鉄道を扱った作品が多い山本さん。今回は昭和11年の満州鉄道舞台にしたエンタメ作品。
始まりは南満州鉄道社内で度々起こる書類紛失事件。再び出てくる書類もあればそのまま行方不明のものも。ただ紛失した書類は大した内容ではない。
資料課所属、でも実は内部調査の秘密要員・詫間耕一は総裁・松岡洋右の命で調査をすることに。松岡が雇っている密偵・辻村と書類を持ち出した可能性がある大陸浪人の元へ行くと、すでに殺されていた。彼と接触のあるロシア人を追って哈爾浜(ハルビン)行き欧亜特急に乗ると、車内には憲兵隊やら特務機関やら軍の人間が沢山と謎の美女がいた。そして事件が…。
話があれよあれよと大きくなっていき、始まりが何だったか忘れそうになるほど次々事件が起きていく。
鍵を握っていそうな人物が消され、不可解な状況で殺され、肝心の書類の行方も分からない。
大した意味を持たないはずの書類に何故か軍やらスパイやらが群がるのか、そちらが気になって仕方ない。
こうした軍絡みのスパイだの防諜だのという話は陰鬱な方向に行きそうだが、予想した感じとは違っていた。
昭和11年という時代設定が肝なのかも知れない。満州ではロシアよりも日本が影響力を強めているが、ロシアも諦めていないし現地の民族始め漢人、満人らの抗日活動も過激になっている。
主人公の詫間や辻村は日本の立ち位置は理解しているが侵略者という意識はない。
松岡は満鉄が関東軍指揮下に置かれようとする組織改革を苦々しく感じているが、外国に向ける目は軍や詫間らと同じように見える。
その時代を知らない私としては満州国は様々な国や民族がごった煮された複雑な環境というイメージだが、彼らにとってはここは日本なのだ。
憲兵や軍のやり方には嫌気がさしていても、満鉄や国の方針には従っている。
その分、車内の不可解状況は何なのかとか、犯人はどういう人物なのかとか、スパイはどうやって書類を秘密裏に運んだのかとか、そうしたミステリー要素に重点が置いてある。
原点である書類紛失事件、それも大した意味のない書類がどうこの大事件に繋がるのかという部分を単純に楽しんだ。
皆が周囲を出し抜こうと知恵を巡らせ体を張り、様々な人間と渡り合い…という部分は面白いところと苦々しいところの両面があった。
最後のシーンは唯一、後の歴史に繋がる部分だろうか。