時は明治十二年、京都〜大津間を結ぶ逢坂山トンネル開通工事を巡る怪事件に臨むのは元八丁堀同心と見習い鉄道技士の異色コンビ。地味で淡白な作風ではあるが、読み易い文章とテンポの良い筋運びで思わず一気読み。興味を惹かれる設定だけに、欲を言えばもっと物語の奥行きが欲しかったが、著者の実直さが感じられる爽快な作品だった。探偵コンビの後ろ盾となる【日本の鉄道の父】こと井上勝のキャラクターが二人を食う程にパワフルで豪快。善良な人物揃いの脇役陣を少々物足りなく思うものの、日本人単独での鉄道開通に挑む先人達の姿が眩しい限り。