柞刈湯葉のレビュー一覧
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「プロローグ」は青函トンネルの作業現場から始まる。そこはJR北日本が「横浜駅」と戦っている前線。
この本は2017年12月24日に販売された「横浜駅SF」の後、2018年8月10日に発売された番外編の短編集。収録内容のタイトルは以下の7つ。
●プロローグ
●瀬戸内・京都編 A Harash Mistress
●群馬編 Self-Reproduce ENGINE
●熊本編 Confectionery 451
●岩手編 Scabbers Live in Your Brain
●エキナカ都市案内
●あとがき
自己増殖を繰り返して日本全土を覆いつくさんばかりの横浜駅だけれど、海中を侵略することは -
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横浜駅が無限増殖するSFです。奇想天外摩訶不思議。
超高度文明から100年以上経った未来の日本が舞台です。
リニアモーターカーが走っていた頃が「超高度文明」と呼ばれる時代でした。しかし、その後の100年で世界戦争を経験し、文明は大きく後退します。社会の活気は失われ、人々の生活は圧倒的な生産力を誇る横浜駅にすっかり掌握されてしまいました。
つまり、日本全国大体横浜駅。
物語の冒頭は主人公が富士山を眺めて、あー、今年も横浜駅のエスカレーターが斜面を覆って富士山が黒く見えるなー、と季節感を感じているところから始まります。エスカレーターで山肌が黒く見える富士山は夏の訪れなんだそうです。
この -
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牛は食べたいが、動物は殺したくない。そんな人類の夢が実現した未来を描く表題作『まず牛を球とします』他、全15作品収録のSF作品集。
心に刺さるSF短編集です。
「世界を幸福にする仕事」をする科学者の話や、現代の箱男の話、田中という姓が差別される世界の話など、どの話も現実の延長線上や、ほんの少しズレた未来の話のように思えて、奇妙で落ち着かない気分になります。
好きだった話は、先述の世界を幸福にする科学者のはなし、『ボーナス・トラック・クロモソーム』。淡々としていてちょっと疲れていて、でも前向きな一人称語りが癖になる。
退屈な話の代表といえば数学と他人の夢、を合わせた話『数を食べる』も面白 -
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短編集。収録作品は以下の6編。
●冬の時代
●たのしい超監視社会
●人間たちの話
●宇宙ラーメン重油味
●記念日
●No Reaction
この中で元々読んだことがある作品がある。2025年4月に読んだ『ベストSF2021』(竹書房)というアンソロジーに『人間たちの話』が入ってた。この短編を単独で読んだとき「火星に生命がいるかというSF的な話の合間に、人間関係が希薄な30歳独身男性と12歳少年が家族になろうとする。いいはなし。」という印象を持った。でも、この作品は元々アンソロジーのためではなく2020年に出版された『人間たちの話』というこの短編集のために書き下ろしされた作品だったらしい。
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ネタバレ『記念日』はカフカ『変身』と村上春樹『TVピープル』と似た香りがする。といっても、冒頭の不条理さと巨大な石を他人が意に介さない挙動にそれを感じただけであるが。
『変身』は10代に読んだことあまりにも有名な書き出ししか印象に残っておらず、結末の方向性(ハッピーorダイ)も覚えていないにもかかわらず引き合いに出す豪胆さ。
『TVピープル』は直近に読んでいるし、あるPodcastでも話題に出ているのを聴いてる。ラストの不穏さが不気味である。
翻って『記念日』はなぜか前向き。明らかな不条理に巻き込まれているのに、最後には親近感すら感じておりなんだかハッピーな終結。岩の存在によって正気のない世捨て人 -
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