翔真を利用し、女性を誑かすなど問題を起こしていた。★★★★
『娘は女優』。芸能人になるには実力よりも大きな運と努力が必要なのだろう。震災の被災地を舞台にするのは少々卑怯な感じもするが、心温まる短編だった。
三陸沿岸の小さな町で細々と村田サイクルを営む村田幹一は津波で妻を失い、11年の間、娘の皆愛と暮らしていた。2ヶ月前、皆愛が中学校の修学旅行で東京に行った時、芸能事務所の柊木にスカウトされる。少しずつメディアにも露出が増える皆愛だったが、幹一は娘を奪われるような複雑な気持ちを抱えていた。★★★★
本体価格820円
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ネタバレ最初は彼が、本当に人殺しなのかと思っていた。
でも工事現場にいた時から人の良さや正義感を感じ、きっと何かどうしようもない事情があって罪を犯したのだろうと思っていた。
その後読み続けて、彼は姿や名前は変えるけども、根本の性格は一切変えていないことに気づく。正義感は発揮するし、なんなら「スノーボードを1度だけやった」「好きな人と一緒に住んでた」なんて自分の特定につながるようなことを言ってしまう。
もしかして、彼は殺してないんじゃないか?凶悪犯ならば性格ごと変えるんじゃないか?そんな気持ちがだんだんと大きくなってきた。
そして、ラスト。彼の目的は逃げることではなく、立ち向かうことだったのだ。立ち向かうためには、なんとかして井尾由子のもとへ辿り着かなくてはならなかった。
彼が亡くならなければ、自分の潔白を証明したあとに、これまで一緒に働いた和也や淳二、節枝に必ず会いに行っていた。そして今度はカップルとして沙耶香と一緒に暮らしていたはずだ。
本当に胸が張り裂ける思いだけど、彼の死とこの本の存在をもって、冤罪がこの世からなくなることを願います。
※追伸: 調べたら映画版では鏑木は死なずに、生きて無罪判決を聞けるというハッピーエンドらしい。 -
Posted by ブクログ
まず、読みながら一番に思ったのが、この物語の構成だった。
とても上手く組み立てられているなぁ、と。
鏑木慶一の脱獄からの逃亡生活の物語である。
たくさんの人と関わり、その中で絆が生まれていく。私も引き込まれてしまった。
どんどん読み進めることができるぐらい、描写に臨場感がある。
読んでいる私まで、鏑木慶一に感情が入ってしまって、心が辛くなる気持ちさえ持った。
雪山で死のうとした渡辺淳二とのシーンでは、本当に切ない気持ちになった。鏑木慶一はどんな気持ちで生きてきたのかが窺える場面、そして彼の優しさと強さ、温かさを一番感じられた。
警察に追われ、切迫した場面は私までドキドキした。
登場人物たちの葛藤も上手く描かれていた。
最後はなんか納得出来ない部分もあるが、著者の「あとがき」を読んで、流石!と思った。結末があれでなければならなかったのか、と。
人の人生、社会の問題、信じる強さ、温かさや優しさ、時には腹立たしさ…色んな気持ちにさせてもらえた一冊だった。
そして、現実問題として「冤罪」こそが罪であり、悪だと感じた。
人の人生まで理不尽に取り上げられる、恐ろしくて憎むべきもの。
つくづくそう感じた。 -
Posted by ブクログ
現在の日本が抱える社会問題に切り込んだ内容で、とても興味深く読みました。
特に印象に残ったのは、「ひきこもり」という、実は意外と身近にある問題です。最近では「知人の家族がひきこもっている」といった話を耳にすることもあり、決して遠い世界の話ではないのだと感じます。
この作品では、ひきこもる本人が抱える葛藤だけでなく、その家族が何を考え、どう向き合っていくのかという苦悩も、とてもリアルに描かれていました。読んでいると、著者がこのテーマについてかなり丁寧に取材を重ねたのではないか、と感じる場面も多くありました。
そして、ひきこもった人たちがどのように社会とのつながりを取り戻していくのか、そもそも「社会に戻る」とはどういうことなのか。そんなことについても考えさせられる作品でした。
終盤はテンポよく物語が進み、私はAudibleで聴きましたが、最後まで一気に楽しむことができました。
純粋にミステリーや小説としての面白さだけを求めるのであれば、ほかにも選択肢はあるかもしれません。
でも、この作品の魅力はそこだけではなく、「ひきこもり」という現代日本の社会問題を、小説を通して私たちに考えさせてくれるところにあると思います。
社会問題を扱った作品に興味がある方には、ぜひおすすめしたい一冊です。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ展開が早くて、文章もうまくわくわくしながら最後まで読んだ。
この著者悪い夏に続いて面白かった。
最期終わり方はごちゃごちゃっと進んだが僕はこんなのも好きだ。
<書評より>
結婚アドバイザーを務めるシングルマザーの亜紀は、
クレーマー会員とトラブルを起こして以来、悪質な嫌がらせに苦しんでいた。
息子が通う小学校ではクラスメイトが誘拐される。
担任の祐介は対応に追われる中、
クラスの秀才・莉世から推理を聞かされる――「あの女ならやりかねない」。
その後莉世も何者かに襲われ意識不明に。
亜紀と祐介を追い詰める異常犯罪の数々。
街に潜む“化け物”は一体誰なのか? -
Posted by ブクログ
誰がどうすれば良かったのかわからない、正解のない問題のような物語でした。
他人のことを信じることが難しいのはもちろんのこと、時として自分すら信じられないこともあると。
とはいえ人は、知らないこと、わからないことを恐れて排除しようとし、分かりやすく納得しやすい手頃な理由があればそれを真実のように思ってしまうことも存分にあります。
気を付けて避けられるものでもないですが、加害者にも被害者にもなりたくないものです。
理不尽や不条理は当たり前のように転がっていて、それに見舞われたとき、自分ならどうするか。
どんな結末になろうとも自分だけは己のことを誇らしく思えるように生きたいです。