「これ、重油だよね?」
「ええ。疎水性体質のお客さんにいいと思いましてね」
「やっぱりなあ。ガソリンじゃ味が軽すぎると思ってたんだよ。うれしいなあ」
という、太陽系の片隅に浮かぶなんでも作ります系ラーメン屋の短編『宇宙ラーメン重油味』ほか5篇収録。
コンセプトは奇書だけど内容は堅実な技術系SF小説
...続きを読む、「横浜駅SF」の著者イスカリユバ先生の初短編集です。
元大学教員らしい(?)理屈っぽさが魅力の作家さんです。
宇宙ラーメンが一番好き。
いろんな異星人に飯を食わせるお話。
「たのしい超監視社会」
テクノロジーで一挙手一投足がすべて監視されている社会で、それが普通のこととして生まれ育っている若者たちが楽しく生きてる話。
路上で突然始まる「三分間ヘイティング」で敵対国家のヘイトを叫ぶ群衆には憎しみの感情はまったくなくて、単にゲームとしてそれをやっていたり。
「冬の時代」
全球凍結してるっぽい未来の地球を旅する二人の少年の話。二人が旅の途中で自律移動している車の中で冬眠している女の子を発見して…特になにも起きず(起こしたりせず)旅が続くのが好き。いやそこから物語が始まるんじゃないのか!ってとこで終わる。もっと読みたい。
「人間たちの話」
表題作にして一番長いお話だけど上手く消化出来なかった。
また読み返したい。
「記念日」
ある日自宅に帰ると部屋の中央に大きな岩がある。ただそこにある岩と共に暮らすシュールSF。ルネマグリットの絵画「記念日」を検索して横目に読む短編。
「No Reaction」
世界と全く相互作用を及ぼすことのできない真の透明人間が主人公。初期のネット投稿作っぽさが今の作品と少し違う雰囲気になっている。
自分から触ったり見たりすることは出来るが作用反作用もなく視覚以外のなにものによっても知覚されない彼は実存的存在なのか。それは読者のみぞ知る。